artscapeレビュー
ULTra PRTシステム
2009年12月15日号
将来の公共交通システムに、新しい可能性が現われた。イギリスのヒースロー空港ターミナル5にて、2010年から運用を予定している「URTra PRT SYSTEM」(PRT)である。4人乗りの個人型無人高速交通であり、丸みを帯びた「ポッド」と呼ばれる小さな車体に乗って、タッチパネルで目的地を選択すると移動を始める。従来の公共交通といえば大量輸送システムを前提としていたのに対し、PRTは個人を前提とした公共交通である点で画期的である(PRT=Personal Rapid Transit:個人高速交通)。ヒースローでは約3.5kmの距離を移動し、軌道上も軌道のない場所もセンサーで感知して走る。
開発を行っているAdvanced Transport Systems社は、ヒースロー空港のほかにもバース、カーディフ、コルビーなどでのシミュレーションを行なっており、一人当たり移動時間短縮、交通混雑解消、CO2削減などの利益が見込まれるほか、特にコルビーではLRT(Light Rail Transit: 軽量軌道交通)と比較して、PRTがさまざまな点で利点を持つという試算結果が出ている。LRTは特に近年フランスをはじめとして、日本でも都市再生の有効な手段として注目されてきただけに、それ以上の利点をもつ可能性があるPRTの存在は、都市の未来にとって無視できないであろう。
なお筆者は、東芝エレベータ株式会社(http://www.toshiba-elevator.co.jp/)と協働し、今村創平、田中元子、大西正紀各氏とともに、PRTを用いた熱海の都市プランを提案している。日本ではもっとも早いPRT導入提案ではないだろうか(少なくともネットではほかに確認できなかった)。LRTを導入できるほど人口が多くなく、また起伏が激しくタクシーに依存した交通状況をもつ熱海という街に対し、公共交通と個人交通の利点をもつPRTを導入し、開発型ではない形で、冷え切った観光産業とともに街を活性化しようという計画である。
写真:Advanced Transport Systems Ltd.
www.atsltd.co.uk
2009/11/01(日)(松田達)