2021年09月15日号
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artscapeレビュー

東松照明「色相と肌触り 長崎」

2009年12月15日号

会期:2009/10/03~2009/11/29

長崎県美術館[長崎県]

東松照明の展覧会を会期ぎりぎりで見ることができた。わざわざ自費で長崎まで出かけた甲斐があったというもの。なんとも凄みのある展示に衝撃を受けた。
総点数310点。まず会場を埋め尽くす作品数に圧倒される。展示のスタイルは、このところ東松がずっと試みている、撮影年代、テーマごとのまとまりを無視して、全作品をシャッフルして撒き散らす「マンダラ」形式だが、それがこれまでで一番うまくいっているのではないだろうか。1960年代以来撮り続けている長崎原爆の被災者たちのポートレート、そして長崎国際文化会館(現長崎原爆資料館)に保存されている、熱でドロドロに溶けたビール瓶や原爆投下の「11時02分」を示したまま止まっている時計などの遺品・資料の写真などが、長崎の「町歩き」のスナップと混じり合って展示されている。そのことによって、写真に写し出されている時空間に奥行きと歪みが生じ、見る者を引き裂き、連れ回し、ひっさらってしまうようなパワーが生じてくる。さらにチャーミングだがやや不気味でもある、半導体などの電子部品で作られた虫のようなオブジェ(「キャラクターP」)がその間を動きまわり、一つの方向に流れていこうとする観客の意識を攪乱する。それらのバラバラな写真群を、それでも強力に結びあわせているものこそ、東松のたぐいまれな眼力、画像の構築力だろう。まったく衰えを見せないスナップショットの切れ味は、驚嘆に値する。
東松が完全にデジタル・プリントに移行したのは2000年代以降だが、ここでも旺盛な実験意欲を発揮している。ハレーションを起こすような緑と赤の発色にはかなりの違和感があるが、それは当然ながら確信犯的に色味を変化させているのだろう。そのことによって、長崎という街が長い時間を駆けて醸成してきた、エキゾチックで混乱した「色相」の構造がくっきりと浮かび上がってくる。さらに衝撃的なのは、「熱線跡を示す孟宗竹」や「被爆した山モミジ」を撮影した画像をデジタル処理して、現在の風景と合成する操作までおこなっているということだ。「ドキュメンタリー写真家」の枠組みを踏み越えようとするようなこれらの作品も、東松が今なお現在進行形の写真の創造者としての意識を保ち続けていることを示している。

2009/11/28(土)(飯沢耕太郎)

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