artscapeレビュー
象設計集団+アトリエ・モビル《名護市庁舎》
2009年12月15日号
[沖縄県]
竣工:1981年
象設計集団の建築を二つ見た。ひとつは《今帰仁村中央公民館》(1975)であり、もうひとつが《名護市庁舎》(1981)である。名護市庁舎の原型のひとつは《今帰仁村中央公民館》にあるだろう。平屋でコの字型に中庭を囲むプランと回廊を構成する赤い列柱。当時、ブーゲンビリアでおおわれていた屋根と、貝殻が埋め込まれてできた文字。沖縄という風土に触発されてできた建築であるといえよう。しかし《名護市庁舎》では、単に地域主義的というだけではなく、建築としてもうひとつの抽象度を獲得していたように思えた。風の道を取り入れたこと、シーサーやアサギテラス(アサギは沖縄古来の神を招いて祭祀を行なう場所のこと)、パーゴラなど、沖縄的な建築言語を取り入れたことは、当然この建築をこの場所にしかないものにしていたが、そのテラスや内部空間、また吉阪隆正ゆずりであるのかル・コルビュジエ的なスロープを歩いた経験は、空間体験として新しい何かを感じた。それが何であるのかうまく言語化するのは難しいが、内部においても外部においても多孔質で開口率の高い壁や天井のあり方が、独自の空間の質を生み出していたのではないかと思われた。
2009/10/27(火)(松田達)