artscapeレビュー

2012年01月15日号のレビュー/プレビュー

ストリート・ライフ ヨーロッパを見つめた7人の写真家たち

会期:2011/12/10~2012/01/29

東京都写真美術館 3階展示室[東京都]

東京都写真美術館のコレクション展というと、総花的な印象を与えるものが多くなる。ひとつのテーマに沿った作品を万遍なく集めることを目指すと、各写真家の仕事から1点か2点ということになるので、焦点がはっきりしない展示になりがちなのだ。その点においては、今回の「ストリート・ライフ ヨーロッパを見つめた7人の写真家たち」はうまくいっていたと思う。ジョン・トムソン(英)、トーマス・アナン(英)、ビル・ブラント(英)、ウジェーヌ・アジェ(仏)、ブラッサイ(ハンガリー→仏)、ハインリッヒ・ツィレ(独)、アウグスト・ザンダー(独)の7人の写真家に絞り込み、その代表作をじっくりと見せることで、まとまりのある展覧会になっていたからだ。やや地味なトムソン、アナン、ツィレなどの作品は、こういう機会でないとなかなか展示できないのではないだろうか。さらにトムソンの『ロンドンの街頭生活』(1877)のウッドベリー・タイプ、アナンの『グラスゴーの古い小路と街路』(1900)のフォト・グラビア印刷、アジェのプリントの鶏卵紙など、19世紀から20世紀初頭にかけての印刷技法や印画紙の作例を実際に見ることができたのもとてもよかったと思う。これら、現在は使われていない古技法の、独特の質感を確認することができる機会はなかなかないからだ。ただいつも感じることだが、このような啓蒙的な展覧会では、もう少し写真のキャプションや解説の文章に気配りしてほしいと思う。観客にわかりやすく、丁寧に伝えようという意欲があまり感じられないのが残念だ。

2011/12/14(水)(飯沢耕太郎)

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日本の新進作家展 vol.10 写真の飛躍

会期:2011/12/10~2012/01/29

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

毎年開催されている東京都写真美術館での「日本の新進作家」展も、いつのまにか10回目を迎えていた。これまではどちらかといえば、すでに認知されている写真家の仕事の後追いの印象があったのだが、今回の展示ではそのあたりがかなりいい方向に動いてきている。添野和幸、西野壮平、北野謙、佐野陽一、春木麻衣子という顔ぶれを見ると、いま力を伸ばしつつある写真作家が順当に選ばれているように思える。北野、春木はそれぞれ個展を開催中でもある。「新進」というよりは「中堅」に近い人選だが、1968年生まれの添野、北野から、1982年生まれの西野までの世代の仕事は、まだ一般には広く知られていないので、タイミングのいい展覧会になっているのではないだろうか。今回のタイトルの意味はややわかりにくいが「フォトグラム、ピンホールカメラ、多重露光、露出といった、写真の根源的な手法や特性に着目しながら多彩な作品を制作」している作家を集めたということのようだ。たしかにデジタル化の進行とともに、逆に写真特有の手法にこだわる者も増えてきている。ノスタルジックな意味合いよりは、デジタル・メディアではむしろ表現不可能な領域が、まだまだたくさんあることが少しずつ見えてきているということだろう。さらに西野の緻密なフォト・コラージュや、北野の数十人の人物のポートレートを多重露光で重ね合わせていくプロセスなど、「手技」の部分が強調されている作品が多いのも今回の特徴だ。その、ある意味で手工芸的な作品の肌合いは、これから先の「日本写真」を特徴づけていく重要なファクターになっていきそうだ。

2011/12/14(水)(飯沢耕太郎)

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中銀カプセルタワービル 住宅カプセル

会期:2011/09/17~2012/01/15

六本木ヒルズの敷地内[東京都]

森美術館の「メタボリズムの未来都市」展にあわせて、黒川紀章による中銀カプセルタワーのユニットが六本木ヒルズの屋外に設置された。しかし、若手建築家との「メタボリズムのDNA」シンポジウムの打ち上げで、会期が終わった後に行く先がないと聞き、同じく黒川が設計した埼玉県立近代美術館につないだところ、無事に受入れが決まった。アスベストの問題もあり、中銀カプセルタワーが残るかどうかわからない状態であるが、思いがけず、現代建築の部分保存に貢献することができた。

2011/12/15(木)(五十嵐太郎)

アルスエレクトロニカ「Poetry of Motion」展

会期:2011/12/10~2011/12/18

ブリーゼブリーゼ 1Fメディアコート[大阪府]

オーストリア、リンツ市に本拠を置くアルスエレクトロニカは、1979年、メディア・アートのフェスティバルとして始まった。87年以来「アルス・エレクトロニカ賞」を表彰──今年度の日本からの受賞者には大阪大学の平田オリザ氏・石黒浩氏らがいる──、96年からは「最先端テクノロジーとアート、社会との融合から見える未来のための体験型アートセンター」であるアルスエレクトロニカ・センターと研究所「フューチャーラボ」を運営している。本展示イベントは、私たちがいま・ここにいる世界の、「動きの詩」を体感しようというコンセプトのもとに行なわれた。ウルスラ・ノイゲバウアーによる《Tour en l'air》は、左の写真にあるとおり、床まである長いドレスがそれぞれ時間をおいて高速回転する。そのほか、補聴器で拾われた自分の鼓動を体感できる《Heartbeat Picnic》や、カメラがとらえた場内の観客をスクリーン上の物語的世界に取り込む《Innocence》、来場者の「影」をシールにする《Shadowgram》など、最新技術・機器を用いたインタラクティブな参加型アート/デザイン作品ばかり。ただ、今回の展示会場は小規模すぎて、メディア・アートにおける社会的機能・発信力を重視する、アルスエレクトロニカの本領を十分に伝えきれなかったのが残念。ミュージアムという場での本格的な紹介の機会を待ちたい。[竹内有子]

2011/12/16(金)(SYNK)

丸山常生展──install-action(インスタラクション)という方法

会期:2011/12/12~2011/12/25

トキ・アートスペース[東京都]

壁には東北の被災地の風景写真、被災地で行なった本人のパフォーマンス写真、会期初日にギャラリー内で見せたパフォーマンス写真などが貼ってあり、そのときに使ったとおぼしきテーブルや椅子などが置かれている。「インスタラクション」というくらいだから、パフォーマンス(アクション)を見ないでインスタレーションだけ論じてもあまり意味はないだろう。それよりこれを見ながら思ったのは、被災地をモチーフにした作品の場合、あまりに手際よくきれいにまとめたり、わかりやすく伝えようとしたりすると逆に違和感を覚えるというか、うさん臭ささえ感じてしまうということだ。丸山がそうだというのではなく(よくも悪くもきれいにまとまってないし、わかりやすくもない)、一般論ですが。戦場カメラマンは現場で色彩や構図のことをどれほど意識するのだろう、なんて考えてしまった。

2011/12/16(金)(村田真)

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