artscapeレビュー

2012年01月15日号のレビュー/プレビュー

ウィーン工房1903-1932─モダニズムの装飾的精神

会期:2011/10/08~2011/12/20

パナソニック電工 汐留ミュージアム[東京都]

近代とはいえ、ホフマンらが志向したものは、必ずしも純粋に抽象的な建築の空間ではないことがわかる。サブタイトルに「モダニズムの装飾的精神」と掲げているように、さまざまにデザインされた具体的な家具、照明、食器、文具、装飾、衣服に囲まれた艶のある場だった。その直後は前近代の名残とされたのかもしれない。だが、今から見ると、この時代だからこそ手がけることができた装飾は、かけがえのないものとして輝いている。

2011/12/16(金)(五十嵐太郎)

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妹島和世《SHIBAURA HOUSE》

[東京都]

妹島和世の透明建築である。ガラス張りで、まる見えの空間。さらに1階は地域に開放し、プログラムも開く。妹島の新しい感覚が実験的な公共施設だけではなく、都心のビルなど、現実の社会でも登場している。これが増えていけば、世界は変わるかもしれない。

2011/12/16(金)(五十嵐太郎)

杉浦康平・脈動する本──デザインの手法と哲学

会期:2011/10/21~2011/12/17

武蔵野美術大学 美術館[東京都]

武蔵野美術大学美術館は、2008年から3年をかけてデザイナー杉浦康平から全作品の寄贈を受けた。この展覧会では寄贈品のなかからブックデザインの仕事を中心に約1,000点を紹介する。会場では、本に見立てたであろう厚みのある解説パネルを中心に、デザイン手法の変遷ごとに杉浦の半世紀にわたる仕事が展示されている。膨大な展示品のなかに、杉浦の仕事とは知らずに手にとったことがある本が多数あることに気づかされる。書店の棚で私たちに訴えてくる文字と図像。装幀の仕事は一見地味であるが、その印象は人々の心に刻み込まれている。展示会場の構成にも杉浦自身が関わっている。杉浦のブックデザイン同様、そこには全体としてのパターン、秩序があるにもかかわらず、個々はそのなかに埋もれない。展示の島は一つひとつが独自で、それぞれが心に刺さる棘を持つ。
 展示された作品の数々にも圧倒されるが、図録もまた圧巻である。収録されている小さな図版をルーペで覗くと、一文字一文字を読むことができるのだ! 緻密に計算された杉浦デザインの構造を明らかにする鈴木一誌氏の分析、杉浦康平の仕事の進め方についてついて記した松岡正剛氏の証言も興味深い。松岡氏を含め、編集者たちは新しい本を創りだしてくれることを期待して杉浦に仕事を依頼するのだが、その一方で杉浦がどのような大胆な提案を行なうか恐怖していたという。時間、コスト、複雑な印刷指定や造本技術、編集者の作業負担……。そうした無数の障壁、編集者にとっての恐怖を乗り越えたところに、誰も見たことのないデザインが生まれるのである。
 同時期にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「杉浦康平・マンダラ発光」展(2011/12/01~12/24)は、映像と音響によって体験する杉浦デザインの世界。これもまた異色のデザイン展であった。[新川徳彦]

2011/12/17(土)(SYNK)

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The nm2 open atelier 001

会期:2011/12/22~2011/12/24

nm2(エヌエムスクエア)[大阪府]

作家の中島麦さん、森村誠さん、奈良市にあるGallery OUT of PLACEのギャラリスト野村ヨシノリさんの三人が大阪天満橋に合同アトリエを構え、そのお披露目として3日間アトリエを解放するという案内が届いたので訪ねた。駅から歩いて5分ほどの場所にあるビルの4階。中島麦さんの制作室には、小さなドローイング作品が壁面にずらりと展示され、中央の小さな部屋では、野村さんが推薦するアーティストの映像作品の上映されていた。森村誠さんの作品は実はこの日はじめて知ったのだが、ある特定の文字だけを残し、ほかの文字をすべて白く塗りつぶしたり、切り取ったりした本や雑誌を用いた作品の、ニヒルな性質となんとも偏執的な雰囲気が面白く、もっと話を聞いてみたかった。ぜひ次は個展を見てみたい。この合同アトリエは今後もときどき、作品の展示を行なったり交流の場としてまた公開される予定だという。京都では秋や卒業制作展のシーズンなどに、アーティストたちの複数の合同スタジオが一斉に解放され、作品展示やカフェ、ライブなどが行なわれる「オープンスタジオ」が定着している感があるが、大阪のこのあたりでもそのような動きはあるのだろうか。また新たな活動やアイディアがうまれる場所としても期待したい。


森村誠の制作室

2011/12/17(土)(酒井千穂)

柴田精一 展

会期:2011/11/18~2011/12/24

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

着色した紙を切って模様をつくり、それらを何層も重ねて複雑なイメージをつくり出す「紋切重(もんきりがさね)」というシリーズで知られる柴田精一。本展では、紋切重はもちろん、そのタブロー的展開の新作や、板を彫って現実の風景を表現するレリーフ作品なども出品。一作家に内在する多面性が明らかにされた。また果物に毛が生えたような初期の立体作品も展示され、ちょっとした回顧展感覚も味わえた。

2011/12/17(土)(小吹隆文)

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