2019年09月15日号
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artscapeレビュー

2012年01月15日号のレビュー/プレビュー

『タンタンの冒険──ユニコーン号の秘密』

会期:2011/12/01

TOHOシネマズ梅田ほか[大阪府]

「Tintinologist」という言葉があるという。「タンタン論者」くらいの意味で、この造語を掲載している辞典もあるそうだ。本映画の原作である、コミック『タンタンの冒険旅行』の話だ。そのタンタン論者たちは単なるタンタンオタクなどではなく、作品に込められた歴史や思想を徹底的に分析し研究するのだという。作品のスケールと、その深さが垣間見られるところだ。このコミックシリーズは、ベルギーの漫画家エルジェ(Hergé、1907-1983)が、少年記者タンタンと愛犬スノーウィが世界を飛び回り、繰り広げる冒険を描いたもの。1929年に子ども向けの新聞に初掲載された、子どもを読者に想定した作品だが、次第に人気が出て一般紙や雑誌の連載がはじまり、単行本が刊行された。現在は世界80カ国で翻訳、出版され、2億部以上売れている。このコミックの一番の魅力はなんといってもキャラクター。まだ海外旅行が容易ではなかった時代、世界中のさまざまな国を訪れて冒険をするという基本コンセプトも十分魅力的だったはずだが、手軽に海外旅行ができるようになった今日においても変わらず愛される理由を挙げるとしたら、やはりキャラクターの力、キャラクターがもつ魅力にほかならない。このコミックを、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化したのが、現在公開中の『タンタンの冒険──ユニコーン号の秘密』だ。スピルバーグは、1983年にエルジェが他界すると、すぐにこのコミックの著作権を購入、映画化を試みるが、技術的な限界を感じていったん断念、著作権を手放した。スピルバーグが再び動き出したのは精緻なパフォーマンス・キャプチャーを目にしてからのことで、2002年に版権を買い戻し、映画制作に着手する。パフォーマンス・キャプチャーとは、俳優の演技をコンピューターに取り組む技術のこと。なぜスピルバーグは実写でもCGでもない、また精緻なパフォーマンス・キャプチャーにこだわったのか。それはキャラクターのイメージを壊さず再現したかったからだと監督自身が明かしている。ストーリーも原作から大きく外れておらず、ある意味スピルバーグの映画であって、スピルバーグの映画ではないかもしれない。ただ躍動感あふれる画面からは目が離せない。さすがスピルバーグだ。また時代感を感じさせる巧みな編集と、ソウル・バス★1風のタイトルロールはオシャレすぎて、思わず微笑んでしまった。

★1──ソウル・バス(Saul Bass、1920-1996):アメリカのグラフィックデザイナー。映画のタイトルデザイン分野を確立させた人物とも言われる

[金相美]

2011/12/01(木)(SYNK)

加納俊輔・高橋耕平 展『パズルと反芻』

会期:2011/11/30~2011/12/23

Social Kitchen、LABORATORY、Division[京都府]

写真を多用し、既成概念をずらす作風が特徴の加納俊輔と、主に映像を用いて、反復のなかに起こるずれや違和感を表現する高橋耕平。作風に共通項を持つ2人が京都市内の3つのオルタナティブスペースで個展を開催。同時に、ゲストを招いてレクチャーも3度行なわれた。展示は、Social KitchenとLABORATORYではそれぞれの近作と新作を展示し、Divisionではお互いに素材を交換して制作するコラボレーションであった。近年、京都ではコマーシャルギャラリーの存在感が増しているが、そこではフォローできないタイプの表現や企画があるのもまた事実。その受け皿として、貸し画廊だけでなくオルタナティブスペースが台頭しつつあるのだとすれば、アートファンにとって朗報である。

2011/12/03(土)(小吹隆文)

ビリー・アキレオス

会期:2011/11/23~2011/12/14

ルイ・ヴィトン表参道店[東京都]

イギリス人のアーティスト、ビリー・アキレオスが、ルイ・ヴィトンのバッグやベルトでつくった小動物のオブジェを、ルイ・ヴィトンの店内で見せた。2010年、アーティストの岡本光博による《バッタもん》に一方的にクレームをつけて展覧会から撤去させながら、外国人アーティストにほぼ同じような作品を制作させたところに、ラグジュアリーブランドならではの図太い神経が見え隠れするが、それはともかく問題の焦点は作品が優れているかどうかの一点に尽きる。展示されたのは、熊やカメレオン、アルマジロなど。そのなかで、まさしくバッタをモチーフにした作品が、エントランス脇のもっとも目立つ場所に展示されていた。岡本の《バッタもん》と比較してみると、甲乙つけがたいというより、その質的な差が歴然としていることは誰の眼にも明らかだ。《バッタもん》が最低限のパーツによってひじょうに合理的に造形化されていたのにたいし、アキレオスのバッタは無駄なパーツが多すぎるため、フォルムの美しさに欠けるばかりか、機械的というか、文字どおり不細工な造形である。クリエイションの根底において、前者の重心がバッタにある反面、後者はバッグを重視していると言ってもいい。余計なお世話だろうが、もう少し審美眼を磨いたらどうだろうか、と言っておきたい。

2011/12/03(土)(福住廉)

ライブラリーセミナー 著者が語る、建築本の楽しみ方ーサバイバル住宅編ー第2回ダンボールハウス

会期:2011/12/03

ハウスクエア横浜 住まいの情報館3階ライブラリー[神奈川県]

『ダンボールハウス』(ポプラ社、2005)の著者、長嶋千聡は、実は筆者が中部大学で教鞭をとっていたときの最初の卒論生である。ほかの先生がダンボールハウスを研究テーマと認めず、引き受けることになった。しかし、それぞれの住人と知り合いになってから調査を始める今和次郎の考現学風スケッチによる観察と分析が評判を呼び、卒論がとうとう書籍になった。ダンボールハウスが決してユートピア的な「0円ハウス」ではなく、ここでもお金を介在するリアリティのうえに成立していることを明らかにした労作である。

2011/12/03(土)(五十嵐太郎)

黄金町の風景展

会期:2011/11/13~2011/12/04

高架下新スタジオ SiteA Gallery[神奈川県]

黄金町界隈でたまに顔を合わせる気のいいおっさんが、隣の初音町で豆菓子店を営む谷口商店の谷口安利さんの名前と一致したのは最近のこと。その谷口さんが、これも黄金町のギャラリーなどでたまに見かけ気になっていた風景画の作者であると判明したのは、つい2、3週間前、この個展の案内状を見てからだ。失礼ながらその風体からはとても絵を描く人とは思えなかったので、意外性に驚いた。絵は、さまざまな場所と視点から黄金町の風景を切り取った8号前後の小さなキャンヴァス画が30点ほど。けっして名人芸とはいえないけれど、ごちゃごちゃした雑踏を大づかみに処理する筆さばきは達者なもので、パリの下町を描いたユトリロの陳腐な風景画よりずっといいかも。なにより、生まれ育ち勝手知ったる街だけに、描く喜びと記録を残したいというモチベーションの高さが見る者に伝わってきて快い。

2011/12/04(日)(村田真)

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