2019年06月15日号
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artscapeレビュー

2012年01月15日号のレビュー/プレビュー

ベン・シャーン クロスメディア・アーティスト─写真、絵画、グラフィックアート─

会期:2011/12/03~2012/01/29

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

画家、グラフィックアーティストとして、衰えない人気を保ち続けているベン・シャーンが写真家でもあったということは、あまり知られていないのではないだろうか。彼は1929年にニューヨークで5歳年下の写真家、ウォーカー・エヴァンズと出会い、写真という表現媒体に興味を持つようになる。一時は彼とアトリエを共有し、ニューヨークのダウンタウンの人々をともにスナップ撮影し始めた。さらに1935~38年にはやはりエヴァンズとともに、のちに農村安定局(FSA)と改称する再定住局(RA)の歴史部門のスタッフとなり、アメリカ中西部、南部の疲弊した農村地帯を取材した。この時期に彼が撮影した写真は、現在確認されているだけでも1,400枚以上に及ぶ。その後も、シャーンは折に触れて写真を撮影し続けた。1960年のアジア旅行の途中で日本に滞在したときにも、京都、箱根などでさかんにスナップ撮影を試みている。本展には、その彼のニューヨーク時代、RAとFSAの時代、アジア旅行などの写真が、プリントとプロジェクションをあわせて150点以上も展示されている。これだけの規模で「写真家ベン・シャーン」にスポットを当てた展覧会は、むろん日本では初めてであり、とても興味深い作例を多数見ることができた。シャーンの被写体の把握力、それを大胆に画面におさめていく能力はきわめて高度なものであり、写真家としても一流の才能の持ち主であったことがよくわかる。さらに彼は自作の写真、あるいは新聞や雑誌の掲載写真の切り抜きを大量にストックしており、それをもとにして絵画、ポスター、壁画などを描いていた。写真の具体的で、個別性の強いイメージを、絵画作品としてどのように普遍的かつ象徴的なイメージに変換していったのか──今回の展示では絵画とそのもとになった写真の複写を併置することで鮮やかに浮かび上がらせていた。ウォーカー・エヴァンズとの相互影響関係も含めて、「写真家ベン・シャーン」の作品世界を立体的に見ることができたのがとてもよかった。神奈川県立近代美術館 葉山では、2009年に「画家の眼差し、レンズの眼」展を開催している。これは日本の近代画家たちと写真家たちの作品を比較した意欲的な展覧会だった。今回のベン・シャーン展も絵画と写真の交流がテーマである。このテーマはさらにまた別な形で展開できそうな気もする。

2011/12/10(土)(飯沢耕太郎)

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山西愛展「おかず、庭、なれない」

会期:2011/12/07~2011/12/11

喫茶雨林舎 2階ギャラリー[京都府]

変なタイトルが頭を何度も過ってしまうので気になっていた山西愛の新作展。野菜や総菜、盛りつけられた刺身など、スーパーや食品店のチラシ写真を切り抜いて再構成したコラージュや、小さなタブローが古い建物の二階のギャラリーに展示されていた。セリフこそないものの、荒唐無稽なマンガのような一場面が描かれたペインティングにも、山西らしい奇妙なユーモアと物語性があり、思わず口元が緩む。ひとりでこっそりと空想や言葉遊びを楽しむようなその世界観に、言葉のセンスの良さが感じられて個人的には好きなのだが、今展ではどれにも作品タイトルのキャプションがつけられていなかった。聞いてみると、ちゃんとそれぞれにユニークなタイトルがあり、なお残念。次回の発表の際にはそれも見たい。

2011/12/11(日)(酒井千穂)

日本ベルギー版画国際交流展

会期:2011/11/18~2011/12/11

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

春に行なわれた「ベルギー&日本──当世版画交流展 Part 1」の続編として開催され、会場にはベルギーと日本の版画作家、約50名の作品が展示された。展示作品数が多いのですべてを見て回るだけでも時間がかかるのだが、ひとことで版画といってもここまで多様なのかと改めて驚くほどさまざまな表現や技法が見られて興味深く、じっくりと見るほどに版画という制約のなかで表現される世界の奥深さを味わえるものも多かった。関西在住の作家たちの作品も紹介されていたのだが、フォトグラムの手法を用いた三宅砂織の作品にはここでも引きつけられた。質と量ともに見応えのある展覧会であった。

2011/12/11(日)(酒井千穂)

川西英コレクション収蔵記念展──夢二とともに

会期:2011/11/11~2011/12/25

京都国立近代美術館[京都府]

2006年度から、神戸の版画家・川西英が集め続けていた作品・資料の収集を進めてきた京都国立近代美術館。本展は、1,000余点から成る〈川西英コレクション〉のすべてを収蔵することになったのを記念して開催された。会場の展示は、このコレクションの三分の一を占めるという竹久夢二の作品・資料が中心で、初公開の夢二の肉筆画や油彩画も見どころのひとつとなっていたが、ほかに恩地孝四郎、村山知義など同時代の「前衛」作家たちの版画作品、また、河合卯之助、富本憲吉、バーナード・リーチといった工芸家たちが初期に制作した版画なども紹介され、じつに幅広い川西の蒐集と交流、関心がうかがえる内容だった。また、それらには色彩や細かい柄が美しいものも多く、川西の作品制作との関わりにも興味がそそられる。なによりもこれらのコレクションや関連資料から、作家でありコレクターであった川西英という人物の人となりや美的センスをうかがい知ることができるのが素敵な展覧会だった。サーカスや神戸の風景を題材にした川西英本人の作品が常設展示室で特集展示されていたのも嬉しい。

2011/12/11(日)(酒井千穂)

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飛鳥アートプロジェクト

会期:2011/11/23~2011/12/25

奈良県明日香村(石舞台古墳、奈良県立万葉文化館、国営飛鳥歴史公園 高松塚周辺地区、川原寺跡ほか)[奈良県]

古代の遺跡や社寺で知られる奈良明日香村。同村の高松塚古墳や石舞台古墳周辺、橘寺、川原寺跡、奈良県立万葉文化館で、現代美術のプロジェクトが行なわれた。明日香村は意外と広く、これらの会場を1日で踏破するのは難しい。それゆえ今回は、若手アーティストが最も多く集結した「国営飛鳥歴史公園・高松塚古墳周辺地区」に的を絞って観覧した。招待作家の淀川テクニックをはじめとする11組が参加した同地区。地域住民の協力を得て赤いゴミと竹で物見櫓をつくった淀テクや、高松塚古墳周辺で約3,000足分の下駄の部材を用いてランドアートをつくったHUST(2人組ユニット)、小さな石片を積み上げた蟻塚のような立体の北川太郎など、環境と馴染んだ展示が数多く見られ、十分納得できる水準だった。今後も継続していけば、地域観光の一助になれるかもしれない。ただし、季節だけは再考すべき。真冬に野外展を行なうのはさすがに無理がある。

2011/12/11(日)(小吹隆文)

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