2019年10月15日号
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artscapeレビュー

2012年01月15日号のレビュー/プレビュー

梅田哲也展──大きなことを小さくみせる

会期:2011/11/12~2011/12/04

神戸アートビレッジセンター[大阪府]

大阪での個展「小さなものが大きくみえる」と同時開催の神戸アートビレッジセンターでの梅田哲也の個展。1階ギャラリー、地階のシアター、スタジオなどに作品が設置されていた。各々の空間の目的や機能などの特性にあわせて作り込まれた仕掛けのなかでも、特に大掛かりだったのがシアターのインスタレーション。目が慣れるまでは足元も見えないほど真っ暗な空間なのだが、徐々にそこで起こっているさまざまな現象が見えてくる。いろんな方向から音が聞こえてきたり光が明滅する空間で、装置自体の動作は緩やかなのだが、断片的にポッとイメージが浮かぶような、間合いのある動きやそこで起こる現象に目が離せなくなる。見るということ自体についてさまざまな点から意識させられるのもさることながら、モノが動いたり音が鳴るという即物的、物理的な次元と、見る体験や感覚との「間」に、なにか別の時空があるように感じられるのが面白かった。

2011/12/04(日)(酒井千穂)

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梅田哲也展──小さなものが大きくみえる

会期:2011/11/12~2011/12/04

新・福寿荘[大阪府]

神戸アートビレッジセンターを出て、もうひとつの梅田哲也展の会場、大阪市西成区にある築60年の木造アパート、新・福寿荘へ。私は初めて訪れたのだが、想像以上に廃墟のイメージと雰囲気のあるその佇まいにちょっと吃驚した。一階と二階、屋根裏まで、この建物を丸ごと使ったインスタレーションには、吹き抜けの二階から一階の床まで続く大掛かりなものもあったが、紐で吊るされた電灯や小さな物が動きだす装置なども各部屋や廊下のあちこちに仕掛けられていた。水滴が落ちたり、紐を引っ張る音など、どこにいてもいろんな音や鑑賞者の楽しげな声が聞こえてくる会場は、神戸とは異なる雰囲気がありそれも面白かったのだが、ここでは歴史を感じるボロボロの建物のインパクトがなにしろ強烈で、考えてみると作品への驚きや感動よりもそちらの印象のほうが記憶に残った感もある。

2011/12/04(日)(酒井千穂)

Calendar for 2012

会期:2011/12/06~2011/12/18

新・福寿荘[京都府]

隔年で開催される展覧会。ドローイング、版画、写真をはじめ、立体や音、映像表現などまで、西岡勉デザインのカレンダーシートを使った、約100名の参加アーティストたちによる太子サイズの作品が今回もギャラリーの壁面いっぱいに展示された。その賑やかな光景は見ているだけも楽しいし、いろんな作家の作品が一度に見られるのも嬉しい。若い人からベテラン作家の作品まで、どれも手頃な価格なのもこのカレンダー展の特徴。お気に入りの一枚を手に入れてホクホクして帰宅するなんて素敵な年末だ。

2011/12/04(日)(酒井千穂)

高梨豊 展「LAST SEEIN’」へ

会期:2011/11/23~2011/12/11

photographers’ gallery[東京都]

高梨豊がphotographers’ galleryのホームページに載せたコメントで、ノーベル文学賞を受賞した詩人のヨシフ・ブロツキ─の言葉を引用している。「体は目を運搬するだけに存在する」。これはまさに彼にふさわしい言葉だ。かつてどこかで「目の歩行」という言葉を使っていたようにも記憶しているが、高梨の写真を見ていると、彼の体とともに移動する目が、その周囲の景観をキャッチしていく様が、ありありと浮かび上がってくるように感じるのだ。「歩行」のスピードには緩急があり、ときにはバスや列車が移動手段として使われることがある。それでも、柔軟でありながら精確な目が、イメージを的確に捕獲していく心地よさを、いつでも彼の写真から感じることができる。その「目の歩行」の精度は、2010年以降に撮影した東京のスナップショットを集成した新作「LAST SEEIN’」でもまったく変わっていない。実は少し前に白内障を患うという、写真家にとっては大きな出来事があり、その危機感がやや切迫した響きを持つタイトルに投影されているようだ。幸い治療がうまくいって、ふたたび街歩きとスナップ撮影が可能になった。肩の力を抜いているようで、押さえるべきものをきちんと押さえているカメラワークは健在であり、霧に霞む工事中の東京スカイツリーを撮影した一枚などには、「東京人」(1965)以来の写真を通じた都市観察の蓄積が見事に表われている。なお、同じフロアのKULA PHOTO GALLERYでは、2008年から開始された都バスの窓越しに見た景観の集積「SILVER PASSIN’」のシリーズが展示されていた。また、両シリーズに列車の車窓の光景を撮り続けた「WIND SCAPE」シリーズを合わせた写真集『IN’』(新宿書房)も同時期に刊行されている。

写真=「LAST SEEN'」© TAKANASHI Yutaka 2010

2011/12/04(日)(飯沢耕太郎)

北野謙 展「our face project: Asia」

会期:2011/11/26~2012/01/29

MEM[東京都]

北野謙がこのところずっと取り組んでいる「our face」は、特定の社会集団の構成員たちを撮影したポートレートを、目の部分で重ね合わせて多重露光した合成写真のシリーズである。そのたたずまいが、近作ではやや違ってきているのを、今回の個展で確認することができた。以前は重ね合わされたひとりの人物(実際には数十人のモデルの画像の合成なのだが)の周囲は黒く落とされていることが多かった。ところが、近作では中心の人物が闇の中から浮かび上がってくるような画面の周辺部分に、別の人物の顔や周囲の風景などが写り込んできている。たとえば「2003年3月8日World Peace Now 米英軍のイラク攻撃反対5万人パレードに参加して歩く人びと30人を重ねた肖像 東京日比谷公園~銀座の路上で」では、さまざまなポーズをとるデモの参加者たち、戦争反対のスローガンなどが、背後に浮遊霊のように漂っているのが見える。そのことによって、画面にすっきりとした安定感はなくなったのだが、逆に現代社会の混沌とした状況が、より生々しく浮かび上がってきているように感じた。今回の展示ではインドネシアからイラン北部のクルド人居住区まで、アジア各地で撮影された作品19点を「路上」「宗教、信仰」「子ども」「戦争」「民族」「職」に分けて展示している。また2011年11月20日までに撮影した5,134人を重ねた「全集積」を、デジタルデータで見ることができるモニターも設置されていた。さらに「our face」制作のきっかけになった、メキシコ・シティのディエゴ・リベラ作の大壁画《メキシコの歴史》の複写も展示された。歴史のなかの人間像を、圧倒的な迫力で描写したこの壁画を撮影し、モザイク状に再構成したことから、合成写真のアイディアが生まれてきたのだという。充実したいい展示だと思う。

2011/12/04(日)(飯沢耕太郎)

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