2021年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

2013年12月15日号のレビュー/プレビュー

鷹野隆大「香港・深圳 1988」

会期:2013/11/21~2013/12/21

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

小説や詩でも「若書き」の作品というのは独特の存在感を発しているものだ。その作者の後年の作品世界の芽生えが見られることが多いが、逆にまったく異質な手触りを備えている場合もある。鷹野隆大が今回発表した「香港・深圳 1988」も、やはり「若書き」としての面白さが感じられる作品だった。
鷹野は撮影時には25歳。「もはや若いとは言えないものの、当たり前に写真を撮ることを信じていた無邪気な若造」だったという。香港ではまず取り壊しが迫っていた“魔窟”九龍城塞を目指した。首尾よく、かつてその一角に住んでいたという日本語ができる女性と知り合いになり、彼女の案内で“魔窟”の内部も撮影することができた。さらに、当時経済特区として急速に発展していた中国本土の深圳に出向き、市内の縫製工場、アパートなどを撮影した。
今回はそのなかから45点のプリントが展示されている。それらを見ると、鷹野の眼差しがフォト・ジャーナリスト的な物欲しげなものではなく、かといって単なる観光客とも違って、ニュートラルな透明性を保っているのが印象に残った。ことさらな感情移入はないのだが、それでも九龍城塞や深圳の住人たちに寄り添って、彼らの生活の襞々を丁寧に押し広げるようにして撮影しているのだ。このような撮影の経験が、後に彼の代名詞となる男性ヌードを撮影する場面などでも、細やかな気配りとして活かされていったのではないだろうか。彼が、なぜ今頃になってこれらの写真を発表する気になったのかはわからないが、時を経ることで、写真そのものが味わい深く醗酵してきているようにも思える。

2013/11/27(水)(飯沢耕太郎)

上本ひとし「海域」

会期:2013/11/20~2013/12/03

銀座ニコンサロン[東京都]

上本ひとしは1953年、山口県下松生まれの写真家。靴の販売店を営みながら、1970年代から写真撮影を続けてきたが、2001年にニッコールフォトコンテストでニッコール大賞、長岡賞を受賞したのをひとつのきっかけとして、本格的に写真作家としての活動を開始した。以後、写真集『峠越え』(2005年、翌年さがみはら写真新人奨励賞を受賞)、『OIL 2006』(2007)を刊行するなど、旺盛な創作意欲で力作を発表し続けている。
今回発表された「海域」は山口県徳山湾の沖合にある大津島の周辺を撮影したシリーズである。大津島、及びその近くの光、平生には、太平洋戦争末期に「人間魚雷」回天の基地があり、若い兵士たちが訓練にいそしんでいた。回天は操作が難しく、訓練中に死亡する兵士も多かったという。上本はそのような史実を踏まえながらも、あくまでも現在の瀬戸内海の「海域」の眺めを、しっかりと写しとろうと努めた。その結果として、回天の乗組員たちも日々目にしていたであろう「海の色、島影」は、静かな緊張感をたたえた「風景写真」として、きちんと成立していると思う。薄暮の時間に撮影された写真が多いこともあって、会場全体に、遥か彼方へと連れ去られてしまうような寄る辺のなさ、茫漠とした雰囲気が漂っていた。写真を見ながら、「海くれて鴨の声ほのかに白し」という芭蕉の句を思い起こしていた。
なお、本展は2013年12月19日~28日に大阪ニコンサロンに巡回する。また、展覧会にあわせて蒼穹舍から同名の写真集も刊行されている。

2013/11/27(水)(飯沢耕太郎)

安藤忠雄《秋田県立美術館》

[秋田県]

安藤忠雄が設計した秋田県立美術館へ。お堀沿いの旧美術館と道路を挟んで向かいに建ち、三角形を基本モチーフとする。ほとんど開口のない正面から入ると、カーンを想起させる静謐な幾何学的空間が出迎える。2階に上ると、千秋公園を望む水庭が出現し、展示室に入ると、目の前に藤田嗣治の巨大絵画がどーんと広がる。
美術館では、平野政吉コレクションをベースに、主にパリではない時代の(マドレーヌと行動を共にした)藤田嗣治の作品を紹介し、1930年代に旅したブラジル、中国、そして秋田が題材になっていた。1階ロビーでは、藤田嗣治が描いた花と鳥、彼がパリで描いた壁画「花鳥図」の再現を展示している。

2013/11/27(水)(五十嵐太郎)

生誕100年記念 ロベール・ドアノー写真展

会期:2013/11/22~2014/01/26

秋田市立千秋美術館[秋田県]

アトリオン内の秋田市立千秋美術館のロベール・ドアノー写真展へ。ドイツ占領時のパリのレジスタンスの活動を撮影した写真は歴史的にも貴重だ。基本的には何気ないパリの日常的な風景(人と街)だが、誰かが何かを見ている状態をとらえた写真が幾つかあって興味深い。カラー写真も初公開されていた。千秋美術館には、岡田謙三1950'sも同時開催しており、彼がニューヨークに渡って、当時流行っていた抽象表現主義の影響を受け、作風を変えた頃の作品を紹介する。ただ、やはり日本的な色使いを感じた。

2013/11/27(水)(五十嵐太郎)

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水谷俊博+水谷玲子/水谷俊博建築設計事務所《アーツ前橋》

[群馬県前橋市]

竣工:2012年10月(開館:2013年10月)

アーツ前橋は、駅から歩いて行ける本当にまちなか美術館である。水谷俊博+玲子の設計により、百貨店をリノベーションしたもの。外観はアルミパンチングで包み、エスカレータを除去し、展示室に吹抜けを設けるほか、階段、スロープ、部屋同士を浸透させる小窓群で、地下も歩く楽しみと開放感を演出している。ちなみに、Perfumeの新曲PV「Sweet Refrain」はアーツ前橋で撮影されているが、外観などのわかりやすい部分ではなく、地階の展示室エリアを使っており、ちょっとすぐにはわかりにくい。

2013/11/28(木)(五十嵐太郎)

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