artscapeレビュー

2010年04月15日号のレビュー/プレビュー

Follow up!──創造空間9001ファイナルイベント

会期:2010/03/05~2010/03/14

創造空間9001[東京都]

東横線旧桜木町駅を改装した創造空間9001のファイナル展。改札口を仕切った壁が桜の花のかたちに切りとられ、階段を上がってホームに出られるようになっている。そのホームの端から線路跡をながめると、50メートルくらい先に光るものがある。手前のテーブルに双眼鏡があるのでのぞいてみると、テレビモニターに東横線の電車が映し出されているのがわかる。もっと倍率の高い双眼鏡でのぞくと、なんと、映像のなかの電車に双眼鏡をのぞく自分が映し出されているではないか。これは最高。作者は瀧健太郎。

2010/03/05(金)(村田真)

TETSUSON2010

会期:2010/03/04~2010/03/07

BankARTスタジオNYK[東京都]

全国の美術系学生有志による合同卒業制作展。今年は国内25校のほか、韓国からも12校が参加し、国際化しつつある。というと聞こえがいいが、出品作品は絵画が少なく、建築、プロダクト、ファッションなど多様化し、なにか拡散しつつある印象も否めない。どうせならこのまま中国、インド、欧米と拡張し続ければ、また別の意義が生まれてくるかも。

2010/03/06(土)(村田真)

福原義春「私と蘭138」

会期:2010/03/06~2010/03/18

和光並木館5階 和光並木ホール[東京都]

資生堂名誉会長、東京都写真美術館館長をつとめ、数々の公職を兼任している福原義春。えてして、彼のような立場の人の写真は大仰で権威主義的になりがちなのだが、意外にも今回の展示で見ることができたのは、慎ましやかな、被写体を謙虚に受けとめて撮影した蘭の花の写真だった。
蘭の栽培は父の福原信義から受け継がれた趣味で、被写体となる花も自分の温室で大切に育てたものだという。それを「開ききるちょっと手前」、あるいは「枯れはじめてきた時」つまり、最も華やかで生命力がみなぎる瞬間を選び、鉢ごと自室に移して黒バックで撮影する。撮影のポジションは「虫の視点」を意識して決めている。つまり受粉のために虫たちを「着陸標識のように」引きつけるその唇弁の位置が、蘭が最も蘭らしい姿をあらわす場所なのだ。そこを強調するようにフレーミングしていく。このような発想は、アーティストというよりはどちらかといえば生物学者や園芸家のものといえそうだ。よく知られているように、福原義春の叔父は日本の「芸術写真」のパイオニアのひとりである福原信三であった。彼が写真家として仕事をする時には、どうしてもその存在を意識しないわけにはいかなかっただろう。彼の「実証的」とさえいえる堅実な視点のとり方は、そのあたりの試行錯誤の結果ではないだろうか。
それにしても、蘭は写真に撮影されるためにこの世にあらわれ出た花のようにも思える。実物よりも二次元のフレームに封じ込まれてより輝きを増す、花の造形美の極致がそこにはある。

2010/03/06(土)(飯沢耕太郎)

この世界とのつながりかた

会期:2009/10/24~2010/03/07

ボーダレスアートミュージアムNOMA[滋賀県]

会期が長いとつい油断してしまう。気がつけば最終日で慌てた。2会場で、秋葉シスイ、奥村雄樹、川内倫子、仲澄子、橋口浩幸、松尾吉人、松本寛庸、森田浩彰の8名の作品を展示。とくに、戦時下の自らの思い出や我が子の成長を記した仲澄子の味わい深い絵日記作品、家族との暮しを撮影した大量の写真をスライドショーで展開していた川内倫子の作品に揺さぶられる。ふたりの生活を追体験するような感覚で胸がいっぱいに。外に雪がちらついていたせいも大きいと思うが、感傷的な気分もしばらく引き摺った。ただ、あとで考えてみると、その眼差しや体温をまるごと享受するようなそれらの作品はどちらも、むしろ淡々と現実や過去を見つめる冷静な視線という印象だった。女性の作品ならではの魅力なのかもしれないなあ。

2010/03/07(日)(酒井千穂)

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MIHO GRANDAMA Arte della Luce

会期:2010/03/13~2010/06/06

MIHO MUSEUM[滋賀県]

MIHO MUSEUMの創立者・小山美秀子(1910-2003)の生誕百年を記念するコレクション展。開館以降蒐集された作品も含め、日本美術を中心にした収蔵品90点を展示。展示替えがあるのだが、4月25日まで展示されている狩野芳崖の《悲母観音像》をもとにしたタピストリー《MIHO悲母観音像》は圧巻の見応え。川島織物によって1994年に制作された綴れ錦なのだが、忠実かつ完璧に原画を写し取ったもので、4,500種以上の色が用いられているそうだ。繊細で微妙な光の表現が素晴らしい。また、2009年に開催された「若冲ワンダーランド」展でも公開されているのだが、4月27日から展示される伊藤若冲の《象と鯨図屏風》も今展の見どころになる作品。奇抜なイメージや各箇所の筆致の表情を見る楽しさもさることながら、象のコロコロした胴体や筆先のようなシッポがなんともくすぐったい可愛らしさでどうにも可笑しい。遠くなければ何度でも見に行きたい。

2010/03/11(日)(酒井千穂)

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