artscapeレビュー

2010年04月15日号のレビュー/プレビュー

ワンダーシード2010

会期:2010/03/06~2010/03/20

トーキョーワンダーサイト・渋谷[東京都]

若いアーティスト対象の公募・販売展。会期前半なのに8割方売れてる。2~3年前ほどではないけれど、いちど勢いがつくと景気が悪化してもなかなか落ちないものだ。質的にも初期の「0号展」のころよりレベルが高い。ちょっと惹かれる作品もあったが、ぐっと抑えた。

2010/03/12(金)(村田真)

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高橋宗正/佐伯慎亮「東西東西」

会期:2010/03/12~2010/03/28

テルメギャラリー[東京都]

松岡一哲と阿部マリイを中心に若い写真家たちによって運営されている都立大学のテルメギャラリー。その「5ケ月連続2人展」の第4弾として開催された高橋宗正と佐伯慎亮の展示に出かけてきた。佐伯は昨年赤々舎から最初の写真集『挨拶』を出し、高橋ももうすぐ同社から写真集が刊行される。佐伯が1979年生まれで、高橋が1980年生まれだから、いま一番力をつけつつある30歳前後の写真家たちの代表格といういい方もできるだろう。展覧会のタイトルは、どうやら大阪在住の佐伯が西日本を、東京在住の高橋が東日本を担当するという意味らしい。
たしかに距離感の違い(佐伯の方が近く、高橋の方が遠い)はあるものの、「パフォーマンスの瞬間の一発芸」を巧みにとらえるという点においては、この2人の写真の傾向には共通性がある。ただ、どちらかといえば佐伯の写真の方に、被写体から発する光と影を鷲掴みにするようなパワーをより強く感じる。展示から気持のいいエネルギーの波動が伝わってくるのは、ギャラリーの空間そのものに力があるのかもしれない。写真家たちの自主運営ギャラリーを長続きさせる秘訣は、いかにそのような開放的なパワーを持続できるかにかかってくるのではないだろうか。

2010/03/12(金)(飯沢耕太郎)

通学路 Vol.1

会期:2010/03/12~2010/03/27

HAPPA[東京都]

デザイン事務所のPLANCTONが刊行しはじめた「通学路」シリーズは、「全4回にわたり日本全国、47都道府県を網羅する」という意欲的な写真集の企画である。その「Vol.1」として第一線の写真家、13人が自分の出身県を担当した作品集ができ上がり、お披露目の展覧会が中目黒のギャラリー・スペースHAPPAで開催された。参加作家は浅田政志(三重県)、熊谷隆志(岩手県)、佐々木知子(愛媛県)、笹口悦民(北海道)、鈴木理策(和歌山県)、田尾沙織(東京都)、竹内裕二(広島県)、中川正子(千葉県)、中野敬久(埼玉県)、松尾修(長崎県)、松岡一哲(岐阜県)、横浪修(京都府)、渡辺慎一(栃木県)である。
たしかに、誰でも子どもの頃の通学路を想い起こすと、甘酸っぱい記憶がよみがえってくるだろう。日本の「いま」を体感し、子どもたちがおかれている状況を浮かび上がらせるという意味でも、なかなかいい切り口だと思う。だが実際に展示を見て、写真集を手に取ると、残念ながら企画がうまく成立しているとは思えなかった。展示は写真家の数が多過ぎて一人当たりのスペースが狭く、それぞれの写真家たちの世界があまりうまく伝わってこない。写真集の方は、16ページ(写真点数は10点)で1,500円という値段なので、2~3冊ならともかく13人全部を揃えるとなると2万円近い値段になってしまう。かといって、2~3冊ではそれぞれの写真家たちの視点を比較する楽しみがなくなる。しかも、通学路の小学生たちにストレートにカメラを向けた浅田政志や松岡一哲を除いて、ほとんどの写真がやや距離を置いて淡々と「風景」として撮影したものなので、何冊か見ると違いがわからなくなってしまう。やはり、一冊の写真集にまとめる形の方が、価格は多少高くなってもよかったのではないだろうか。志が高く、なかなかいい企画なので、何とか最後まで「日本全国、47都道府県」の写真集を完成させてほしいのだが。

2010/03/12(金)(飯沢耕太郎)

原広司『YET』

発行所:TOTO出版

発行日:2009年12月25日

原広司による未完の作品40点の作品集。フルカラーで日英スペイン語の三カ国語併記。スペイン語が加わっているのは珍しい。近年の南米でのさまざまな活動があるからであろう。巻末にはBUILTとYETの対比年表が並んでおり、「YET」という言葉から、実現への凄まじい気迫を感じる。有孔体の建築から、 シリーズ、地球外建築、離散型都市と、壮大なプロジェクトが続く。ところで、作品と同じく濃密なのが、本書全体に散りばめられた、端的な言い切りの形のいくつもの格言である。「はじめに、閉じた空間があった」「住居に都市を埋蔵する」など、よく知られたものを含め、原の40年以上の建築的思考が凝縮された文言の数々である。原の文章は難解で知られるが、数学的な記述の難しさを除けば、論旨はわかりやすい。逆に、格言は端的な一言であるが、説明がないからこそ難解で、考えさせる重みを持つ。原の建築にはそのような難しさと分かりやすさが同居しているかのようだ。原の難解なテキストに躊躇した人も、本書の格言の束によって原の思考をたどることができるだろう。

2010/03/12(金)(松田達)

稲垣元則 展「phase」

会期:2010/02/13~2010/03/13

ギャラリーノマル[大阪府]

稲垣元則の新作展。まさに静謐という緊張感に満ちた印象のインスタレーション空間だった。2枚から6枚で1組のモノクロ写真の作品が壁面に整然と配置されていた。一見展示がランダムにも見えるのは作品のサイズが数種類あるせいだったが、よく見るとそれらのサイズも限られたもので揃っている。作品ごとの間隔や展示の幅も細かく計算しての構成なのだという。黒いフレームに収められた、山、湖、空、などの風景写真は、少しだけ撮影角度が異なっていたり、微妙な雲の動きや風の様子が確認できたりと、1組のまとまりごとに時間の経過と光景の微妙な変化が示されていた。写真の色合いからも一枚ごとの表情や有様を比較できるが、一組ずつでも成立し、空間全体としてもひとつの世界としてなっているインスタレーションをぐるりと見ているとまるでオーケストラの鑑賞でもしている気分になってくる。2階の空間では過去のドローイング作品の数々を見せてもらった。稲垣はいまもほとんど日課のようにドローイングも描き続けているというが、写真の現像作業もまたドローイングを描いているときとほとんど同じ感覚なのだそう。そういえば、以前映像作品を発表していたときも、同じような意味合いの言葉を聞いた記憶がある。冷静なまなざしと安定した穏やかなリズムのなかにうかがえるはかない時間のうつろいがとても美しい。最終日になってしまったが見れて嬉しかった。

2010/03/13(土)(酒井千穂)

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