artscapeレビュー

2010年05月15日号のレビュー/プレビュー

向井潤吉 展

会期:2010/04/28~2010/05/10

横浜高島屋ギャラリー[神奈川県]

向井潤吉といえば、日本の茅葺き民家を描き続けた洋画家。なぜそんなもんを見に行ったかというと、ひとつはすぐれた戦争記録画を描いたから。もうひとつは、油絵でどこまで日本的農村風景に迫れるかということに関心があったから。戦争記録画はもっとも有名な、というよりこれ以外知らないのだが、中国・蘇州の街並に落とす軍用機の大きな影を描いた《影》のみの展示。広い意味では、掘削機を銃のように構えた《坑底の人々》や《献木伐採》も戦争記録画に入るかもしれない。そのほか民家以前では、パリ時代にルーヴル美術館に通って描いたデューラー、コロー、ルノワールらの模写と、同時期に制作したスーティンばりの表現主義的絵画との落差が興味深かった。民家は早くも敗戦の年から描かれ、以後93歳で亡くなるまで半世紀近く続く。同展では水彩画も含め約130点の出品作品のうち、およそ100点が民家の絵で占められていて、最後のほうはうんざりするほど。途中1959~60年に渡欧するが、そのときの風景画と比べてみると、日本の農村風景は圧倒的に土色とくすんだ緑色が多く、赤や深い青がきわめて少ないことがわかる。せっかく油絵具を用いながら原色をそのまま使用する機会が少ないのだ。これは向井に限ったことではなく、日本の油絵の特徴といえるかもしれない。

2010/04/30(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00006178.json s 1214520

カタログ&ブックス│2010年05月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

Architecture as Frame

著者:坂牛卓
発行日:2010年4月
発行:三恵社
価格: 3,200円(税込)
サイズ:A5判

1988年から2009年までの坂牛卓の建築作品集。年代順に構成された作品のイメージ、スケッチ、図面、そして建物と出来上がるまでの過程を見ることができる。坂本一成などの寄稿も掲載。


アートのみかた

著者:村田真
発行日:2010年5月1日
発行:BankART1929
価格:2,500円(税別)
サイズ:A5判

1999年から2009年まで本サイトに掲載した村田真氏のアートレビューをまとめた一冊。この10年のアートシーンを比較して読むことができる。現在も本サイトにて連載中


artpic site

著者:暮沢剛巳
発行日:2010年3月31日
発行:美術出版
価格:1,600
サイズ:190x130

美術だけではなく建築やデザイン、サブカルチャーなどジャンルを横断し批評する暮沢剛巳のアート批評集。


REFLECTION

発行日:2010年3月31日
発行:水戸芸術館現代美術センター
価格:2,000円(税込)
サイズ:260x188

2010年2月6日から5月9日まで、水戸芸術館現代美術ギャラリーで行なわれた「リフレクション—映像が見せる“もうひとつの世界”」のカタログ。作品の解説や、作者へのアンケート同時に掲載。


THREE DUBS

発行日:2010年3月31日
発行:神戸アートビレッジセンター
サイズ:182×215

2009年9月に行なわれた若手芸術家・キュレーター支援企画「1floor 2009『THREE DUBS』」の記録集。作品写真はもちろん、展覧会終了までのドキュメント写真や、作家へのインタビューも掲載。


ポスト・フォッシル

著者:リー・エデルコート
発行日:2010年4月
発行:21_21 DESIGN SIGHT
価格:1,800(税込)
サイズ:B5変形

2010年4月24日(土)から 6月27日(日)まで21_21 DESIGN SIGHTで行なわれている「ポスト・フォッシル:未来のデザイン発掘」展のカタログ。


建築家を知る/建築家になる

著者:山本 想太郎
発行日:2010年4月20日
発行:王国社
価格:1,890
サイズ:190x132

建築家を志す人や、知ろうと思う人に建築家をとりまく状況や問題を一つひとつ紐解く一冊。


第2回 恵比寿映像祭

発行日:2010年4月
発行:東京都写真美術館
サイズ:B5

2010年2月19日~28日に行なわれた第2回恵比寿映像祭のカタログ。作家や作品の一つひとつの解説、公式ウェブサイトで掲載されている鷲田清一の寄稿や、細野晴臣と藤幡正樹の対談など展覧会とまた違った面白さを感じることが出来る一冊。

2010/05/17(月)(artscape編集部)

2010年05月15日号の
artscapeレビュー