2021年12月01日号
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artscapeレビュー

2010年09月15日号のレビュー/プレビュー

10 DAYS SELECTION 赤坂有芽 展

会期:2010/08/19~2010/08/28

INAXギャラリー2[東京都]

壁に青白い映像をホワッと浮かび上がらせる赤坂だが、今回はギャラリーの中央に蚊帳を吊り、そのなかに金魚の映像を映し出している。これはおもしろい。もっとおもしろくなる可能性がある。

2010/08/23(月)(村田真)

長島有里枝『SWISS』

発行所:赤々舎

発行日:2010年7月2日

文章家としての長島有里枝の才能に気づいたのは、2009年に刊行された『背中の記憶』(講談社)を読んだ時だ。『群像』に連載された短編をまとめたもので、幼い頃からの家族、近親者、友人たちの記憶を、糸をたぐるように辿り直した連作である。視覚的記憶を文章として定着していく手つきの、鮮やかさと細やかさにびっくりした。思い出したのは幸田文の『みそっかす』や『おとうと』といった作品群で、はるか昔に起こった出来事に対する生理的反応や感情の起伏を、正確に、くっきりと描写していく才能には、天性のものがあるのではないだろうか。同時に、長島の文章にはどこかスナップショットのような爽快さが備わっており、彼女の写真作品と共通する感触もある。
その長島の新作写真集が赤々舎から刊行された『SWISS』。2007年に5歳の息子とともに、スイスのエスタバイエ・ル・ラックにあるVillage Nomadeという芸術家村に3週間滞在した時の記録だ。日記と写真のページが交互に現われる構成になっており、ここでも日記のパートに彼女の文章力がしっかりと発揮されている。記述そのものは、芸術家村で出会った人びととの交友や、父親と別に暮らすことを選びとったばかりの息子との、3週間の間に微妙に変化していく関係のあり方が淡々と綴られているだけだ。だが、庭に咲き乱れる花々や室内の光景を中心に撮影した写真と、重なり合ったりずれたりしながらページが進むうちに、静かな生活の中に湧き起こる感情のさざ波が、生々しい実感をともなって感じられるようになってくる。そのあたりの呼吸が実に巧みで洗練されている。これまでよりもやや抑え気味に、被写体を凝視するように撮影された写真も、しっとりとした味わいで見応えがある。写真と文章とが、さらにみずみずしい関係を構築していく可能性を感じさせる仕事といえるだろう。
なお、特筆しておきたいのは、寄藤文平による造本・デザインのアイディアの豊かさと新鮮さ。紙質やレイアウトに気を配りつつ、物語を包み込む器をダイナミックに仕上げている。表紙の色が20パターンあり、自由に選べるというのも、あまり聞いたことがない。

2010/08/25(水)(飯沢耕太郎)

マン・レイ展 知られざる創作の秘密

会期:2010/07/14~2010/09/13

国立新美術館[東京都]

マン・レイの展覧会はこれまで何度も開催されているが、300点を超えるという今回の展示の規模は最大級といえる。特に興味深かったのは、1930年代までのニューヨーク・パリ時代よりも、1940~51年のロサンゼルス時代や、1951~76年の晩年のパリ時代の方が展示の比重が大きくなっていることだった。これは今回の出品作品の多くが、4,000点以上というニューヨーク州ロングアイランドのマン・レイ財団のコレクションから選ばれているためだろう。ややうがった見方をすれば、マン・レイの最期を看とったジュリエット・ブラウナー夫人の関係者が牛耳るマン・レイ財団が、あえてキキ、リー・ミラー、メレット・オッペンハイムなどの、マン・レイの華麗な女性遍歴に関係する作品の出品を制限したと見えなくもない。
とはいえ、未見の作品が大量に出品されており、この万能のアーティストが、まさに花を摘んでは撒き散らすように、軽やかに、楽しみつつさまざまな分野の作品を制作していった過程がくっきりと浮かび上がってきていた。たとえば1950年代の、カラーポジフィルムの裏面に特殊な溶液を塗って「色彩の輝度を保ちつつ、絵のような質を」生み出す技法で制作されたプリントなどは、今回はじめてきちんと紹介されたものだろう。第二次世界大戦後は、あまり写真に興味を示さなくなったといわれるマン・レイだが、やはり同時期にはポラロイド写真の撮影も試みている。彼が最後まで実験的な写真家としての意識を持ち続けていたというのは嬉しい発見だった。

2010/08/26(木)(飯沢耕太郎)

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スティーブン・ギル「Coming up for Air」

会期:2010/08/20~2010/09/26

G/P GALLERY[東京都]

スティーブン・ギルはイギリスの若手写真家。このところ急速に頭角をあらわしてきており、日本でも何度か展覧会を開催している。フットワークが軽く、豊富なアイディアを形にしていくセンスのよさが際立っており、特に限定版の写真集作りにこだわりを見せている。今回も、2008~09年に何度か日本に来て撮影したスナップショットをまとめた、4,500部の限定版(日本の感覚だとかなりの部数だが)写真集『Coming Up for Air』(Nobody)の刊行にあわせての展示だった。
都市の日常に網をかけてすくいとったような雑多なイメージの集積だが、薄い水の皮膜を透かして覗いたようなピンぼけの写真が多いのと、白っぽいハレーションを起こしたようなプリントの調子に特徴がある。展示の解説に「この本のタイトルは『断絶』ではなく、この狂ったような世界を泳ぎ生きる時の、適切な休止(coming up for air=息継ぎ)である」とあった。ギルにとってはフォーカスの甘い写真よりも、シャープなピントの写真の方が「再び潜る前の息継ぎを表現」しているのだという。
このような日常感覚、どこか真綿にじわじわとくるみ込まれていくようなうっとうしさから浮上して「息継ぎ」をしたいという思いは、日本の若い写真家たちも共有しているように思う。ギルの方がセンスのよさと勘所を抑える的確さを持ちあわせている分、現代日本の空気感をきっちりと捉えることができた。だが、むろんどうしようもないほどの高みにある表現ではない。日本の若い写真家たちも、もっと思い切りよく、一歩でも前へと踏み出していってほしいと思う。

2010/08/27(金)(飯沢耕太郎)

アニメ作家──辻真先の世界展

会期:2010/08/10~2010/08/31

江東区森下文化センター[東京都]

この日は森下文化センターで須田悦弘と対談があり、終わってから須田氏と階下のギャラリーで見る。辻真先は「鉄腕アトム」「エイトマン」「スーパージェッター」「宇宙少年ソラン」「オバケのQ太郎」「ゲゲゲの鬼太郎」などのアニメ脚本を書いた人。自慢じゃないが、いまあげたアニメはみんな主題歌を(サワリだけだけど)歌えるぞ。展示はともかく、江東区にはこうした文化センターがいくつもあって、それぞれ特徴ある活動をしているという。森下は田河水泡ゆかりの地ということで「のらくろ」の資料を集めたコーナーがあり、また東京都現代美術館や清澄白河のギャラリービルも近いせいか、現代美術や工芸関連の催しが盛んだ。単なる下町だと思っていたが、高等区になってきた。

2010/08/28(土)(村田真)

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