artscapeレビュー
2010年09月15日号のレビュー/プレビュー
あいちトリエンナーレ2010
会期:2010/08/21~2010/10/31
愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場ほか[愛知県]
残念ながら内覧会の日はメイン会場である愛知芸術文化センターの展示作品と納屋橋会場のヤン・フードンの映像作品を見るだけで時間いっぱいになり、他の会場に行くことが叶わなかったのだが、愛知芸術文化センターの展示には、じっくりと見たい作品も多かった。個人的にはハンス・オブ・デ・ピーク、宮永愛子、タチアナ・トゥルーヴェ、志賀理恵子のインスタレーションが印象に残っているが、この会場には映像作品も多いので見て回るのにも時間がかかる。公式ガイドブックには「一日でまわる弾丸コース」という4つの会場を駆け足でめぐるモデルコースも紹介されていたが、「都市の祝祭」という、名古屋の街全体をアート空間ととらえるテーマに基づいてみるならば、なおさら街歩きとともに堪能したいところで、一日で巡るのはやはり難しい気がする。アートの「先端性」や美術とパフォーミングアートの「複合」から生じる可能性を骨子にした大規模な国際展、今後、来場者や地元の人々からはどのような反応がかえってくるのだろうか。注目している。
2010/08/20(金)(酒井千穂)
Kamakura Beach Stream 2004-2010
会期:2010/08/18~2010/08/22
ギャラリーヨコ[神奈川県]
近年、鎌倉の材木座海岸に「海の家」のニュー・ウェイヴが登場しているという。その仕掛人である関東学院大学建築学科による「ビーチハウス・プロジェクト」の展示。最初は小さなシャワーブースをつくることから始め、海の家の設計・施行、さらに鎌倉の海岸全体の環境デザインにまで取り組むようになったという。展示は模型や図面が中心で、毎年同じ材料を使いまわして異なるデザインの家を建ててるのがわかる。なるほど季節限定の仮設建築にはこんなに可能性があったんだと納得。ちなみにギャラリーヨコは漫画家の横山隆一の旧宅の一部を改装したもの。今回はBankARTスクールの木下直之ゼミの校外授業で訪れた。
2010/08/21(土)(村田真)
でらa展
会期:2010/08/22
大同大学白水製図室[愛知県]
愛知県の建築・インテリア系学生団体ゼロワンの主催による、大学3年生のための合同設計展と講評会。「でら」は名古屋弁で「とても」を意味する語であり、「a」にはarchitectureの「a」と「よい」という意味の「ええ」が掛けられているという。建築の合同卒業設計展は、特にここ数年各地域によって盛んに行なわれている。一方、4年生の最後を飾る卒業設計以前に合同で行なう展覧会はまだ多くはないが、少しずつ現われてきている。2009年から関西において建築新人戦がはじまったことが、おそらくひとつのきっかけだったと言えるかもしれない。2010年3月には南洋堂書店のN+ギャラリーにおいて、建築女子による「私たちのアトリエ…女子だけ?!」展が行なわれた。当時大学3年生だった7人のメンバーによる展示であり、それぞれ異なる課題に提出した作品が集められて展示がなされた。なお、それゆえそれらをまとめる「建築女子」というキーワードの是非について議論が巻き起こった。「でらa」展もこの流れに位置づけられるのではないか。学生団体が主催している点で建築新人戦と異なり、また門戸を広く開放し、全国から作品を集めているという意味で、もちろん建築女子とも違う。3年生の展示であるが、運営のメインはゼロワンの4年生というところが面白い。通常は、上級生のために下の学年の学生が準備をするということになるが、このイベントでは逆に一度準備をしてもらった側の学生が、翌年下の学年に恩返し的に会をつくりあげることになり、このような順序の逆転がどのような方向性につながるのか、興味深い。講評会の審査員は、宇野享(大同大学)、橋本雅好(椙山女学園大学)、北川啓介(名古屋工業大学)の3者であったが、北川氏の都合により、急遽筆者が審査員として加わることとなり、一部始終を見ることができた。愛知県内からの作品に加え、沖縄から仙台まで全国からの応募があり、初回として、素晴らしいスタートであった。ほかに似たようなイベントのない8月という時期設定もよかった。作品としては、名古屋工業大学が圧倒的なプレゼン密度を持っていたことが印象的であったが、インテリアやアイディアコンペ的な作品も同時に寄せられており、そのため一元的な審査基準では対応できないところが、逆に今後の多様な審査基準の可能性を示しているようにも思われた。来年以降のさらなる盛り上がりが楽しみである。
2010/08/22(日)(松田達)
蝉座のぬけがら
会期:2010/08/22~2010/08/29
BankARTミニギャラリー[神奈川県]
BankARTスクールの田中信太郎ゼミのメンバーによる発表。立方体を基本とした信太郎さんの金属彫刻と、その前に置かれた卵の殻を器状につなげた阿部静の作品しか記憶にないのは、みんなそれなりに作品らしく仕上がっているのに(いるからこそ?)強烈なインパクトに欠けるからだろう。なら阿部の作品にはインパクトがあるかというとそうでもなく、ただ信太郎さんのシャープでソリッドな作品との対比で目立っただけなのだが。
2010/08/22(日)(村田真)
三菱が夢見た美術館
会期:2010/08/24~2010/11/03
三菱一号館美術館[東京都]
開館記念展の第2弾は、サブタイトルに「岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」とあるように、三菱創業者の岩崎弥太郎以来の岩崎家や三菱関連企業に伝わる美術品を一挙公開するもの。モネ、ルノワールらの佳品をはじめ、古書、ポスター、工芸品までいろいろあるが、私的にもっとも興味深かったのは黒田清輝の《裸体婦人像》と、山本芳翠の「十二支」のシリーズ。前者は発表当時「ワイセツ」との理由で画面下半分を布でおおわれたいわくつきの作品(静嘉堂文庫所蔵)、後者は日本的主題を油絵で描いた明治期ならではの表現だが、三菱重工の所有でなかなか見る機会のない作品なのだ。もともとこの三菱一号館(ジョサイア・コンドルによるオリジナル)が建てられた明治期、三菱には「丸の内美術館計画」というのがあったそうで、コンドルの引いたその図面も出品されている。これが実現していたら日本の美術界はどうなっていただろう。あんまり変わってないような気がする。
2010/08/23(月)(村田真)