2022年01月15日号
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artscapeレビュー

2010年09月15日号のレビュー/プレビュー

三宅砂織 展「Image castings 2&3」

会期:2010/07/09~2010/08/06

複眼ギャラリー[大阪府]

三宅砂織の新作展。印画紙の上に直接物を置いて感光させるフォトグラムの作品は以前から発表されていたし「VOCA展2010」や「ART OSAKA 2010」などでも目にしていたのだが、どちらかというとこれまでは、フィルムに描いた絵を何枚も重ねて制作するこの技法の不思議な空間的奥行きや、光と影がつくる像の、儚気でファンタスティックなイメージに注意を引きつけられていた感がある。しかしながらそれだけではなく、絵も上手い人なのだと改めて三宅の描く絵の魅力を感じた今展。描かれた建物や木などの背景は、はじめは写真が張り付けられているのかと思ったほど細密に表現されていて、ぴたりと時間が止まっているかのようだ。そこに、線で描かれた後ろ姿の少女たちがレイヤーで重なるようなイメージで、異なる時間がひとつの物語を紡ぎ出すような、重層的で立体的な世界を繰り広げていた。少し妖しげな雰囲気をもちながら、幻想的な物語を連想させる三宅の作品世界を堪能できたのが嬉しい。

2010/08/07(土)(酒井千穂)

印象派とモダンアート

会期:2010/07/10~2010/09/20

サントリーミュージアム天保山[大阪府]

印象派が活躍した19世紀後半から20世紀後半までの、いわゆるモダンアートと呼ばれる期間の美術のさまざまな傾向と、そこで生み出された作品を紹介する展覧会。サントリーミュージアムの所蔵品を中心に、国公私立美術館、個人から借用した作品を交えた98点で構成された。会場は「光との対話──印象派の試み」「具象の領域──20世紀美術の一断面」「色と形の実験──20世紀美術の新しい表現」という3つのセクションに分かれており、それぞれを「彫刻の小部屋」「花束の回廊」というテーマ展示でつないでいた。ピサロ、モネ、シスレー、ルノワールなど印象派を代表する画家たちが紹介されていた第1部の、ピサロの初期から晩年までの10点の作品を時系列に追った展示は特に興味深かった。“超・印象派”の画家の代名詞というイメージがあったのだが、順に展示作品を見ていくと、バルビゾン派や写実主義の影響を受けた初期の作品から晩年に描いた都市の風景まで、筆のタッチや色調など、何度かの画風の変遷がうかがえる。また、今展のなかでもユニークだったのが「花束の回廊」。ルドン、マティス、デ・キリコ、キスリング、ローランサン、ビュッフェなどさまざまな画家の、花をモチーフにした絵画が順路の左右の壁にずらりと展示されているのだが、それぞれの強烈な個性が際立って見えるのがじつに面白い。できればもう一度見に行きたいと思った空間。

2010/08/08(土)(酒井千穂)

勝田徳朗 展

会期:2010/08/02~2010/08/08

トキ・アートスペース[東京都]

床に石炭を卵型に敷きつめ、その一端から黒く焦がした流木をヒゲのように伸ばし、石炭の上には木彫の卵型のオブジェを何個も置いている。木から石炭へという不可逆的プロセスと、生と死の循環、そして木、土、水、火という原初的エレメントの連関を、卵というシンボリックイメージを軸に展開している。

2010/08/08(日)(村田真)

梅佳代「ウメップ」

会期:2010/08/07~2010/08/22

表参道ヒルズ スペース オー[東京都]

梅佳代の5冊目の写真集『ウメップ』(リトルモア)の刊行にあわせた「シャッターチャンス祭りin うめかよひるず」。夏休み中ということもあって、家族連れ、若い観客で大賑わいだった。ポピュラリティという点からいえば、彼女の存在感は若手写真家たちの中でも際立っているといえるだろう。
等身大の切り抜き写真が乱立し、「毎日撮った写真の壁」(会期中にもどんどん増えていく)、「TVの部屋」(ビデオ作品の上映)、記念写真のコーナーなどもあって、会場全体の雰囲気が村の夏祭りと化していた。作品の内容からいえば、デビュー作の第32回木村伊兵衛写真賞受賞作『うめめ』(リトルモア, 2006)の延長上で、まったく新味はない。ただ、笑いのツボをピンポイントでヒットする確率はより上がっている。
梅佳代のようなやり方を、携帯電話の写真の時代にふさわしいスナップの現在形として評価するか、俗悪な退化として否定するのかというのは微妙な分かれ道だろう。僕はどちらも不毛のような気がする。このような写真を撮り─撮られることの歓び、できあがった写真を前にして、いろいろ言い合って反応を愉しむようなあり方は、写真が発明されてからずっと続いてきた伝統的な行為ともいえる。梅佳代の写真の「語り部」としての能力は群を抜いており、まだしばらくは「シャッターチャンス祭り」を盛り上げていけそうだ。

2010/08/11(水)(飯沢耕太郎)

hanayo「colpoesne」

会期:2010/08/06~2010/08/15

UTRECHT/NOW IDeA[東京都]

そういえばhanayo(花代)のデビュー写真集が『うめめ』ならぬ『ハナヨメ』(新潮社, 1996)だったことを思い出した。梅佳代もそうだったのだが、hanayoの「女の子写真」をさらに崩し字で書いたような「ボケボケ」のスタイルも、当時は写真界の評価は最悪だった。その後、ドイツに渡り、ドイツ人と結婚して女の子を産みといった経歴を積み重ねるなかで、イラストや音楽も含むマルチアーティストぶりには磨きがかかり、現在ではベルリンと東京を往復してコンスタントに作品を発表するようになっている。
今回はUtrechtから刊行された写真集『colpoesne』にあわせた展示。写真集はモノクロ・ページとカラー・ページが交互に並ぶ構成で、アンカット(フランス装)の造本になっており、ペーパーナイフでページを切り取りながら写真を見る仕掛けが施されている(装丁はRupert Smyth)。その凝った造りは写真の内容にも即していて、モノクロのページはかっちりと構造的に組み上げられた写真、カラーのページはどちらかといえばゆるい開放的な写真を中心に構成される。タイトルが謎めいていて、最初は意味がわからなかったのだが、表紙の文字を見ているうちに謎が解けた。「close」と「open」という言葉の綴りが交互に並んでいるのだ。ということは、モノクロ部分は「close」に、カラー部分は「open」に対応しているということなのだろうか。
このような複雑なコンセプトをきちんと形にできるというのは、かつてのhanayoの作品を知る者から見ると驚きとしかいいようがない。アーティストとしての成長の跡が作品にきちんと刻みつけられているということだろう。なお、展示もかなり複雑なインスタレーションで、部屋の中央に壁で囲まれた仮設の小屋のようなものがあり、その中は真っ暗で、床にちらばった写真をヘッドランプで照らして見るようになっている。小屋のまわりには、モノクロームの室内の写真が、やはり無造作にちらばっていた。イノセントな眼差しはそのままだが、表現力が格段に違ってきているのがよくわかった。

2010/08/11(水)(飯沢耕太郎)

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