artscapeレビュー

2015年07月15日号のレビュー/プレビュー

神山明追悼展「いい夢を見たかい」

会期:2015/06/15~2015/06/27

コバヤシ画廊企画室+ギャルリー東京ユマニテ[東京都]

3年前、還暦を前に亡くなった作家の追悼展。コバヤシ画廊は5点の大作を中心とする展示で、家型もあればテーブル型や舟型もある、いかにも神山らしい建築的な作品が並ぶ。あらためて見ると、家の内部には階段とかテーブルまでちゃんとしつらえてあり、じつによくできている。材質は杉にオイルステインを塗ったもので、画廊の床とほとんど見分けがつかない。ユマニテのほうは、高さ約2メートルの細長い六角錐が15点ほど林立していて、灯台のようだ。別の部屋には、白い紙をつなげて人を思わせるかたちにした晩年の立体作品もあって、これは初めて見る。最後に人のかたちに行き着いたのはなんでだろう。「うまく行けば、あと30年間、ぼくには制作の時間がある」と書いた数カ月後に死去。

2015/06/26(金)(村田真)

伊東豊雄「ライフスタイルを変えよう──大三島を日本で一番住みたい島にするために」

会期:2015/06/04~2015/08/22

LIXILギャラリー[東京都]

今治市伊東豊雄建築ミュージアムがある瀬戸内海の大三島。ほかにも大三島美術館、ところミュージアム、岩田健母と子のミュージアムなどいくつかの美術館があるこの島を舞台に、これからのライフスタイルモデルを提案しようというもの。それはいいんだけど、このギャラリースペース、初期の伊奈ギャラリー時代から原則的に現代美術家の作品を紹介し続けてきたはずなのに、いつから変わっちゃったんだっけ?

2015/06/26(金)(村田真)

稲垣智子「声 -Voice-」

会期:2015/06/23~2015/07/11

The Third Gallery Aya[大阪府]

「ライトに照らされた側が鏡面になり、暗い側の面はガラスのように向こう側が透けて見える」というマジックミラーの二重性をうまく利用したインスタレーション。映像インスタレーション作家の稲垣智子はこれまでも、こうしたマジックミラーでできた箱の中にリアルとフェイクの境界が曖昧なオブジェを詰めた作品を発表してきた。近年の大作《Forcing House》(2013年)では、マジックミラー貼りの温室の中に本物とフェイクの植物が入り混じり、内部の壁面いっぱいに投影された映像の女性が窮屈そうに身じろぎする。現実とも非現実ともつかない光景は、万華鏡のような鏡の反映によって自己増殖を繰り返し、閉じた箱の中に永遠に広がる虚像の世界を生み出していく。
本個展「声 -Voice-」の出品作は、こうした過去作の系譜に連なるものである。マジックミラーでできたケースの中に納められているのは、嫁入り道具や婚礼用の贈答品として用いられてきた、豪華な振袖姿の日本人形や花嫁衣裳の西洋人形たち。足元には色とりどりの造花が敷き詰められ、ライトが華やかに照らし出す。ケースの外側はガラス面になるため、周りの人形たちの姿が多重に映り込んで幻想的な雰囲気を醸し出す。一方、内部をのぞき込むと、鏡の空間に閉じ込められた人形の姿が延々と反復される無限の回路が広がっていく。
鑑賞用の高価な人形たちは、美しく華やかに飾られているようにも、出口のない空間に閉じ込められているようにも見える。彼女たちは自己の分身と見つめ合い、幻影に取り囲まれ、外部のないナルシシスティックな回路に閉じ込められている。「人形」という存在は、男性の眼差しによって形作られた理想像を示唆するとともに、「きれいな花嫁さん」として理想化された自己像の内在化でもあり、出口のない回路の中で、自分自身を見失うほどに分裂し、増殖していくのだ。
稲垣は、そうした美しくも残酷なまでに脅迫的な回路を作り上げつつ、人形たちを花とともに箱に詰める。その手つきは、棺桶や柩を連想させ、「死」を強く感じさせる。ここで、本展で用いられたような婚礼の贈答用の人形は、江戸時代、武家の子女が嫁ぐ際に、災厄を身代わりさせるための人形を嫁入り道具として持たせたという風習に由来することに留意したい。だが、古風な日本人形や少女漫画風の目鼻立ちの西洋人形がどことなく時代を感じさせるように、そうした風習も、結婚率の低下や価値観の変化によって消えていきつつある。稲垣は、人形という似姿を借りて、時代とともに失われ、変化していく女性たちの声に耳を傾けながら、愛おしむように丁寧に箱に納めつつ、そっと葬送を告げるのだ。


会場風景

2015/06/27(土)(高嶋慈)

家縛りプロジェクト──東邸

会期:2015/06/27

渋谷区恵比寿・東邸[東京都]

建物に十文字型に縄をかける松本春崇の「家縛りプロジェクト」、今回は築10年を迎える恵比寿の東邸を縛るというので早々駆けつけてみたら、手伝えという。なんかそういうシステムらしい。東氏は会社勤めのかたわら美術館のボランティアにも精を出す現代美術の強力なサポーターで、通りに面した自宅玄関にも展覧会のポスターが何枚も貼ってある。小雨が降ったり止んだりするなか、その細長い3階建ての家のなかを上ったり下りたりしながら縄を渡し、最後に正面には築10年を祝って特別に紅白の縄で蝶々結びをとりつけた次第。おめでとうございました。


東邸

2015/06/27(土)(村田真)

近代童話劇シリーズvol.1 Noism1「箱入り娘」

会期:2015/06/22~2015/06/28

KATT神奈川芸術劇場[神奈川県]

バルトークのバレエ音楽「かかし王子」を現代的な題材に変え、ネットの時代やひきこもりなどのテーマを交錯させている。ダンスだが、演劇的な内容であり、着ぐるみも一緒に踊り、原始的な「ASU」とはかなり違う雰囲気の作品だった。特に映像のライブ中継、入れ子、隠し部屋、虚実などの空間効果が興味深い。ただ、事前に原作のあらすじを読んでから鑑賞しておけばよかった。

2015/06/27(土)(五十嵐太郎)

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