artscapeレビュー

2015年07月15日号のレビュー/プレビュー

「視点の先、視線の場所」展

会期:2015/06/21~2015/07/05

京都造形芸術大学 Galerie Aube[京都府]

実在する場所に赴いてフィールドワークやリサーチを行ない、場所の認識や眼差しの向けられ方について絵画/写真というそれぞれの媒体において考察している、来田広大と吉本和樹。二人展という枠組みによって、両者の問題意識の共通点と差異がクリアに浮かび上がった好企画。
来田の絵画が対象とするのは、富士山と会津磐梯山という「山」。実在物としても私たちの認識においても「山」という具体的で堅固な存在は、視点の空間的移動によって、複数の見え方を獲得する(Google Earthの衛星写真を元に描かれた真上からの俯瞰図、それぞれ反対側から描いた同じ山並みを表/裏に配した絵画、360度のパノラマを分割した画面)。だがそれらは、複数の視点の並置によって同一性を引き裂かれつつ、身体性という契機によって再び実在感をともなって迫ってくる。ストロークの痕跡を露わに残し、画家の身体性を強く感じさせるチョークを用いて描かれ、また添えられた写真やスケッチが「現地に行った」ことの証左となるからだ。
一方、吉本は、「ヒロシマ」として半ば記号化され、歴史的意味の重圧を負わされた広島という場所に向けられる視線を、写真を用いて批評的に問い直す。吉本は、「平和記念公園」という特殊な場所を、植物、建築物、人間という3つの要素に分解し、図鑑のように即物的に撮影し、採取する。モニュメントや彫像と異なり、ほとんど視線を向けられることのない公園内の樹木や植え込みを丁寧に撮影してみること。原爆死没者慰霊碑を、アーチの奥に原爆ドームを臨むおなじみのアングルではなく、真横から即物的に撮ってみること。特に秀逸なのが、「原爆ドームを撮影する人」の後ろ姿を撮影したシリーズである。思い思いにカメラを向ける人々の背中と裏腹に、彼らの視線の先にある「原爆ドーム」自体は写されず、フレームの外に放逐されている。吉本は、眼差す行為それ自体にメタ的に言及し、「(過剰なまでの)眼差しを向けられる場」であることを示しつつ、眼差しの対象を再びイメージとして奪取することを拒絶する。それは、表象として切り取り固定化しようとする政治性への抗いであるとともに、被爆から70年が経過した現在、被爆という歴史的事実の「遠さ」「見えにくさ」を指し示す。ちょうど、補修工事のために鉄骨の骨組みで覆われ、「見えにくい」原爆ドームを写した写真が暗示するように。


写真上:吉本和樹《Objects / Hiroshima Peace Memorial Park》 下:来田広大《Boundary / Mt. Aizu Bandai》

2015/06/28(日)(高嶋慈)

大石茉莉香「Q0Q0Q0Q0Q0Q0Q0Q0Q0…」

会期:2015/06/23~2015/06/28

KUNST ARZT[京都府]

大石茉莉香はこれまで、崩壊する世界貿易センタービルや市街地を飲み込む津波など、メディアに大量に流通した報道写真を巨大に引き延ばし、解像度の粗い画像の上に銀色のペンキでペインティングする作品を発表してきた。本個展のタイトルは、画像の構成単位であるセルやドットを、Questionを意味する「Q」の形へと変換する行為を意味すると考えられる。
出品作に用いられているのは、東日本大震災直後に「ひび割れた日の丸」のイメージを表紙に掲載した米誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」の画像と、それに対する在ニューヨーク総領事館の抗議を伝える新聞記事。外部からの客観的な視線と、共同体内部での象徴的存在。同じ記号をめぐる反対の視点を効果的に対置し、その視差を浮かび上がらせる。だが、メタリックな銀色のペンキの滴りで覆われたそれらは、下に隠されたものを「見たい」欲望をかき立てつつ、光の反射によって見ることは阻まれてしまう。
また、壊れたTVに、「日の丸」の映像、地上波放送、電源ONの状態の画面が映し出されるインスタレーションも展示された。液晶が死んだ部分が黒くなり、ひび割れのようなラインが走り、色とりどりのバーに浸食されていく画面。地上波放送を流しているはずの画面は、サイケデリックな映像の波と化す。瀕死状態の画面は、メディアの末期症状への比喩となる。メディアの透明性への疑いを、美しくすらある壊れ方で示すこと。TV番組を流す画面を磁石で変調させた、ナム・ジュン・パイクのヴィデオ・アート作品《プリペアドTV》を想起させる。
「社会的共有」を目指して配信され、「情報」として浸透したイメージの表面に裂け目を入れ、印刷されたドットやセルの集合、電気信号で構成されていることを露呈すること。物質性へと還元しつつ、そこに美的な相を見出すこと。大石の作品は、描画という身体的行為/機械の故障による偶然性の介入という2つの方法を用いて、メディアの透明性に対する批評の強度を獲得していた。

2015/06/28(日)(高嶋慈)

アートワーク展示

会期:2015/06/30~2015/07/20

YCC ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]

横浜の新たなクリエイティブ拠点として生まれ変わったYCCヨコハマ創造都市センターのお披露目。ま、ようするに運営団体が代わったんで「よろしく」ってことだ。そのオープニングイベントのひとつが、高橋士郎によるバルーンと今井俊介による絵画の展示。高橋のバルーンは植物みたいな色彩と形態で、ときおり動く。今井はエントランスホールの壁一面にドーンと抽象形態を貼ったほか、絵画2点も展示。まあ今日はオープニングということもあって注目度は低かったみたい。

2015/06/30(火)(村田真)

杉戸洋 展「天上の下地」

会期:2015/05/02~2015/07/26

宮城県美術館[宮城県]

絵画作品は、静岡のビュフェ美術館と同様、家型のモチーフが多い。また1990年代に、9.11を予感するような絵を描いていたことも発見だった。今回の展示は、空間に大きく介入し、あいちトリエンナーレ2013で青木淳と共同で美術館をリノベーションしたプロジェクトの展開形と言えるだろう。おそらく普段の展示室を知っているほど、その空間の変化を強く感じるはずだ。自転車置き場や柱など、前川國男の宮城県美の再解釈もいろいろとあり、それを見つけるのも楽しい。

2015/06/30(火)(五十嵐太郎)

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カタログ&ブックス│2015年07月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

デジタル・アーカイブとは何か──理論と実践

責任編集:岡本真、柳与志夫
発行:勉誠出版
発行日:2015年6月15日
価格:2,500円(税別)
サイズ:A5判、256ページ

構築から利活用まで、アーカイブに携わる全ての人へ贈る― 増え続けるデジタル・アーカイブ。何を見せればよいのか。どこを探せばよいのか。混迷の中にいる制作者・利用者のために、積み重ねた知恵と実例。Europeanaの起ち上げ、東寺百合文書のWEB公開、電子図書館、そして国立デジタルアーカイブセンター構想……。新たな仕組みは、ここから生まれる。 [出版社サイトより]
本サイトの「アート・アーカイブ探求」や「デジタルアーカイブスタディ」を担当している影山幸一が「第1部:アーカイブからデジタル・アーカイブへ 忘れ得ぬ日本列島 国立デジタルアーカイブセンター創設に向けて」を執筆しています。

NO MUSEUM, NO LIFE? これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会

編集:東京国立近代美術館
デザイン:neucitora(刈谷悠三、角田奈央)
発行:独立行政法人国立美術館
発行日:2015年6月16日
価格:2,000円(税込)
サイズ:155 x 185 x 25mm、380ページ

2015年6月16日〜9月13日まで開催中の同名の展覧会カタログ。美術館に関連する36のキーワードとその解説、それに沿ってキュレーションされた国内の国立美術館の所蔵品214点の図版を掲載。

LIXIL BOOKLET 鉄道遺構 再発見

企画:LIXILギャラリー企画委員会
監修:伊東孝
編集:石黒知子+成合明子
AD:祖父江慎
デザイン:鯉沼恵一(コズフィッシュ)
発行:LIXIL出版
発行日:2015年6月15日
価格:1,800円(税別)
サイズ:210 x 205 x 7mm 、76頁

2015年6月5日から大阪のLIXILギャラリーでスタートした同名の展覧会のカタログ。
人々の暮らしに欠かせない鉄道は喜怒哀楽を運びながら、時代とともに変化してきた。しかしその変化は、廃線という結果ももたらす。橋梁や隧道、線路など、風景に残る近代遺産は時を経て、私たちに何を語りかけるだろう。往時を旅するように鉄道遺構を巡るとき、新たな価値を見出すのでないだろうか。 [本書より]

ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり

著者:嶋田洋平
構成・文:石神夏希
発行:日経BP社
発行日:2015年6月1日
価格:2,200円(税込)
サイズ:186 x 128 x 18mm、312ページ

自分のほしい暮らしは自分でつくる。自分の手と、自分の頭と、自分のお金を使って、リスクを取るからこそリターンもある。この本があなたにとって、自分の本当にほしい暮らしを手に入れるために、少しでも役に立てば嬉しい。[本書より]

collaboration アート/建築/デザインのコラボレーションの場

編著:川向正人+オカムラデザインスペースR
発行:彰国社
発行日:2015年5月1日
価格:2,200円(税別)
サイズ:A5判、282ページ

岡村製作所は2003年からショールームの一角で、建築家と建築以外の領域のクリエイターのペアによる共同展示を行なっている。伊東豊雄×takram design engineering「風鈴」、妹島和世×荒神明香「透明なかたち」、小嶋一浩+赤松佳珠子×諏訪綾子「PARTY PARTY」、青木淳×松山真也「ぼよよん」、平田晃久×塚田有一「Flow_er」、ヨコミゾマコト×上田麻希「白い闇」、古谷誠章×珠寳「波・紋」の7組による展示の記録と対話集。

戦争画とニッポン

著者:椹木野衣、会田誠
発行:講談社
発行日:2015年6月22日
価格:2,000円(税別)
サイズ:A5判、144ページ

美術評論家椹木野衣氏が、90年代に《戦争画RETURNS》を発表している絵描き会田誠氏とともに、日本の戦争画について21世紀の視点から読み直す対談。太平洋戦争以降から現在までの戦争を主題にした作品図版を多数掲載。昭和17年に発表された陸軍派遣画家による鼎談「南方戦線座談会」も再録。

2015/07/15(水)(artscape編集部)

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