2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

2016年01月15日号のレビュー/プレビュー

江口寿史 展「KING OF POP」

会期:2015/12/05~2016/01/31

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

画業38年というタイミングが微妙であるが、作品集『KING OF POP 江口寿史 全イラストレーション』(玄光社、2015)の刊行を記念して北九州市漫画ミュージアム(2015/9/19~11/03)から始まった江口寿史作品の巡回展。会場は二つのパートに分かれている。漫画のパートでは1977年の最初の連載作品「すすめ!! パイレーツ」から始まり、「ストップ! ひばりくん!!」、「エイジ」など、ギャグとシリアスとのあいだを自在に交錯する作品原画。イラストレーションのパート(作品集刊行記念なのでこちらがメイン)では、80年代から現在まで年代順にその仕事が紹介されている。2000年代の次が「2008~2015」と区分されているのは、2008年に刊行された作品集以降の作品ということだそうだ。80年代の作品は洗練されつつも漫画的な記号、表現が見えるのだが、次第に現在の画風に至る独特なリアリズムへと変化している様子がわかる(時期的には漫画の仕事が減っている)。着色する画材が、パントーンからマーカー、デジタルへと変わっているが、それはあまり作風への影響はないように思われる。江口寿史の描くかわいい女の子の特徴として鼻の表現──鼻の穴のみを点のように描く──が指摘されているが、それはもちろんのこととして、そのファッション、そして人物のポージング──指先や爪先、そして髪の毛先の演技──によって生まれるかわいさ、あるいはかっこよさ、あるいは乾いたエロティシズムも江口作品の記号として注目したい。江口氏が展覧会開会式に30分遅れてやってきたのは、「白いワニ」を知る世代にとってはある意味お約束どおり。[新川徳彦]

チラシクレジット=(c) EGUCHI HISASHI

2015/12/04(金)(SYNK)

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第1回デダロ・ミノッセ建築賞 日本巡回展

会期:2015/11/27~2016/12/13

ASJ YOKOHAMA CELL[神奈川県]

横浜ランドマークタワーのASJ/アーキテクツ・スタジオ・ジャパンへ。デダロ・ミノッセ建築賞の日本巡回展を開催していた。ヴィチェンツァで1997年にスタートした国際建築賞らしい。同スペースには、建築関係の図書、模型、建築家ファイルなどがある。また上階に位置しているので、みなとみらいエリアへの眺めもなかなかいい。

2015/12/05(土)(五十嵐太郎)

NISSAN ART AWARD 2015 ファイナリスト7名による新作展

会期:2015/11/14~2016/12/27

BankART Studio NYK 2F[神奈川県]

旬のアーティストの新作をまとめて楽しめる。グランプリに選ばれた毛利悠子は、漏水する地下鉄のブリコラージュ的な対処を観察するモレモレ東京のリサーチを発展させた水循環器械だった。オーディエンス賞になった久門剛史は、不思議な記憶の空間をつくり上げた。

写真:上=毛利悠子《モレモレ:与えられた落水 #1-3》、下=久門剛史《Quantize #5》

2015/12/05(土)(五十嵐太郎)

オペラ「金閣寺」

会期:2015/12/05~2016/12/06

神奈川県民ホール[神奈川県]

田尾下哲演出、三島由紀夫原作のオペラ「金閣寺」@神奈川県民ホール。あいちトリエンナーレ2013で試みた「蝶々夫人」の日本的な空間と所作を踏襲しつつ、象徴的な建築の美を効果的に見せる。下野竜也の指揮により、リズムが強く、キャラも表現する黛敏郎の現代音楽が刻まれ、それに伴い、空間が動く。黒光りする床に水面のように反射する金閣寺。変形し、動くスクリーン、フレームの彼方にちらり見える金閣寺、台風と稲妻に襲われる金閣寺、内部から炎上する金閣寺。通常のオペラと違い、華となるメインの女性の登場人物がいない分、主人公の溝口が対峙する建築が主役級の扱いになっていた。

2015/12/05(土)(五十嵐太郎)

林勇気「STAND ON」

会期:2015/11/24~2016/12/19

ギャラリーほそかわ[大阪府]

林勇気は、パソコンのハードディスクに大量にストックした写真画像を、1コマずつ切り貼りして緻密に合成することでアニメーションを制作している映像作家である。本個展では、モニターに流れるアニメーション、壁面に投影された実写映像、3Dプリンターで制作した立体がそれぞれ互いに入れ子状に関係し合い、現実と仮想空間の境目が曖昧化した空間が立ち現われていた。
アニメーションでは、輪郭線だけの男性が、部屋から出て、街を歩き、トンネルを抜けて林、崖の上、野原を歩いていく様子が描かれる。一方、壁面に大きく歪んで投影された実写映像では、街路樹、コンクリートの壁、フローリングの床、草むら、石などをノックする手が映る。現実の確かさや手触りを確かめ、自分の存在を誰かに伝えようとするかのように、何度も反復される行為。よく見ると、ノックされた樹や石などの被写体は、アニメーションの仮想世界を構成するパーツとして、現実世界から「移植」されていることに気づく。
このように、現実と仮想世界の境目が曖昧化した空間で、「不確かさ」の象徴として登場するのが、サイコロである。アニメーション内では、男性の進路は手にしたサイコロの目で決められる。また、実写における「ノックの回数」は、林自身がその場でサイコロを振って出た目の数に従っているという。そして、このサイコロ自体、3Dプリンターでつくった立体物として展示されている。だが、3Dスキャンの際にデータが読み取れなかった底面だけが、「目」がなく空白のままだ。実物からデータ化の過程を経て再構築されることで、生み出された歪みやひずみ。それはまた、映像の展示方法においても、歪みや不安定さとして反復されている。
現実の確かな手触りへの希求と、予測不可能な不確かさの間で揺れ動く世界。実写の断片がフィクションの世界を形づくる。あるいは、フィクションの世界を微分すると、個々の要素は現実の断片でできている。そうしたどちらにも定位できないあてどなさや浮遊感は、ポスト・インターネット時代の知覚や身体感覚を浮かび上がらせている。


林勇気「STAND ON」会場風景

2015/12/05(土)(高嶋慈)

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