2019年10月01日号
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artscapeレビュー

下瀬信雄「つきをゆびさす」

2013年08月15日号

会期:2013/07/17~2013/07/30

銀座ニコンサロン[東京都]

下瀬信雄は、山口県萩市で写真館を経営しながら作家活動を続けている写真家。1996年以来、ニコンサロンで10年以上にわたって発表し続けた「結界」シリーズなどで知られるが、1998年に刊行された写真集『萩の日々』(講談社)に連なるような、日々目にした光景を撮影し続けたスナップショットの独特の切り口にも惹かれるものがある。今回は中判カメラとデジタル一眼レフカメラを併用して、萩を中心として津和野、美東、周南、北九州の各市まで撮影の範囲を広げ、春から秋にかけてゆったりと流れる時間のなかでの人々の暮らし、子どもたち、植物や昆虫、街の光景などを丁寧に、だがのびやかな眼差しで捉えている。被写体の微妙な陰翳を、そっと包み込むように捉えた写真群を眺めていると、呼吸がすっと楽になるような気持ちのよさを味わうことができた。
タイトルの「つきをゆびさす」というのは、仏教用語の「指月」(しがつ)から来ているという。月を指さそうとしても、月を見ることはできずに指を見ることになるということだ。萩市に指月城(萩城の別名)や指月公園があるというだけではなく、どうやらこの言葉を、下瀬はある種の「写真論」として解釈しているようだ。つまり、真実を写そうとしても、写るのは目の前のとるに足らない事象ばかり。だがそのことを嘆くよりは、むしろ「指」そのものの眺めの面白さ、多様性を細やかに見つめ続けることに歓びを感じているのだろう。これから先もずっと長く撮り続けていってほしい写真家のひとりだ。なお本展は、8月8日~21日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2013/07/29(月)(飯沢耕太郎)

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