2020年08月01日号
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artscapeレビュー

沢渡朔「夜」

2013年08月15日号

会期:2013/07/08~2013/07/21

Place M[東京都]

沢渡朔は1939年生まれ。ということは森山大道、中平卓馬の一歳下で、学年的には篠山紀信、荒木経惟、須田一政、土田ヒロミと同じということになる。こうして名前をあげてみると、この世代の写真家たちが、まさに戦後写真の根幹の部分を担ってきたことがよくわかるだろう。彼らが20~30歳代だった1960~70年代こそ、高度経済成長の上げ潮にも乗って、写真という表現メディアの可能性が大きく拡張していった時代だったからだ。
それから40年以上を経て、彼らも70歳代という老年といっていい年齢に達した。だが、それぞれ功成り名遂げて悠々自適なのかと言えば、なかなかそうはいかないようだ。まだまだ現役の写真家として、精力的に活動し続けている。沢渡もまた、今回の「新作展」を見るかぎり、その創作エネルギーはまったく衰えていない。
とある邸宅(詩人の高橋睦郎宅だという)の夜の庭、暗がりに身を潜めた裸体の女が、周囲の植物たちと呼応するようになまめかしく息づいている。その姿態を凝視し、カメラにおさめていく沢渡の感情の昂りが、ロールペーパー・サイズに大きく引き伸ばされた18枚のプリントから、生々しく伝わってくる。もともと女性が発散するエロティシズムに対する感度のよさは、彼のトレードマークのようなものだったのだが、そのアンテナの精度にますます磨きがかかっているようにさえ見えるのだ。視覚的なレベルだけではなく、より根源的な嗅覚、触覚までもが、ねっとりとした夜の闇の中に押し開かれていくような危うさ。その濃密な気配に溺れてしまいそうになった。

2013/07/16(火)(飯沢耕太郎)

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