2019年10月15日号
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artscapeレビュー

アンドレアス・グルスキー展

2013年08月15日号

会期:2013/07/03~2013/09/16

国立新美術館 企画展示室1E[東京都]

アンドレアス・グルスキーの日本における最初の本格的な展覧会である。オープニング・レセプションの会場は人であふれていて、写真・美術関係者の関心の高さがうかがえた。作品を見終えた後だったので、その群衆をやや上から撮影すれば、まさに会場に展示された写真のように見えるとつい考えてしまった。つまり彼の作品には、われわれの物の見方を変えてしまうような力が確かに備わっているということだろう。
言うまでもなく、形式、内容、手法において、グルスキーが1980年代から発表してきた作品群は現代写真の極限値を指し示すものと言える。形式という点においては、まず「大きさ」に圧倒される。縦横2~3メートル以上の「ビック・ピクチャー」がずらりと並ぶ会場は壮観であり、写真を見るという視覚的な体験のあり方を大きく更新した展示と言えるだろう。内容的には、彼自身の個人的な体験(「ガスレンジ」1980)から出発して、視覚的なスペクタクルを味わわせてくれる巨大建築物や大群衆(「パリ、モンパルナス」1993、「シカゴ商品取引所」1999)へ、さらに人間の視覚さえ逸脱してしまうイメージ(「オーシャン」2010)へと至る展開がめざましい。むろん、彼が1990年代以来、作品にデジタル的な画像処理を積極的に取り入れていることも、見逃せないポイントだろう。
グルスキーの作品は、現代美術の領域で高く評価されているが、今回あらためて代表作65点の展示を見て、彼はとてもいいドキュメンタリー写真家だと思った。その時代においてどのような出来事がどう起こっているかを、写真家の視点から再構築していくのがドキュメンタリー写真であり、必ずしも客観的な事実を再現・伝達するものではない。その意味で、グルスキーはアナログからデジタルへ、印刷媒体から美術館のようなスペースへと居場所を変えていった写真というメディアを、的確なやり方で使いこなしてきたドキュメンタリストであると言える。ただし、彼のような巨視的な見方のみが、現代社会に肉迫するドキュメンタリーの方法であるとは思えない。逆にごく微視的な対象とチープな見かけに、徹底してこだわり続けるのもありではないだろうか。

2013/07/02(火)(飯沢耕太郎)

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