artscapeレビュー

浜口陽三、池内晶子、福田尚代、三宅砂織「秘密の湖」

2013年08月15日号

会期:2013/05/18~2013/08/11

ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション[東京都]

東京・水天宮前のミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで開催された「秘密の湖」展は、同館が所蔵する銅版画家、浜口陽三の作品に、三人の現代美術作家の新作をあわせた展覧会だ。そのうち、1975年岐阜県生まれの三宅砂織の作品は、フォトグラムの技法で制作されている。普通、フォトグラムは写真の印画紙の上に何かを置いて光をあて、その輪郭をシルエットとして写しとることでつくられる。ところが三宅の場合、フォトグラムのために用いられる主な材料は、彼女自身が透明なシートの上に描いたドローイングなのだ。それらを印画紙の上に配置し、さらにガラス玉や模造宝石のようなオブジェをちりばめて光に曝す。結果として、できあがってくるのは、写真とも絵画ともつかない、何とも奇妙な手触りを備えた画像である。
もうひとつ重要なのは、三宅のドローイングの元になっているのが写真だということだ。彼女が自分で撮影したものもあるし、友人からもらったスナップ写真、古書店や蚤の市などで購入した古写真(ファウンド・フォト)もある。実際の風景を描くのではなく、写真をドローイングに“翻訳”していく、そのプロセスが制作に組み込まれ、さらに予測不可能な光の拡散や滲みが作用することで、彼女の作品は確実に写真的なリアリティを獲得している。見方によっては、本物の写真よりもより写真らしく見えてしまうものもあるのがとても興味深かった。このような写真と絵画の融合の試みは、なかなか面白い表現の可能性を孕んでいるのではないだろうか。
なお、赤い絹糸を結び合わせて、繊細な神経の震えが形をとったような空間を構築する池田晶子、本のページに無数の針穴を穿ったり、原稿用紙の枡目を切り抜いたりして、日常の事物を魔術的に変容させる福田尚代の作品も、それぞれ見応えがあった。三人の女性作家の「秘密の湖」を垣間見るような、どこかエロチックな視覚的経験を味わわせてくれる好企画だと思う。

2013/07/28(日)(飯沢耕太郎)

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