artscapeレビュー

2014年04月15日号のレビュー/プレビュー

『東海道名所膝栗毛画帖』弥次喜多珍道中展

会期:2014/02/28~2014/03/30

佐川美術館[滋賀県]

日本画壇の裏を描いた黒川博行の小説『蒼煌』に、平安急便なる大手運送会社が設立した平安美術館という架空の美術館が登場する。政界との太いパイプを持つ社長が、人気日本画家の作品を300点も購入したものの、バブル崩壊で売るに売れなくなり、財団法人を設立して美術館を建てたというエピソードだ。もちろん佐川美術館とはなんの関係もないが、つい思い出してしまうのは、この美術館の母体が佐川急便で、目玉コレクションが300点を超す平山郁夫作品だから。でもそんな「予備知識」がなくても、訪れてみればバブリーな美術館に驚き、ド満足するはず。まず琵琶湖のほとりに位置する広大な敷地。隣にはSGホールディングスのスタジアムや体育館などを完備し、一大文化スポーツセンターになっている。人工池に囲まれるように建つ二棟の美術館は、わずかにアールのかかった切妻屋根とグレーを基調にしたシンプルなデザイン。常設は、入口に「平和の祈り」の看板を掲げた平山郁夫のほか、佐藤忠良の彫刻と素描、地下展示室の十五代樂吉左衛門の陶芸など。とくに樂吉左衛門の展示は、作品に比してディスプレイが大げさで微笑ましかった。もっとも心に残ったのは、もっともシンプルに展示されていた佐藤忠良の樹木を描いた素描だった。特別展示室でやってる「弥次喜多珍道中」は、大正期に制作された木版画『東海道名所膝栗毛画帖』全59場面を公開するもの。広重の『東海道五十三次』あたりを参照しつつ、近代的な視点・描法も採り入れてなかなか興味深い連作だった。しかしなぜ佐川で弥次喜多なのかと考えたら、そうか、街道を行く旅ものだからだ。

2014/03/02(日)(村田真)

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芳賀沼整、滑田崇志、滑田光、難波和彦(監修)《針生の箱》/手島浩之、武田幸司《サンカク、ヌケ、サンカク》(第7回 JIA東北住宅大賞2013)

[福島県、宮城県]

審査の三日目は、郡山から約2時間半をかけて、難波和彦の監修、芳賀沼整、滑田崇志、滑田光による《針生の箱》を見学する。山奥の雪に耐える自邸であり、まさに建築家の実験住宅だ。地産材を活用した縦ログ構法による木造プレハブで大きな空間をつくる。道路側は閉鎖的だが、4つの正方形を崩しながらつなぎ、庭側は気持ちのよい吹抜けと大きな開口を生む。今年はこれが東北住宅大賞に選ばれた。
仙台に移動し、手島浩之/武田幸司による《サンカク、ヌケ、サンカク》へ。郊外の新興住宅地において、斜めの切断線を敷地に挿入するシンプルな操作だ。が、これにより近接する両側の家に対して、2つの三角ヴォリュームでブロックしつつ、持ち上げた斜めのテラスが中庭として機能し、遠くの眺望を得る。巧みな配置と断面の微妙な操作は、さすが手島の持ち味だ。

写真:上=芳賀沼整、滑田崇志、滑田光、難波和彦(監修)《針生の箱》、下=手島浩之、武田幸司《サンカク、ヌケ、サンカク》

2014/03/03(月)(五十嵐太郎)

アメリカン・ホラー・ストーリー/アメリカン・ホラー・ストーリー アサイラム

テレビドラマのシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」を見終える。興味深いのは、古い住宅で家族と混じり、ここで亡くなった死者たちが生者のように堂々と歩き回ること。複数の時間と人間が同じ空間に共存する、意外にありそうでなかった設定だ。以前、「非家族と暮らす住宅」というコンペの課題を設定したことがあるが、まさにそれを実現している。映画の『アザーズ』がこれに近かったけれども、生者と死者は交わらない。なにより、「アメリカン・ホラー・ストーリー」は哀しみだけでなく、ときに笑いさえ感じられる。この勢いで同じスタッフによる「アサイラム」のシリーズも見始めた。なるほど、イカレタ人間のオンパレードはすごいが、1作目の「アメリカン・ホラー・ストーリー」における家に縛られた魂の現代的な表現の方がすぐれている。

2014/03/06(木)(五十嵐太郎)

野村佐紀子「sex/snow」

会期:2014/03/01~2014/03/18

Bギャラリー[東京都]

野村佐紀子(写真)、一花義広(リブロアルテ、写真集発行)、町口景(デザイン)、藤木洋介(Bギャラリー)のコラボによる写真展企画の第二弾。今回は物語性を強く意識した前作とは違って、野村佐紀子がここ20年あまりかけて積み上げてきた「闇─裸体─部屋」というテーマが、より深く追求されていた。男性の手、脚など身体の一部を、闇の中に宙吊りに浮かび上がらせるような眺めも手慣れたものだ。その意味では、意外性があまり感じられない展開と言えるが、「雪」というもうひとつのテーマ系との絡み(内と外の世界の対比)、大、中、小の写真36点をバランスよく配置した画面構成など、これまで以上に洗練された美意識を、細部まで手を抜かずに発揮している。
特筆すべきは、リブロアルテから同時期に発行された同名の写真集(300部限定)の出来栄えで、点数が43点に増え、写真の並びも写真集のページをめくっていく速度、感触にあわせるように、厳密かつふくらみのあるものになってきている。ここではグラフィック・デザインを担当した町口景(町口覚の弟)の能力が、充分に発揮されていると言えるだろう。どうやら、この野村佐紀子の連続展示は、内容的に一貫したものではなく、その度ごとに形を変えながら続いていくことが予想される。ただ、あまりいろいろな方向に分散してしまうのも、ちょっともったいない気がする。前にも書いたのだが、全体を眺め渡す視点から書かれたシナリオが必要になってくるのではないだろうか。

2014/03/07(金)(飯沢耕太郎)

トウキョウ建築コレクション2014 全国修士論文展 公開審査

代官山ヒルサイドテラス、ヒルサイドプラザ[東京都]

トウキョウ建築コレクションの全国修士論文展では、パネルと実物、一部模型も展示されている。代官山のヒルサイドプラザの公開審査会に参加した。10名が発表し、質疑、そして全体の討議を行なう。予備審査では、学会や大学とは違う場なので、決まった枠組で精緻に調べたというよりも、論文を読んだ後、少し世界の見え方が変わるようなものを選ぶ。公開討論会を経ても、鬼頭貴大の『中世重層建築論』が突出しているという印象は変わらなかったため、五十嵐賞とした。日本建築史に垂直軸の意味論を導入しながら、古代の継承、大胆な仮説、二間論、具体的な設計論なども展開し、文章がちゃんとしており、読み物としても面白い。なにより自分の頭を使った論文である。

2014/03/07(金)(五十嵐太郎)

2014年04月15日号の
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