artscapeレビュー
2014年04月15日号のレビュー/プレビュー
松平莉奈「未だ見ぬ熱帯」
会期:2014/03/04~2014/03/16
ギャラリーモーニング[京都府]
京都市立芸術大学大学院絵画専攻日本画領域をこの春修了したばかりの松平莉奈。今展は同ギャラリーでの2度目の個展だが、すでに備わった貫禄を感じるほど絵が上手い。今回は、オオカミに育てられたという野生児、アマラとカマラの逸話を元に描いた《神殿の狼、アマラとカマラ》、森女と一休の物語をモチーフにした《一休森女伝》といった大作のほか、女性の頭部肖像の小作品が展示された。作家の豊かな想像力と、つい見入ってしまう神秘的な魅力をたたえた人物の目や口元などの描写が強烈な印象。今後の活躍も楽しみにしている。
2014/03/15(土)(酒井千穂)
混流温泉文化祭
会期:2014/03/08~2014/03/23
丸屋ビル、仲見世通り商店街、平和通り商店街[静岡県]
久しぶりに熱海を訪問した。近年は人が減っていると思いきや、日曜だからなのか、それとも若者が海外に行かなくなったからなのか、想像以上ににぎわっていた。熱海に移住した戸井田雄(せんだいデザインリーグ2006で、地面に穴を掘ったファイナリスト)が企画した混流温泉文化祭を開催しており、駅前の商店街からuwabamiの作品が各店舗のショーウィンドウに展開する。メイン会場は、銀座通りの丸屋ビルの1階と地下である。かつてパチンコ屋だった建物の内部で、勝正光の鉛筆画、近藤洋平による椅子のインスタレーション、眞島竜男による温泉での着替え映像作品、田原唯之の交換する水のインスピレーション、木村恒介の横縞になった風景写真、机の傷に蓄光性の塗料をすり込んだ戸井田の作品が楽しめる。このイベントは、岩室温泉のある新潟からのサポートで実現できたらしい。銀座通り周辺の街歩きを行なう。震災と津波、そして大火のために戦前の建物はなくなり、20世紀後半のものだが、昭和の時層を感じる味のある建物が多く、なかなか面白い。その後、アートと街づくりをめぐって、藤浩志とトークを行なう。あいちトリエンナーレとかぶり、彼がディレクションした十和田奥入瀬芸術祭に行けなかったのが惜しまれる。
写真:近藤洋平による椅子のインスタレーション
2014/03/16(日)(五十嵐太郎)
3.11映画祭 特別トーク「新しいフクシマをつくる~福島第一原発観光地化計画~」
3331 Arts Chiyoda[東京都]
アーツ千代田3331の3.11映像祭に併せた特別トークのイベント「新しいフクシマをつくる~福島第一原発観光地化計画~」にて、筆者がモデレータをつとめ、東浩紀がフクイチ計画の概要、井出明がダークツーリズムと震災遺構、津田大介がチェルノブイリと福島ツアーについて語る。昨年、同じ場所でアーキエイドがやはりツーリズムをキーワードに復興計画を語っていたことの続編になるだろう。このトークに備えるべく、ゲンロンによるチェルノブイリ取材のドキュメント『19862011』(小嶋裕一監督)を見る。声や音も入る映像だけに、ダークツーリズム・ガイドの本というメディアでは伝わらない現場のライブな空気感が伝わる。これを見ると、やはりチェルノブイリに行きたくなる。
2014/03/17(月)(五十嵐太郎)
中村一美 展
会期:2014/03/19~2014/05/19
国立新美術館 企画展示室1E[東京都]
内覧会に遅れて行ったため終了まで小1時間しかなかったが、それでも十分見られると思ったのが大間違い。1点1点じっくり見ていったら時間切れ、クライマックスともいうべき「ウォール・ペインティング」を含む3部屋ほど残して追い出されてしまった(急ぎ足で見たが)。これは体調を整えてもういちど見に行かなければいけない。それほど「見甲斐」のある展覧会だった。それは初期のY型から斜め格子、曲線の出現、蛍光色の使用、デコレーションのような絵具のテンコ盛りと徐々に展開する作品内容もさることながら、なにより作品の大きさと数によるところが大きい。質より量をホメるというのもなんだが、だだっ広いこの美術館の展示室を埋め尽くして余りある作品の物量にまず圧倒される。驚くのは、初期のころから100号、200号の大作を量産していること。セコい話だが、木枠とキャンバスだけで何万円もするし、厚塗りだから絵具の量もハンパじゃない。それを年に何十点も量産しているのだ。まるで30年も前から国立美術館で個展を開くことを想定して制作してきたかのような姿勢。もうそれだけで愕然としてしまう。これは尋常ならざる自信と覚悟がなければできないこと。とりあえず量だけで満腹、いや感服しました。
2014/03/18(火)(村田真)
NAGOYA Archi Fes 中部卒業設計展 公開審査/アフタートーク
吹上ホール/早崎施術院1F[愛知県]
NAF2014中部卒業設計展の会場、吹上ホールへ。午前はパネルディスカッション形式で、地元建築家らによる一次審査だった。リアルタイムで各作品の得票が表示された後、8作品が選ばれ、それに二次審査員(西沢立衛、城戸崎和佐、谷尻誠、藤村龍至、五十嵐)が4作品を追加し、午後のプレゼンと最終審査を行なう。昨年までの東海地区卒業設計合同展ディプコレは数人のメンバーだったが、NAF2014に模様替えし、一気に100人超えのスタッフによる大組織で運営していることに驚く。一次審査は九州デザインリーグや新人戦に近い形式だが、二次審査は仙台の卒計日本一をほうふつさせるスタイルとなった。最終の審査では、澤崎綾香の「コワレカタノツクリカタ」(松本城の外堀復元に伴う家屋撤去プロセスのデザイン)vs杉浦舞の「変容する皮膚、群体の意志」(新素材による昆虫建築のSF的世界)の決戦となり、自ら積極的に賞を穫りにいった後者が一票差で最優秀賞となる。強い建築的な提案を出せなかった作品群に対して、人間が勝ったと言うべきか。「変容する皮膚、群体の意志」も、ブルーノ・タウト/パウル・シェーアバルトらが20世紀初頭に夢想したガラスのユートピア世界、クリスタルに覆われたヴィジョンの21世紀バージョンとなるくらいの圧倒的な構想力を提示できれば、文句なく、作品の力だけで勝っていたはずだ。五十嵐賞は、平野遙香の「まちのケイショウ」とした。何の変哲もないまちの一角が防災公園に指定され、すべて壊されていくことに対し、街区の道路や敷地割、住宅のヴォリュームを記憶として残しながら防災公園とするもの。20世紀の日常への細かい観察、被災地の遺構問題の二点から興味をもった。デザインだけなら、藤江眞美の「伽藍の跡 都市化する6つの寺の編集」が巧いと思ったが、寺院を3つに統合しつつ、屋根だけ残すのが引っかかった。明治時代の神社合祀も想起させるが、戦後の寺院も歴史の一部であるし、そもそも宗教施設を合理的、経済的論理で「編集」する考え方がそぐわない。
審査の翌日は中部卒業設計展のアフタートークを行なう。1次と2次の審査員が選出した作品を再度レビューし、前日の結果を振り返る。あいちトリエンナーレ2013の影響を検証したり、今後のNAFの活動や中部卒業設計展をどうするかの公開ブレストにもなった。アフタートークこそが、他の卒計展と一番違うコンテンツだった。にもかかわらず、意外と出品していた学生の参加が少なかったのは残念である。さらにもう一度、審査員に作品をレビューをしてもらえる機会は、他の卒計展にない貴重な機会なのだが。
2014/03/18(火)~2014/03/19(水)(五十嵐太郎)