artscapeレビュー
2014年04月15日号のレビュー/プレビュー
支倉常長像と南蛮美術──400年前の日欧交流
会期:2014/02/11~2014/03/23
東京国立博物館本館7室[東京都]
約400年前に伊達政宗の命によりメキシコ経由で渡欧した支倉常長の肖像画を、《南蛮人渡来図屏風》《世界図屏風》とともに展示。肖像画はローマ教皇に謁見するためローマ滞在中に描かれたとされ、イタリアの個人蔵となっている。仙台市博物館にある半身像ともども初めて西洋で油彩画に描かれた日本人の肖像画だろう。顔や衣装はメイド・イン・ジャパンなのに、陰影や立体感がつけられて妙な感じがするし、背景の南蛮船や聖人像などとの組み合わせもミスマッチ。逆に日本人が西洋人を平面的に描いた《南蛮人渡来図屏風》と好対照をなしている。もし可能なら、この《支倉常長像》と、和服姿の夫人を描いたモネの《ラ・ジャポネーズ》を並べてみたい。
2014/03/14(金)(村田真)
VOCA展2014「現代美術の展望──新しい平面の作家たち」
会期:2014/03/15~2014/03/30
上野の森美術館[東京都]
いまさら具象も抽象もないけれど、あえて分ければ、VOCA展の初期のころは抽象絵画が多かったのに、次第に具象が大半を占めるようになり、近年再び抽象が復活し始めている気がする。といってもカッコつきの「抽象」で、モダニズム華やかなりしころの抽象絵画とは似て非なるものかもしれない。今回でいえば秋吉風人、大槻英世、小川晴輝、片山真妃、高橋大輔らだ。支持体を透明にしたり(秋吉)、ユーモラスなだまし絵風にしたり(大槻)、イリュージョニズムを導入したり(小川)、作画に過剰なルールを課したり(片山)、絵具を立体的に盛り上げたり(高橋)と、モダニズム(フォーマリズムと置き換えてもいい)の作法を踏み外す掟破りの「抽象」が多い。これは従来の抽象絵画を相対化するメタ抽象ともいえるし、抽象絵画のパロディといえなくもない。かつての藤枝晃雄の言葉を借りれば「芸術としての芸術」ではなく「芸術についての芸術」ということだ。もっともそれが彼らの受賞できなかった理由ではないだろう。実際、彼らの作品が今回の受賞作より質が低いとは思えないのだけど。
2014/03/14(金)(村田真)
ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展
会期:2014/02/11~2014/03/23
渋谷区立松濤美術館[東京都]
高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之が1963年5月に開催した「第5次ミキサー計画」に際して結成され、公式的には1964年10月の「首都圏清掃整理促進運動」まで継続したアート・パフォーマンス・グループ、ハイレッド・センター(Hi-Red Center、以下HRC)。本展は多くの作品・資料を通じて、その全貌と正体を詳らかにしようとする意欲的な企画である。
ここでは、HRCと写真メディアについてあらためて考えてみることにしよう。彼らの代表作のひとつである帝国ホテルを舞台とした「シェルター計画」(1964年1月)では、来客を前後左右、上下から撮影したり、赤瀬川原平の「模型千円札」では、本物の千円札を写真製版で印刷したりするなど、HRCは積極的に写真を作品に取り込もうとしていた。だが、より重要なのは、彼らのメインの活動というべき「直接行動」(パフォーマンス)が、写真なしでは成り立たなかったということである。ロープを至るところに張り巡らせたり、ビルの屋上からさまざまな物体を落下させたり(「ドロッピング・ショー」1064年10月)、都内各地の舗道などを雑巾で「清掃」したりする彼らの活動は、そもそも一過性のものであり、写真を撮影しておかないかぎりは雲散霧消してしまう。パフォーミング・アートの記録の手段として、写真は大きな意味を持っているが、HRCにおいてはまさに決定的な役割を果たしたと言えるだろう。
その意味では、記録者(写真家)の存在も大きくなるわけで、「ドロッピング・ショー」や「首都圏清掃整理促進運動」を撮影した平田実の写真などは、その写真家としての能力の高さによって、単純な記録を超えた価値を持ち始めていると思う。もしもこれらの写真が存在せず、作品とテキストだけの展示だったとしたなら、HRCの活動の面白さはほとんど伝わらないのではないだろうか。何よりも写真によって、彼らの活動のバックグラウンドとなった1960年代の空気感が、いきいきと伝わってくるのが大きい。
2014/03/15(土)(飯沢耕太郎)
ex.resist vol.2
会期:2014/03/14~2014/03/23
Galaxy-銀河系[東京都]
resist写真塾は吉永マサユキを塾長に2006年にスタートした。毎回、特別講師の森山大道をはじめとするゲスト講師を迎え、定員20名で作品講評と写真集制作を中心とした授業を行なっている。本展はその修了生によるグループ展で、大谷次郎、奥田敦史、川本健司、竹内弘真、谷本恵、星玄人の6人が参加した。
「時流に乗らず、短期的な結果を追い求めず、技巧手法のごまかしもしない。周りに惑わされることなく、自分がこれと決めた対象に向き合い続ける」という塾の方針をストレートに受けとめた作品群は、気魄と意欲にあふれたものばかりだ。スナップ写真特有の直接的な身体性を、これほど生真面目に追い求めている集団はほかにないのではないだろうか。ただ、スタートから9年経って、8期にわたって修了生を出し続けてくると、そろそろその直球勝負の表現のあり方が、スタイルとして固定しかけているのではないかと思ってしまう。吉永マサユキや森山大道の手法を後追いし続けた結果、彼らの「縮小再生産」になりつつあるのではないかと懸念するのだ。
たとえば、出品者のひとりの星玄人は、東京・新宿のサードディストリクトギャラリーでも発表を重ねている写真家で、本点の出品作である「大阪西成」も、不穏な気配が全面に漂う力作だ。だが、その彼の写真が、ほかの写真家たちの作品と同化し、むしろパワーダウンしているように感じられた。もうそろそろ、resistという枠組そのものを、流動的に解体していく時期にきているのではないだろうか。
2014/03/15(土)(飯沢耕太郎)
未来へのマモリ・デザイン「熱発コンペ/日本列島、一部、発熱」二次審査 公開プレゼンテーション
ものづくり体験館[兵庫県]
遠藤秀平が設計した姫路の《ものづくり体験館》へ。彼が得意とする、帯状の要素を折りたたんだタイプの建築ではないが、直交する幾何学を回転/ドライブさせるデザインだ。特筆すべきは、素材の種類の多さである。天井、壁、床など、あらゆる面の仕上げが、異なるテクスチャーのバリエーションを奏でる。ものづくりの施設ゆえの選択だろう。
ここでは、未来へのマモリ・デザインコンペの公開プレゼンテーションと審査・討議に参加した。テーマの「熱発」は、+5度になった世界を想定するというもの。以前、遠藤秀平が企画した、+5mになった世界を考える、水没コンペの続編にあたる。1次選考を通過した9組が発表を行なうが、審査員(12名)の方が多いという贅沢な場だった。個人的には日常の延長だと、どうしても既視感が強くなりがちなので、極端な作品に興味をもった。例えば、蚊の誘導という類例がないユニークな切り口の森本悠義。逆円錐の海上都市を構想する劉志超(筆者による極熱賞は、これを選んだ)。そして水上の円型フロート群による遊農生活を提案した木作洋輔である。
2014/03/15(土)(五十嵐太郎)