artscapeレビュー
2014年04月15日号のレビュー/プレビュー
川瀬巴水 展──郷愁の日本風景
会期:2014/03/19~2014/03/31
横浜高島屋ギャラリー[神奈川県]
大正後期から昭和前期までの約30年間、日本各地を旅しながら風景をスケッチし、木版画に描き出した川瀬巴水の生誕130年を記念する回顧展。戦中戦後の作品もあるが、大半は1920-30年代の「古きよき時代」のもの。江戸期の名所図絵などを参考にしながら、浮世絵版画の簡素な構図・色彩と西洋絵画のリアルな描写を兼ね備えた風景版画を確立した。風景画として優れているとか木版画として斬新だとかいうことではなく、例えば18世紀にカナレットの描いたヴェネツィアの風景画が旅行者に重宝されたように、川瀬の版画も絵葉書代わりの土産物として人気を博したのではないか。だとすれば、彼の制作活動は市場原理に基づく経済活動にほかならず、それこそ浮世絵のように庶民に支持されてなんぼの大衆芸術だったといえるだろう。
2014/03/21(金)(村田真)
PHOTOGRAPHY NOW!
会期:2014/03/15~2014/04/20
IMA gallery[東京都]
季刊写真雑誌『IMA』を刊行し、日本の現代写真のコレクションにも乗り出しているアマナホールディングスが、六本木に新たなスペースをオープンした。IMA gallery(展示)、IMA books(書籍販売)、IMA cafeが併設され、写真を「見る」「読む」「買う」「飾る」といったさまざまなアプローチを楽しむことができる。そのうちIMA galleryでは、こけら落としとして「PHOTOGRAPHY NOW!」展が開催された。
出品作家はジェイソン・エヴァンズ、シャルロット・デュマ、モーテン・ラング、クリスティーナ・デ・ミデル、インカ・リンダガード&ニクラス・ホルムストローム、ネルホル、西野壮平、エド・パナル、題府基之、ルーク・ステファソン、クレア・ストランド、シェルテンス&アベネスの12名(組)。かなり雑多な取り合わせだが、多くは『IMA』誌上ですでに作品を発表済みの写真家たちだ。ほかに今年度の木村伊兵衛写真賞を受賞したばかりの森栄喜の作品が特別展示されていた。
作家たちの経歴をざっと見ていて気づいたのだが、彼らの多くは美術系の大学などを卒業している。つまり、コンセプトを手際よく作品化する術をきちんと身につけているわけで、そのすっきりとした見栄えのよさは、まさに「ショールーム」という趣のある会場の雰囲気にぴったり見合っている。正直、このような無味無臭で小綺麗なスペースから、何か創造的な営みが育っていくとは思えないのだが、今後の展開をもう少し見守っていきたいと思う。
2014/03/22(土)(飯沢耕太郎)
アーヴィング・ペン「Cigarettes」
会期:2014/03/20~2014/04/19
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]
アーヴィング・ペンの多彩な作品群のなかでも、「Cigarettes(煙草)」のシリーズは最も好きなもののひとつだ。ペン以外の誰が、地面に落ちている煙草の吸い殻を被写体にすることを思いつくことができただろうか。そこにはペンの写真家としての鋭敏な感受性と、どんな些細な物でも彼のエレガントな作品世界の中で輝かせてみせるという、揺るぎない自信が表われている。
ペンがこのシリーズを最初に発表したのは1975年で、その展覧会を見て衝撃を受けたロンドンのハミルトンズ・ギャラリーのディレクター、ティム・ジェフリーズは、いつの日かそのすべてを展示したいと考えた。それがようやく実現したのは2012年で、今回のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムの個展では、そのうち16点が展示されている。このシリーズを、これだけまとまった形で見ることができるのは、おそらく日本では初めてのことだろう。
煙草の吸い殻そのものの繊細かつ微妙な質感、その奇妙に心そそられるフォルムも魅力的だが、ペンがこのシリーズでプラチナム・パラディウム・プリント(プラチナ・プリント)を初めて用いたというのも重要な意味を持つ。本作が19世紀に流行したこの古典技法を、現代写真において復活させる大きなきっかけになったからだ。あらためて展示された作品を見ると、彼がなぜプラチナ・プリントに目をつけたのかがわかるような気がした。そのセピア調の色味、中間部の柔らかで豊かなトーンは、まさにクローズアップされた煙草の吸い殻にふさわしいからだ。逆にいえば、プラチナ・プリントは普通のポートレートや風景にはあまり向いていないのかもしれない。ペンのこの作品以後、プラチナ・プリントをいろいろな被写体の写真に使うことが多くなったが、もう一度その適性を吟味してみるべきではないだろうか。
写真:アーヴィング・ペン《Cigarette No. 50》New York, 1972/1975年
プラチナ・パラディウム・プリント
イメージ・サイズ: 59.7 x 45.1 cm
ペーパー・サイズ: 63.5 x 55.9 cm
マウント・サイズ: 66 x 55.9 cm
Copyright © by the Irving Penn Foundation
Courtesy Pace/MacGill Gallery, New York
2014/03/22(土)(飯沢耕太郎)
国際日本文化研究センター 共同研究会「建築と権力の相関性とダイナミズムの研究」
国際日本文化研究センター[京都府]
京都の国際日本文化研究センターにて、御厨貴と井上章一が企画する建築と権力の研究会に出席した。筆者は「政治家と建築家」について発表し、各地方自治体の知事、市長、町長と、在籍時の建築プロジェクトのつながりを整理する。五十嵐研の院生、椚座基道による、建築家にして金沢市長になった片岡安について論文も紹介した。牧原出は大磯吉田茂邸について発表した。今回、日文研で楽しみにしていたのは、研究会の後に開催された井上章一の演奏とトーク「ジャズピアノの夕べ」だった(飲食代のみで、音楽チャージなしが強調された)。彼が41歳から独学でピアノを始めたのは知っていたが、初めて聴く。ここまで上達するのかと感心した。ただ、あいだの笑えるトークがやはりはるかにうまい。
写真:内井昭蔵《国際日本文化研究センター》
2014/03/22(土)(五十嵐太郎)
近藤幸夫先生──思い出の会
会期:2014/03/21~2014/03/23
慶応義塾大学日吉キャンパス来往舎ギャラリー[神奈川県]
この2月14日に亡くなった近藤幸夫さんをしのぶ展覧会。近藤さんは1980年に東京国立近代美術館に入られたが、当時の東近には優秀なだけでなくアクの強い研究官が多く、近藤さんみたいに真っ当な人は病気になってしまうんじゃないかと思っていたら、案の定体調を崩され、1996年に慶応義塾大学に移籍。その後は闘病しながら後進を指導し、日吉キャンパスの来往舎ギャラリーなどで学生とともに展覧会を企画されていた。展示は、東近での「現代美術における写真」「手塚治虫展」などのカタログ、翻訳した『ブランクーシ作品集』、来往舎ギャラリーでの展覧会リーフレットや写真など。亡くなったからいうのではないが、有象無象の跋扈する美術界のなかでは珍しく、本当によい人だった。
2014/03/22(土)(村田真)