artscapeレビュー
2014年04月15日号のレビュー/プレビュー
MONSTER Exhibition 2014
会期:2014/03/08~2014/03/12
渋谷ヒカリエ 8/COURT[東京都]
渋谷ヒカリエの8階へ。大学院生の論文から頭を切り換え、今度は庄司みゆきが企画した、さまざまな怪獣が集合するMONSTER展のオープニングにて審査を行なう。去年に続き二回目だが、全体の出品作のクオリティは上がっている。また作品のカタログも制作され、展覧会としても進化した。投票した宮崎宏康のひらがな FIGURESは、他の票も集めており、最優秀賞となった。デザインとしての怪獣はカッコよさが勝負だが、ここではアートとしての怪獣を重視した。すなわち、彼だけが怪獣的なかたちを一切模倣・反復せず、「がおーきゃー」という音を三次元化している。日本で独自に発達した怪獣文化を擬声語で表現しているのだ。1954年のゴジラ第一作(半世紀続く世界で希有な同シリーズの最高傑作)は日本の戦争体験が生み出した怪獣だが、MONSTER展も、実は東日本大震災を契機に仙台から企画がスタートしたものである。今後、どんな怪獣が生まれるのか楽しみだ。出品作はニューヨークでも展示される予定。筆者くらいの世代だと、最初の怪獣との遭遇はウルトラマンになる。これは結構重要な体験で、何かデザインされたものの形が面白いと最初に感じたのは、テレビで見る怪獣たちだった。いわば原体験である。ゴッホやピカソを美術書や展覧会で見るのではなく、むしろ怪獣の造形によって先に洗礼を受けている。ただ、宮崎宏康のひらがなFIGURESは、さんざん出尽くした怪獣の視覚イメージを繰り返すよりも、むしろ映画『大怪獣東京に現わる』に近い。これは徹底して怪獣そのものを描かず、最後には怪獣が神話化し、祭り化していく物語だった。
写真:上=会場の様子。下=宮崎宏康《ひらがな Figures『が』『ぉ』『─』・『き』『ゃ』『─』》
2014/03/07(金)(五十嵐太郎)
作家ドラフト2014 鎌田友介「D Construction Atlas」展/高橋耕平「史と詩と私と」展
会期:2014/02/08~2014/03/09
京都芸術センター ギャラリー北・南[京都府]
京都芸術センターにて、青木淳が審査員を務めた公募展「作家ドラフト2014」を見る。窓枠などを使う鎌田友介(今回は京都の空襲リサーチを反映した作品)と廃校のドキュメント映像の高橋耕平。青木は多くの応募作から、実際にどう展示されるかをイメージして、二人のプランを選んだという。
写真:鎌田友介「D Construction Atlas」展
2014/03/08(土)(五十嵐太郎)
POP SPRING
会期:2014/03/08~2014/03/22
トランスポップギャラリー[京都府]
八重樫王明による、conix、ジュン・オソン、白根ゆたんぽ、西武アキラ、というメンバーの絵を全部盛り込んだ展示のメインビジュアル作品は見応え充分。一見バラバラなメンバーのトーンの揃い方が面白い。5人ともどことなくマンガっぽい動きのあるフレーミングなのも見ていて飽きない要因かも。
2014/03/08(土)(松永大地)
せんだいデザインリーグ2014 卒業設計日本一決定戦 公開審査
東北大学百周年記念会館川内萩ホール[宮城県]
仙台にて、卒計日本一決定戦の審査を担当した。午前は約3時間半かけて全作品を見る。昨年の日本一、高砂充希子の「工業の童話/パブリンとファクタロー」の影響が大きいことに驚く。すなわち、まわりの風景要素のサンプリング×搭状に積むタイプの作品が目立つ。そう言えば、大西麻貴の翌年にも同じ現象が起きていた。午後のファイナルの審査では、九州大学の岡田翔太郎による「でか山」で、日本一となる。アーキグラムのインスタントシティや神社建築の起源説のひとつを想起させる、七尾のプロジェクトだ。これは本当にできたら、是非行ってみたいと思わせる力があった。でか山は、この提案だからこそ、模型がデカ過ぎなのもありだと思ったが、来年以降、大きい模型だから評価されたと勘違いが起きないことを願う。今年の日本一決定の最後はでか山が突出し、バトルになりにくい流れだったが、ファイナリストでその可能性があったのは、東京理科大の安田大顕の「22世紀型ハイブリットハイパー管理社会」だった。22世紀管理社会は、ちゃんとした形態操作も伴うアイロニカルな社会批評なのだが、後者の細部があまり徹底されていないのが惜しかった。22世紀型の「理想」社会は、例えば、人口の半分が「犯罪者」とされ、いまの刑務所とは違うシステムだというところまで、フィクションのディテールがあれば推した。日本三は九州大学の市古慧の「界隈をたどるトンネル駅」である。リニアモーターカーの開通を見込み、名古屋駅の地下を巨大開発するというもの。地下街が発達した名古屋ならではの特性を活かし、名駅地下の着眼点はよいが、気になったのは、駅から納屋橋、錦三、円頓寺までずっとトンネル地下街が続くこと。これはさすがに相当な長さと規模になってしまう。今年は審査委員長が北山恒だったことから、全体として社会性が強く問われたと思う。
2014/03/09(日)(五十嵐太郎)
鈴鹿芳康「新作! 世界聖地シリーズ:インドネシアより」
会期:2014/03/05~2014/04/01
ハッセルブラッド・ジャパンギャラリー[東京都]
鈴鹿芳康はサンフランシスコ・アート・インスティテュート卒業後、京都造形芸術大学で長く教鞭をとってきたアーティスト。版画からオブジェ作品まで、幅広い領域で作品を発表してきたが、近年は写真が中心的な発表媒体になりつつある。特にピンホールカメラを使用した作品は、東洋思想に造詣が深く、易や五行説などを下敷きに「必然と偶然が織り成す世界」を追求してきた彼にとって、さらに大きな意味を持ちつつあるように思える。
ひさしぶりの東京での個展でもある今回の新作展では、2012年に京都造形芸術大学退官後、新たな拠点となったインドネシア・バリ島で撮影した写真を展示している。太陽と海を中心に、仏教寺院や仏像などをシルエットとして配したシリーズは、8×10インチ判のフィルムを使用し、15秒から1分30秒ほどの露光時間で撮影された。それを伝統和紙(アワガミインクジェットペーパー)にデジタルプリントするという「ハイブリッド作品」として成立させている。ピンホールカメラはコントロールがむずかしく、実際に撮影してみないと、どのような画像が浮かび上がってくるのかはよくわからない。アーティストの主観的な操作ではなく、そこにある世界が自ずと形をとることを目指すという意味で、ピンホールカメラには写真表現の本質的な可能性が内在しているのではないだろうか。ハレーションを起こしつつ、天空に広がって微妙な彩をなす太陽の光の画像を見ながら、そんなことを考えていた。
2014/03/10(月)(飯沢耕太郎)