artscapeレビュー
2014年06月15日号のレビュー/プレビュー
開館10周年記念 レアンドロ・エルリッヒーありきたりの?
会期:2014/05/03~2014/08/31
金沢21世紀美術館 展覧会ゾーン[石川県]
金沢21世紀美術館の「レアンドロ・エルリッヒーありきたりの? 」展へ。すでに常設で組み込まれたプールの作品のように、空間のイリュージョンをつくりだす作風で知られるが、美術館の内部に様々な虚構の空間が出現する。映画『インセプション』のように、横倒しになった大きな階段室、展示室内のありえないエレベーター、鏡面効果を用いた屋内庭園、床に映り込む街路、鏡越しのリハーサル室、ログハウスなど、自分がどこにいるのか、くらくらする体験が続く。
2014/05/16(金)(五十嵐太郎)
焼け跡と絵筆──画家の見つめた戦中・戦後展
会期:2014/04/12~2014/06/15
板橋区立美術館[東京都]
今日は板橋から吉祥寺へ戦中・戦後美術のハシゴだ。板橋では同館コレクションから戦中・戦後に描かれた絵画を紹介している。「戦中の前衛画壇と池袋モンパルナス」「時局の悪化と画家のまなざし」「焼け跡の風景」「事件、社会を描くルポルタージュ絵画」などいくつかのテーマに分かれているが、奇妙なのは戦中と戦後で作品にそれほど違いが感じられないこと。一様に暗いのだ。もうちょっと戦後の絵画は明るくて解放感があると思ったのに、やっぱり敗戦の重圧と脱力感は想像以上に大きかったのだろうか。おそらく戦中も戦後も画材が乏しかったので、暗くて小さい絵しか描けなかったという理由もあるかもしれない。威勢のいい戦争画もないし。目を引いたのは、福島秀子、漆原英子、草間彌生ら戦後登場した女性作家のザワつくような作品と、中村宏や高山良策らによる社会的メッセージ性の強いルポルタージュ絵画。それにしても、こんなに地味で暗い展覧会に、しかもこんなに駅から遠い美術館にいったいだれが見に行くだろうと心配したけど、そこそこ人が来ていたのは、やっぱり入場無料だからでしょうね。
2014/05/17(土)(村田真)
われわれは〈リアル〉である 1920s-1950s──プロレタリア美術運動からルポルタージュ絵画運動まで:記録された民衆と労働
会期:2014/05/17~2014/06/29
武蔵野市立吉祥寺美術館[東京都]
板橋区立美術館からバスで成増に出て、池袋-新宿経由で吉祥寺へ。こちらは板橋とは対照的に繁華街のビルの中にあるので便利だけど、それだけに窮屈なのがタマにキズ。展示は板橋と重なる部分もたくさんあったが、こちらは戦前の作品や戦争画も含まれ、また漫画や雑誌などの印刷物もかなり出品されてるので見応えがあった。もっとも全体的に暗いのは同じだが。印象に残ったのは、須山計一や小畠鼎子らの銃後の美術と、中村宏、池田龍雄、桂川寛らのルポルタージュ絵画。とくにルポルタージュ絵画はメッセージ性だけでなく絵画としても特異な位置を占めていると思うし、世界記憶遺産とまではいかなくても、もう少し高く評価されてしかるべきだし、もう少し広く知られてもいいと思った。一般に長いタイトルの展覧会はピントがボケたものが多く、ロクなもんじゃないが、これは例外だろう。板橋といい、先日見た府中市美術館といい、中小の公立美術館が地味ながらがんばってるなあ。
2014/05/17(土)(村田真)
スピリチュアル・ワールド
会期:2014/05/13~2014/07/13
東京都写真美術館3階展示室[東京都]
あまり適切な言い方ではないかもしれないが、「意外に」面白い展覧会だった。毎年開催される東京都写真美術館の「コレクション展」も、そろそろネタ切れになりかかっているのではないだろうか。今回は、ある意味開き直ったということだろう。「不可視のもの、超越的なものにむかって、感性のチャンネルを開いていく」写真群を、「スピリチュアル・ワールド」という括りでまとめて、展示することになった。
あまりにも大ざっぱな定義であり、「神域」(鈴木理策、濱谷浩など)、「見えないものへ」(渡辺義雄、石元泰博、東松照明など)、「不死」(石川直樹、岡田紅陽など)、「神仏」(土門拳、土田ヒロミなど)、「婆バクハツ!」(内藤正敏)、「王国・沈黙の園+ジャパネスク・禅」(奈良原一高)、「全東洋写真・インド」(藤原新也)、「テクナメーション」(横尾忠則)、「湯船」(三好耕三)という展示構成もまったく一貫性がなく、混乱の極みとしかいいようがない。だが、逆にこれだけ写真家たちの年代、作風がバラバラだと、写真同士が衝突して、妙なエネルギーの渦が生じてくるように感じる。またこの混沌とした眺めは、八百万の神が宿る日本の宗教・精神世界の状況を、そのままストレートに反映しているようでもある。
印象に残った作品も多かった。鈴木理策の「海と山のあいだ」や三好耕三の「湯船」シリーズは、別な機会にもっと大きなスケールの展示でぜひ見てみたい。そこにはたしかに「不可視のもの」への通路がほの見えているように感じた。
2014/05/17(土)(飯沢耕太郎)
『ねもはEXTRA 中国当代建築』出版記念イベント「中国当代建築の〈すべて〉──オリンピックと万博を終え、中国建築はどのように進化したのか」
会期:2014/05/17
アーツ千代田 3331 1Fラウンジ[東京都]
アーツ千代田3331における『ねもはエクストラ中国当代建築』の出版記念トークイベントに登壇する。この特集を企画した市川紘司が中国近現代建築史を概観し、次に筆者が入った対談では、1991年に初めて訪れて以来、まず古建築、近代建築を見てからの変化を語る。中国で活動するKUUの佐伯聡子は自作を紹介した。以前、マイナスKハウスを見学したが、中国らしからぬ外観からではなくプランからの思考と、プロジェクトの変更に対応しやすい点、部分でも世界観が伝わるデザイン(全体は部分の集積)が、KUUの特徴だろう。ところで、中国でレクチャーを行なうと、日本では建築家の系譜図を描けることに驚かれる。中国でそれがないのは、文化的断絶と広さも一因だろう。また日本の建築雑誌は、よく10年ごとに近過去を振り返る作業を繰り返し、それが歴史の輪郭をスタディし、建築界に基盤となる共通認識をもたらしているのかもしれない。
2014/05/17(土)(五十嵐太郎)