artscapeレビュー

2014年06月15日号のレビュー/プレビュー

リトルアキハバラ・マーケット──日本的イコノロジーの復興

会期:2014/05/10~2014/05/05

A/Dギャラリー[東京都]

これは驚き、この春の卒業制作展で話題になった東北芸工大の久松知子さんの大作《日本の美術を埋葬する》がメインビジュアルに使われている! さっそく行ってみて驚いた。久松と同じ卒業制作展に出していたハタユキコの《ワンダフルニッポン》も展示されてるではないか。同展は、カオス*ラウンジが「架空の都市『LITTLE AKIHABARA』で復興されるコミックマーケットをインスタレーションとして作品化する」というもの。展示はカオス状態でなにがなんだかわからないけど、とにかくにぎやかで楽しめた。

2014/05/19(月)(村田真)

さかもとゆり個展「ヨソノウチノナカノソト」

会期:2014/05/10~2014/05/23

高架下スタジオSite-Aギャラリー[神奈川県]

黄金町芸術学校の陶芸コースでも教えてるアーティストの個展。陶によるタヌキ像が8体、寝たり立ったりいろんなポーズで置かれている。ほかに陶のタヌキ仮面(重くて痛そう)、杯、皿などのグッズも売られ、全体でタヌキのパーティーをイメージしてるらしい。陶のタヌキというと信楽焼を思い出すが、信楽のタヌキほどの愛嬌もキンタマもなく、どっちかというとその色合いとテクスチャーから焼けこげた焼死体を連想させる。ひょっとしてこれは原発で放射能を浴びたタヌキだったりして。原発って木の葉を金に変えるようなもんだし。

2014/05/22(木)(村田真)

米田知子『雪解けのあとに』

発行所:赤々舎

発行日:2014/05/16

米田知子は2004年9月~11月に、同年5月にEUに加盟したばかりのハンガリーとエストニアを訪れた。EU加盟国が25カ国に拡大したのを受けて企画された「EU・ジャパンフェスト」の一環として、写真集シリーズ『In-between』第9巻(EU・ジャパンフェスト日本委員会、2005)におさめる写真を撮影するためだった。本書はその10年後に、あらためて再編集した完全版といえる写真集である。
両国とも旧ソ連圏から脱して民主化・独立を成し遂げ、既に14年あまりが経過していた時期だが、まだ社会主義時代の雰囲気が色濃く澱んで残っているように見える。米田はハンガリーでは、かつてスターリンヴァーロシュ(スターリン・シティ)と呼ばれた都市の光景や、古いホテル、保養地などを、エストニアでは「フォレスト・ブラザーズ」と呼ばれた対ソ連レジスタンスの所縁の地や関係資料などを、いつものように淡々とやや距離をとって撮影している。だがそれらを見続けていると、写真から透かし彫りのように重苦しい過去の情景が立ち上がってくるように感じる。巻末のキャプションを読まずに写真だけを見ても、米田が「時代」や「歴史」へと想像力を伸ばしていくことができるように、実に丁寧に、注意深く構図を決め、シャッターを切るタイミングを選択していることがわかる。
これまでの作品集とやや違う印象を与えるのは、モノや風景だけではなく人物が写っている写真がかなり多く含まれているからだろう。ポートレイトやスナップといってもよい写真が加わることで、叙述にふくらみと広がりが生じてきているのではないだろうか。中島英樹のブックデザインが素晴らしい。いつもよりは押え気味に、だが図版の大きさやレイアウトを細やかに調節しながら、米田の静かだが喚起力の強い写真の世界を見事に形にしている。

2014/05/22(木)(飯沢耕太郎)

プライベート・ユートピア ここだけの場所──ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国美術の現在

会期:2014/04/12~2014/05/25

伊丹市立美術館[兵庫県]

英国の美術、工芸、デザイン等の作品およそ9000点を所蔵するブリティッシュ・カウンシル。独自の展示スペースはもたず、世界各地でその所蔵品による展覧会を開催したり、他展に所蔵作品を貸し出すなど、積極的に英国美術を紹介していることから「壁のない美術館」とも称される。本展はそのコレクションから28組の現代アーティストの作品、約120点を紹介するもの。日本初公開の作家の作品展示もさることながら、出品作家のうち17組が世界的にも有名なターナー賞にノミネートされ、6名が受賞者であるという点も注目したいところ。会場の展示は、剥製の犬が「I'm DEAD」と書かれたプラカードをもち二本足で立っているデイヴィッド・シュリグリーの作品、3つのメトロノームがそれぞれ異なる速度で音を出すマーティン・クリードの作品、ペンで描いた色とランプの光が重なるアンナ・バリボールの作品など、全体に作家のコンセプトも分かりやすいものが多く、見応えのあるボリュームでありながら、多彩な表現のバランスも良く気楽に楽しめる内容だった。
展覧会ウェブサイト http://www.britishcouncil.jp/private-utopia/


展示作品 アンナ・バリボール《グリーン+ブルー=シアン》 



会場風景 デイヴィッド・シュリグリー《アイム・デッド》


2014/05/22(木)(酒井千穂)

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「ホイッスラー展」記者発表会

会期:2014/05/23

日本外国特派員協会[東京都]

今年はジャポニスムの当たり年。モネの《ラ・ジャポネーズ》を目玉とする「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展」に続いて、モネ以上にジャポネズラー(こんな言葉はありません)なホイッスラーの登場だ。ホイッスラーはアメリカに生まれ、幼少期をロシアですごし、パリで絵を学び、ロンドンに移住したというコスモポリタンだけに、日本美術を難なく受け入れることができたのかもしれない。実際、彼はモネより10年以上も早く和服を着た白人女性が壷に絵付けする和洋折衷絵画《紫とバラ色:6つのマークのランゲ・ライゼン》を描いている。この作品と《ラ・ジャポネーズ》を隣に並べてみたい欲望にかられるが、じつは「ホイッスラー展」の立ち上がりは京都国立近代美術館(9/13-11/16)で、同じ時期「ボストン美術館展」が向かいの京都市美術館(9/30-11/30)に巡回するので、作品同士が隣り合わせになるわけではないけれど、隣の美術館で両作品を見比べることができるのだ。偶然にしてはできすぎだな。首都圏は12月6日から2015年3月1日まで横浜美術館で開催。

2014/05/23(金)(村田真)

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