2021年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

2010年03月15日号のレビュー/プレビュー

高木こずえ「GROUND」/「MID」

日本橋高島屋6階美術画廊X/第一生命南ギャラリー[東京都]

会期:2010年2月17日~3月15日/2月17日~3月12日

1985年生まれの高木こずえの潜在能力の高さは、今回の二カ所の個展でも充分に発揮されていた。赤々舎から昨年刊行された二冊の写真集『GROUND』と『MID』に沿った展示だが、それぞれ微妙にその内容を変化させている。
日本橋高島屋6階美術画廊Xの「GROUND」では、メインになる150.4×125.4センチの大きな二枚組の作品と、それらを「更に細かく分解し、それらを構成している元素を確かめていった」小さな作品群を展示している。エレメントの一つひとつは、ヒト、モノ、動物など生命的なイメージの集合体であり、高木はその自己分裂の運動に身をまかせつつ、解体─生成のプロセスを巧みにコントロールする。細部に眼を凝らせば凝らすほど、そこから思いがけない神話的な形象がわらわらと湧き出してくるような仕掛けを作り出すことで、見る者はビッグバンのようなとてつもないエネルギーの噴出の場に立ち会うことができるのだ。今回は、そのカオス状態をさらに推し進めた新作「light」も同時に展示されていた。そこでは、目が眩むような白熱する発光体が、より細かく、鋭角的に分割されている。
第一生命南ギャラリーの「MID」でも、元の写真に大きく手を加えた作品がある。印象的なエメラルド色の眼をした「オトコ」のイメージが、炎のような背景の赤をさらに強調するようにトリミングされているのだ。もともとこの写真は、高木の夢のなかに出てきた姿をなぞって、セットアップして撮影されたものだった。今回の操作によって、悪夢めいた禍々しい雰囲気が強まり、それが展示の全体にも奇妙に歪んだ磁場が生じるように働きかけていた。フレームに入れられた20点ほどの作品の周囲には、小さくプリントされた写真が撒き散らすように貼られているのだが、それらが呪符のようにも見えてくる。
どちらも工夫を凝らしたいい展示だが、彼女の写真の世界はもう一段階スケールアップしていくのではないかと感じる。力作をこれだけ見せられても、まだ潜在的な可能性を全部出し切っているようには思えないのだ。高木にとっては、ここから先が正念場になるだろう。

2010/02/22(月)(飯沢耕太郎)

蔵真墨「蔵のお伊勢参り」

会期:2010/02/19~2010/03/13

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

蔵真墨の「蔵のお伊勢参り」のシリーズは2003年の東京・日本橋界隈から開始され、東海道をひたすら移動してようやく伊勢まで辿り着いた。今回のツァイト・フォト・サロンの個展はいわばその完結編で、名古屋から伊勢神宮までの道筋が被写体になっている。
6×6判のカメラによる中間距離のスナップという彼女の撮影のスタイルは、このシリーズを結果的に「中途半端」なものにしている。これは決してけなしているわけではなく、その「中途半端」なたたずまいこそが、現代日本の基調となる空気感をあぶり出しているように思えるのだ。被写体となっている人々も、特異性と匿名性のあいだに宙吊りになっており、いかにもどこにでもいそうでどこにもいない雰囲気で写っている。『アサヒカメラ』(2010年3月号)の「撮影ノート」に「この10年ほどで時代はどんどん閉塞し、その影響はさりげなくもはっきりと表れ、私もまたその影響下を生きている」と書いているが、たしかに蔵の写真に写っているのは、「閉塞」の状況のひとつの断面図だ。この国の全体が、何とも居心地の悪い「中途半端」さに覆い尽くされているのではないだろうか。それはまた、スナップ写真(特に顔が写っている写真)の撮りにくさに対する異議申し立てでもあるのだろう。
同時期に、モノクロームのスナップ写真を集成した写真集『kura』(蒼穹舎)も刊行された。こちらの方が、時代状況への違和感がより強く表明されているように思える。

2010/02/23(火)(飯沢耕太郎)

渡邊聖子「否定」

会期:2010/02/23~2010/02/28

企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]

どちらかというと「ゆるい」写真展が多い明るい部屋の企画にしては、洗練と緊張感のバランスがほどよく保たれている展示だ。渡邊聖子は昨年の「写真新世紀」で佳作に入賞している若手女性作家だが、これまでは自分の方向性をひとつにまとめ切れていない迷いが見られた。ところが今回の展覧会では、確信を持って作品を選び、会場を構成している。自分のなかで、何か吹っ切れたところがあったのではないだろうか。
展示はテキストと写真の二つの部分に分かれる。テキスト部分では、まず「鏡を見なくてもわかる/今、あなたはうつくしいはずだ」という文章が提示され、それが二重、三重に否定されていく。それと対置されているのが、家の近くの道端でほとんど無作為に拾ってきたという石をクローズアップで撮影し、A3判くらいの大きさに引き伸ばした7点の写真で、テキストにも写真にもちょうどその大きさにカットされた板ガラスが被せられている。渡邊の意図を完全に読み解くのはむずかしいが、テキストと写真が相補うことで、モノクローム─カラー、確かさ─不確かさ、揺らぐもの─固定されているものといった対立軸が生まれ、見る者を思考の迷路に誘い込んでいく。その手つきに、迷いがないので、タイトルとは逆に「これでいいのだ」と思わされてしまう。いつのまにか否定─肯定という対立軸を含めて、その関係性がなし崩しに解体し、同じ現象の裏と表のように見えてくるのだ。
今回の展示は、彼女の飛躍のきっかけになりそうだ。そののびやかな構想力、思考力をさらに積極的に展開していってほしい。

2010/02/24(水)(飯沢耕太郎)

ル・コルビュジエ『マルセイユのユニテ・ダビタシオン』

発行所:筑摩書房

発行日:2010年2月9日

本書の原書は、マルセイユのユニテ・ダビタシオンが竣工された1950年に出版された。1955年に坂倉準三による邦訳が丸善より出版されたが、現在は入手困難であり、今回、山名善之氏と戸田穣氏による再訳に至ったという。正直、ル・コルビュジエのフランス語は非常にクセがあり、邦訳の訳文はつねに難しくならざるを得ないと思っていたが、本書ほど読みやすく頭にすっと入ってくるル・コルビュジエの訳文はなかなかないだろう。またその本文もさることながら、山名善之氏による長文の訳者解説が圧巻であり、フランスの集合住宅の系譜を、19世紀の空想社会主義やシテ・ナポレオンなどからたどりつつ、丁寧かつ正確にル・コルビュジエによるユニテ・ダビタシオンを20世紀の大衆社会に位置づけていた。あわせて読むことで、フランス近現代社会におけるル・コルビュジエの活動の意義を知ることができるだろう、良本である。

2010/02/25(木)(松田達)

新潟三大学合同卒業設計展 Session!2010

会期:2010/02/26~2010/02/28

新潟市美術館[新潟県]

ここ数年、日本の建築教育において、卒業設計に大きな注目が集まっている。それは全国の建築学科の学生が参加可能な「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」をひとつの頂点として、各地域において複数の大学が合同して企画する合同卒業設計展も増えてきたためだといえるだろう。「新潟三大学合同卒業設計展Session!2010」は、昨年に引き続いて二回目の若いイベントであり、このような動きのひとつだと言える。昨年もartscapeにて触れているので、前回との違いについて述べておきたい。今年は新潟大学、新潟工科大学、長岡造形大学に加えて、富山大学、金沢工業大学も参加し、新潟県だけではなく、日本海側の他県を巻き込んだイベントに発展した。二年見てはじめて分かることがある。日本一決定戦は誰もが意識しているが、その影響はそこまで単純に現われるわけではない。とはいえ、逆に去年の同じイベント(Session!2009)での作品の影響がかなり現われていたことも感じた。一方で、今回は五大学あり、大学ごとのカラーがかなり強く出ていた。モードを抑えた金沢工業大学、建築から距離をとる富山大学、地域性を意識した新潟大学、社会的テーマ設定にオリジナリティが強い新潟工科大学、圧倒的にプレゼンが美しい長岡造形大学。この五大学のよさが組み合わさるだけで、傑作が生まれる気もした。昨年のシンポジウムでは「地方都市」がテーマになっていた。本年、三日間さまざまな人たちとの会話で何度も現われ、自分も強く思ったのは、当たり前だけれども地方都市からの発信が単なるお国自慢になってはいけないということ。地方都市から東京だけを見るのではなく(地方/都心という関係を強調するのではなく)、隣の地方都市をよく見て、その違いを認識することで、はじめてその都市の特徴が浮かび上がってくる(地方/地方という関係性を強調する方向性)。それと同じような意味で、異なるタイプの五大学が集まっていたことはとても幸運だと感じた。互いの違いを認識して、よい部分を吸収することができる。そういった都市ごとの差異を踏まえた上での情報発信こそが、真に地方都市の可能性を高める方法ではないかと思った。なお、イベントの三日目では、新居千秋氏が基調講演をし、中谷正人氏がコーディネーターとなったシンポジウム「建築の2010年代を考える」が開かれた。2010年代におけるひとつの可能性は、地方/都心という軸に、地方/地方という多様な軸を重ねていくところにあるのではないかと思った。

http://sotsukeiten2010.atgj.net/

2010/02/28(日)(松田達)

2010年03月15日号の
artscapeレビュー

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