2021年12月01日号
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artscapeレビュー

2010年03月15日号のレビュー/プレビュー

やなぎみわ「Lullaby」

会期:2010/01/29~2010/03/21

RAT HOLE GALLERY[東京都]

やなぎみわの新作は、お馴染みの少女と老婆をテーマとする仮面劇の映像作品。縮尺が微妙に狂った暖炉のある部屋の中で、黒い小さな老婆が、白い大きな少女に膝枕をしてあやしながら、子守唄を唄っている。そのうち不意に少女が目覚め、激しい格闘が始まり、老婆はねじ伏せられる。そうすると、今度は少女が老婆を優しくあやしながら子守唄を唄いだす。そういう短いストーリーが何度かくり返され、そのたびに老婆と少女の立場は逆転することになる。
話そのものは単純だが、フォークロアによくある繰り返しの効果がうまく使われていて、なかなか面白かった。何よりもよかったのは「笑える」ことで、これはやなぎの新境地といえるのではないだろうか。二人の格闘シーンがかなりリアルで、静かな子守唄の場面との落差が笑いを呼ぶのだ。最後に今まで老婆と少女がいた居心地のよさそうな部屋の壁が崩れ落ちて、彼女たちが吹きっさらしの都会のビルの屋上にいたのがわかる。このあたりの展開も、鮮やかに決まっていた。神話の中に日常が紛れ込む方向性が見えてきたのが収穫といえそうだ。入口のパートに旧作が数点かかっているだけで、あとは映像を淡々と上映するだけの会場構成はすっきりして悪くないのだが、もう一工夫あってよかったかもしれない。

2010/02/06(土)(飯沢耕太郎)

ポーランド/日本現代写真交流展

会期:2010/02/01~2010/02/07

トキ・アートスペース[東京都]

イェジィ・オーレクと小本章の交流から生まれた展覧会。オーレクさんの縦に細長い掛軸状の作品がおもしろい。京都や奈良で撮った写真が使われているのだが、極端に縦長なのでまるで絵巻みたい。そうか、掛軸も絵巻も縦横が違うだけで、構造は同じ巻物なんだとあらためて気づく。しかもこれってロールフィルムやテープにも近いので、時間を表現することもできる。いろんな可能性を感じさせる作品。

2010/02/07(日)(村田真)

森村泰昌「なにものかへのレクイエム──戦場の頂上の芸術」記者会見

会期:2010/02/08

東京都写真美術館[東京都]

3月から写真美術館で個展が始まる森村自身のあいさつと、そこで公開される新作映像《海の幸・戦場の頂上の旗》の試写。展覧会は「20世紀とはなんだったのか」を問う壮大な構想で、森村が三島由起夫、ゲバラ、アインシュタイン、ピカソ、手塚治虫などに扮し、新作映像では、青木繁の群像《海の幸》と、硫黄島の戦場に米軍が星条旗を立てる有名な写真が重なり、そこになぜかマリリン・モンローがかぶさってくる。もちろんすべて森村本人。4半世紀前のゴッホに扮したデビュー作は単なる悪ふざけにしか思えなかったが、あれから森村はずいぶん重いものを背負ってしまったような気がする。でも本人はアインシュタインのように、ペロッと舌を出してるのかもしれない。

2010/02/08(月)(村田真)

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Photo Exhibition jasmine zine×Sayo Nagase

会期:2010/02/04~2010/02/10

Nidi gallery[東京都]

『jasmine zine』はモデルのMARIKO(18歳!)が2年前から出している不定期刊雑誌。ずっとカラーコピーを綴じあわせてつくってきたが、7号目にあたる最新号から印刷するようになった。それを記念して、写真を提供している永瀬沙世とのコラボレーション展が実現した。
安い簡易印刷が完全に定着して、「zine」と呼ばれるお手軽な個人雑誌の刊行が急速に広がってきている。一方で、出版社が版元の歴史のある雑誌が、次々に休刊しているのと対照的な現象といえるだろう。『jasmine zine』も好きなものを好きなように出していこうという姿勢がはっきりしていて、見ていて気持がいい。永瀬の写真も、そんな弾むような軽やかな気分をうまくすくいとっている。
写真も、雑誌の雰囲気もどこか既視感があるなと思っていたのだが、そういえば1990年代半ば頃にも、こういう手作り雑誌やカラーコピー写真集がはやった時期があった。Hiromixや蜷川実花が登場してきた頃の「女の子写真」の表現媒体が、まさに「zine」の先駆形だったのだ。先祖帰りなのか、それとも「女の子写真」の余波はまだ続いているのか。ちょうどあの時代についてまとめた僕の新しい本『「女の子写真」の時代』(NTT出版)が出たばかりだ。そのあたりを、もう一度あらためて考え直してみる時期に来ているということかもしれない。

2010/02/09(火)(飯沢耕太郎)

公募京都芸術センター2010「寺島みどり《見えていた風景──記憶の森》/森川穣《確かなこと》」

会期:2010/02/05~2010/02/24

京都芸術センター[京都府]

開館以来開催されている公募展。今年は映像作家の河瀬直美氏が審査員で、126の応募から寺島みどり、森川穣のプランが選ばれた。森川は、日頃の身体感覚や認識のリアリティにアプローチする作品を発表。日頃は目にすることのないものの存在や、観察することのない光景を意識させるインスタレーションを展開していた。寺島の作品は会期中に公開制作でつくりあげていく壁画。ちょうど寺島が休憩中のときに訪れたので、制作の様子を見ることはできなかったが、会場の壁面いっぱいに描かれた「風景」の筆跡やさまざまな色の重なりは容赦なく変化していく臨場感も生々しく、見ていると、胸がドキドキしてくる。本人は「まだ“見えていない風景”なんですよ」と笑っていたが、それはなにかを描こうとしているというよりも、目にするあらゆるものが流転していくありさまを小柄なその全身をいっぱいでとらえようとしている印象で、会場を後にしてからも、興奮気味だった。もう一度見に行こうと思っていたのに、気がつけば終わってしまっていたのがいまだに悔しい。

2010/02/09(火)(酒井千穂)

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