artscapeレビュー
2010年10月15日号のレビュー/プレビュー
木村大作+金澤誠『誰かが行かねば道はできない』
発行所:キネマ旬報社
発行日:2009年6月
富山で開催された建築学会のイベントで、映画『劔岳』を監督した木村大作氏と対談を行なう機会があり、その準備もあって本書を読んだ。本来、木村は監督というよりも、カメラマンとして長く映画に関わっている。黒澤明の作品を担当し、さらに『八甲田山』のような厳しい仕事を手がけ、その存在が知られるようになった。これは金澤誠による詳細なインタビューを通じて、さまざまな映画の撮影や現場の様子がわかる本である。建築・都市の視点から興味深かったのは、『野獣狩り』(1973)や『誘拐』(1997)だった。いずれも都市を舞台にした映画だからである。だが、驚かされたのは、重要なシーンがすべて許可を得たものではなく、ゲリラ的に撮影されていたということだ。とくに『誘拐』は、大胆に銀座や首都高速を使っている。これはメディア・スクラムもテーマとしており、マスコミ役、カメラマン役(本物のカメラマンにあちこちから応援してもらったという)、群衆を含め、現地集合、現地で流れ解散だった。日本映画ではめずらしく大胆に都市を使う映画だと思っていたら、こういう背景があったわけである。現場で警察をおしとどめながら、会社で責任をとる覚悟で、この映画は制作された。最近は山形などの地方でフィルム・コミッションも増えたが、アメリカとは違い、一般的に日本の都市は映画の制作に非協力的であるのが理由らしい。日本では、『機動警察パトレイバー』の映画版のように、アニメでないと、すぐれた都市映画がつくりにくいのも、うなづけよう。しかし、香港という都市空間を魅力的に映像化した作品、ウォン・カーウァイの『恋する惑星』(1994)のように、世界の各都市にひとつずつ、こういう作品があると楽しい。東京も、もっと実写による都市映画が登場すれば、ブランド力をあげることにつながるのではないか。
2010/09/30(木)(五十嵐太郎)
没後120年 ゴッホ展
会期:2010/01001~2010/12/20
国立新美術館[東京都]
日本ではドクメンタ並みに約5年に一度の割合で開かれてきたゴッホ展。今回は没後120年ということで、「こうして私はゴッホになった」とのサブタイトルもつけられている。展示を見ていくと急に絵がうまくなったなあと思う瞬間があるのだが、それはゴッホじゃなくて、彼が模写したり彼に影響を与えたりしたミレーとかファンタン=ラトゥールだったりして、なるほどこうした画家たちのこんな作品に感化されて彼は「ゴッホ」になったのかと納得した次第。とりわけアントン・モーヴとかファン・ラッパルトとかモンティセリといったゴッホが敬愛していた(が、ゴッホの伝記以外ではあまり名前を聞かない)画家たちの作品に触れることができて、ゴッホ作品により近づけたように思う。ところで今回、出品作の目玉でもある《アルルの寝室》を原寸大で再現しているが、これは森村泰昌からの「逆輸入」だろうか。おもしろいけどあまり意味あることとは思えない。出品はファン・ゴッホ美術館とクレラー・ミュラー美術館がほぼ半々だが、後者の額縁は着色してない木の比較的シンプルなデザインに統一してあるのですぐわかる。
2010/09/30(木)(村田真)
伊賀美和子「悲しき玩具」
会期:2010/10/01~2010/11/10
BASE GALLERY[東京都]
1999年の「写真新世紀」で優秀賞(南條史生選)を受賞した「マダムキューカンバ」以来、伊賀美和子は一貫して画面に人形やオブジェを配置して撮影する、「コンストラクテッド・フォト」を発表し続けてきた。どちらかというと日本の写真家たちは、演劇的、構築的な要素を写真に取り込むことを避けることが多い。「リアリズム」の伝統が、まだまだ彼らを縛りつけているともいえる。その意味では、伊賀の試みは貴重なものであり、もっと注目を集めてもよいのではないかと思う。
今回の「悲しき玩具」のシリーズは、以前の作品とはかなり趣が違ってきている。以前は、物語性を感じさせるシチュエーションが設定され、「家族」や「結婚」といった社会的な制度に対するシニカルな悪意が強調されていた。だが、今回はそういった側面は背後に退き、柔らかな光に包まれてクローズアップで撮影されたオブジェの作品は、一点一点が穏やかに自立している。どちらかといえば、人生の個々の場面から切り出された断片から、いやおうなしに滲み出てくる悲哀感に焦点が合わされているといえるだろう。デビューから10年以上を経て、人形たちの世界も少しずつ変質し、成熟の時を迎えつつあるといえそうだ。とはいえ、人形のつるりとした皮膚が醸し出す危ういエロティシズムは健在で、クローズアップが増えた分、その強度も増しているようにも感じられた。
2010/10/01(金)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2010年10月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
現代建築家コンセプト・シリーズ別冊1 藤本壮介|武蔵野美術大学美術館・図書館
海外からも注目を集める若手建築家、藤本壮介の《武蔵野美術大学 美術館・図書館》がいよいよ竣工した。地上2階分の大きな書棚が螺旋を描き、連続と断絶、求心と拡散が同居する図書館。この森のような、洞窟のような、原初的な未来の建築は、新たな建築の時代のはじまりをつげる。本書はこの《武蔵野美術大学 美術館・図書館》のさまざまな表情を3人の写真家による撮り下ろし写真であますところなく表現する。その建築写真には、阿野太一、笹岡啓子、石川直樹の3人を起用。バイリンガル。
石上純也作品写真集 balloon & gardens junya ishigami
ヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞した石上淳也の作品集。A3サイズで構成された大きな本で、内容は四角いふうせんとlittle gardensの出来るまでを追ったドキュメンタリー的な部分と作品そのものを撮った写真で構成。
文化財アーカイブの現場──前夜と現在、そのゆくえ
日本の“こころ”と“かたち”をデジタルで記す。豊富な具体例を交えながら、文化財アーカイブのプロセスや現状、問題点をわかりやすくまとめた一冊。[本書帯より]
TOKYO METABOLIZING
東京が生んだ〈新しい建築〉が、都市をゆるやかに最適化する──2010年8月末から開催される第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館の公式カタログ。《ハウス&アトリエ・ワン》《森山邸》などを設計者自身が詳しく解説。
現代建築家コンセプト・シリーズ7 佐藤淳──佐藤淳構造設計事務所のアイテム
「現代建築家コンセプト・シリーズ」第7弾は、構造家・佐藤淳の発想をまとめた一冊。《公立はこだて未来大学研究棟》《四角いふうせん/Balloon》など、2000年以降の数々の建築を、新たな設計理念によって実現させてきた構造家・佐藤淳。本書では、佐藤淳構造設計事務所が実務のなかで生み出してきた考え方や設計ツール、現場での経験を「アイテム」として紹介する。佐藤事務所で実際に使用されている「オリジナル素材リスト」や「解析プログラムコード」も収録。構造設計のメソッドがわかる実践の記録。バイリンガル。
夢みる家具 森谷延雄の世界
NAXギャラリーにおける「夢みる家具/森谷延雄の世界」展のブックレット。33歳で夭折した家具デザイナー・森谷延雄の仕事を紹介。独自の自由な表現を室内装飾に施した森谷の人間像を、彼が残した数々の言葉をクローズアップしながら、現存する希少な作品群をとおして浮かび上がらせる。ときとして酷評をあびながらも、家具をもって自らを表現し続けた、森谷延雄のロマンティシズムを紹介する一冊。
2010/10/15(金)(artscape編集部)
プレビュー:ミクロとマクロ
会期:2010/09/10~2010/11/28
ボーダレス・アートミュージアムNO-MA[滋賀県]
ミクロとマクロという要素がひとつの線上にあり、つながっていくものであるという感覚にアプローチする。すでに始まっているのだが、ちょうど「琵琶湖ビエンナーレ」も開催中で、併せて見に行きたい展覧会。10月31日(日)には、金沢21世紀美術館館長の秋元雄史氏のトークイベントも開催される。
2010/10/15(金)(酒井千穂)