artscapeレビュー
2010年10月15日号のレビュー/プレビュー
山西愛 展「ゾクッ(続)ドラマチックガレージ」
会期:2010/09/22~2010/09/26
喫茶 雨林舎 2Fギャラリー[京都府]
JR二条駅近くにある町家づくりのカフェの二階にあるスペースが会場。オルタナティブスペースというのか、京都でも、カフェやショップに併設された展示スペースや、そのようなスペースでの発表が増えているように思う。この会場は空調も壁面や床、照明なども整備されていないので、展示には不向きなのだろうが、山西の作品の雰囲気や形態には似合っていた。洗濯物を干すように、対面する壁に渡した紐に、ドローイング作品がずらりと何列もクリップで留められていた。床には、山西手作りの小さな紙製の自動車が“駐車”する、“駐車場”のインスタレーション。訪れた人たちが車の色を塗るというワークショップの作品展示で、会期中に少しずつ“車”が増えていくというものだった。ストーリーを想像させるシュールなドローイングは、つかみどころのない浮遊感が魅力でもあるだが、それにしても展示間隔がとても狭く、窓から風が吹き込んでひらひらと作品が揺れるので、一つひとつをじっくりと見る距離や雰囲気ではなかったのがやや残念。しかし独自の言葉のセンスとユニークな世界観を持つ作家なので空間的な要素もふくめ、次の発表も楽しみにしている。
2010/09/26(日)(酒井千穂)
箔画+ 野口琢郎
会期:2010/09/28~2010/10/03
ギャラリーヒルゲート2F[京都府]
京都には、いろんな作家がいる。野口は明治から続く西陣の箔屋に生まれ、漆地に金、銀、プラチナ箔を押すという伝統的な技法を学びながら独自の絵画表現を模索してきた。ともすればマチエールそのものの貫禄や、そのテクスチュアがかえって邪魔をする難しい手法だと思うのだが、野口のこれまでのさまざまな表現の試みと探究心が詩的な世界観となって今展で昇華した印象。水面に輝く陽光を描いた作品や、抽象画の輝きは、見る角度によって表情が異なり幻想的な趣で、箔の味わい深い魅力を伝えるものであった。きっと照明や外光の具合によっても印象が変化して豊かな表情を見ることができただろう。もう一度違う時間帯に見に行けばよかった。
2010/09/28(火)(酒井千穂)
滝口浩史「つづれおり─遺─」
会期:2010/09/28~2010/10/10
TAP Gallery[東京都]
滝口浩史は2001年に東京藝術大学デザイン科を卒業。2004年に「写真新世紀」に出品した「狭間」で準グランプリ(荒木経惟選)を受賞した。翌年開催された受賞記念展で展示されたのが「つづれおり」のシリーズで、今回のTAP Galleryでの個展の出品作はその続編にあたる。
2005年の展示では元気な姿で写っていた父方の祖父母と母方の祖母のうち、祖父は亡くなり、母方の祖母は寝たきりの状態になった。その現在の状況(祖父の葬儀の際の写真を含む)を撮影して大きく引き伸ばした10点のプリントのほかに、祖父が実際に使っていたという机と椅子を会場に運び込み、机の上と引き出しに彼らが写っている古い写真を無造作に積み上げるインスタレーションを試みている、ギャラリーはそれほど大きなスペースではないのだが、むしろその狭さを逆手にとって的確に写真を選択し、インスタレーションしていく手際がとてもうまいと思う。
闘病中の義母にカメラを向けた「狭間」もそうなのだが、滝口の語り口には、むしろテーマを絞り込み、それほど多くない枚数で出来事の芯になる場面をストレートに出していく方が向いているのではないだろうか。2009年に発表された「PEEP」のシリーズ(さまざまな職業の男女を、仕事、自宅、お気に入りの時間という3つの場面で撮影)では、コンセプトにこだわり過ぎて視点が拡散してしまい、彼のよさがうまく引き出されていなかった。「つづれおり」には、もっと大きなシリーズへと成長していきそうな手応えを感じる。
2010/09/29(水)(飯沢耕太郎)
ウフィツィ美術館 自画像コレクション
会期:2010/09/11~2010/11/14
損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]
ウフィツィ美術館からヴェッキオ橋を渡ってピッティ宮殿まで続く、非公開の長大なギャラリー「ヴァザーリの回廊」。ここはラスコーの洞窟とともに死ぬまでにいちど入ってみたい場所のひとつ(どちらも筒状なのが意味深)だが、その回廊に保管・展示されている自画像コレクションが来るというので見に行った。「ヴァザーリの回廊」に関しては新しい情報を得られなかったが、自画像コレクションは予想外におもしろかった。まず気づくのは、意外なほど女性画家が多いということ。これに関しては『北海道新聞』(10月11日)にも書いたが、ローカル紙なので繰り返したい。今回新たに収蔵された日本人3人のうち草間彌生も含めて全81点中11点が女性の自画像だが、とくに女性画家が希少だった近代以前に絞ると28点中8点にもおよぶ。おそらく当時、女性画家は100人にひとりもいなかったはずだから、この高率はレオポルド・デ・メディチ枢機卿に始まる初期のコレクターの趣味を反映したものかもしれない。もうひとつは、自画像ならではの遊び心に満ちていること。たとえばアンニーバレ・カラッチは、わざわざイーゼルにのせたキャンヴァスを描き、そこに自分の顔を描いている。つまり自画像が画中画になっているのだ。ヨハネス・グンプは、鏡に映った自分の顔とキャンヴァスに描かれた自画像と、それを制作中の自分の後ろ姿という都合3つの自分を円形の画面に収めている。また、ニコラ・ファン・ハウブラーケンの自画像は、花の絵に囲まれた画面中央からキャンヴァスを破って顔をのぞかせるという奇想天外なアイデア。他人の肖像画ではこんな冒険はできませんね。
2010/09/29(水)(村田真)
村岡三郎 展
会期:2010/09/03~2010/10/09
ケンジタキギャラリー東京[東京都]
「MOSS」「EARTHWORM」「MOSQUITO」などと書かれた長さが微妙に異なる酸素ボンベが数本、床に立っている。なかに入ってるんだろうか。それとは別に、筒が上下2本ついていている鉄の箱があって、下のほうの筒の先っぽにハエの死骸が落ちている。上の筒からハエの卵だかウジだかを入れて孵化したものらしい。「視床」と題されたドローイングもあって、これは目をつぶったときに見える光景(?)を描いたもの。やっぱりアーティストは「変な人」だ。
2010/09/29(水)(村田真)