artscapeレビュー

高梨豊 展「LAST SEEIN’」へ

2012年01月15日号

会期:2011/11/23~2011/12/11

photographers’ gallery[東京都]

高梨豊がphotographers’ galleryのホームページに載せたコメントで、ノーベル文学賞を受賞した詩人のヨシフ・ブロツキ─の言葉を引用している。「体は目を運搬するだけに存在する」。これはまさに彼にふさわしい言葉だ。かつてどこかで「目の歩行」という言葉を使っていたようにも記憶しているが、高梨の写真を見ていると、彼の体とともに移動する目が、その周囲の景観をキャッチしていく様が、ありありと浮かび上がってくるように感じるのだ。「歩行」のスピードには緩急があり、ときにはバスや列車が移動手段として使われることがある。それでも、柔軟でありながら精確な目が、イメージを的確に捕獲していく心地よさを、いつでも彼の写真から感じることができる。その「目の歩行」の精度は、2010年以降に撮影した東京のスナップショットを集成した新作「LAST SEEIN’」でもまったく変わっていない。実は少し前に白内障を患うという、写真家にとっては大きな出来事があり、その危機感がやや切迫した響きを持つタイトルに投影されているようだ。幸い治療がうまくいって、ふたたび街歩きとスナップ撮影が可能になった。肩の力を抜いているようで、押さえるべきものをきちんと押さえているカメラワークは健在であり、霧に霞む工事中の東京スカイツリーを撮影した一枚などには、「東京人」(1965)以来の写真を通じた都市観察の蓄積が見事に表われている。なお、同じフロアのKULA PHOTO GALLERYでは、2008年から開始された都バスの窓越しに見た景観の集積「SILVER PASSIN’」のシリーズが展示されていた。また、両シリーズに列車の車窓の光景を撮り続けた「WIND SCAPE」シリーズを合わせた写真集『IN’』(新宿書房)も同時期に刊行されている。

写真=「LAST SEEN'」© TAKANASHI Yutaka 2010

2011/12/04(日)(飯沢耕太郎)

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