artscapeレビュー

廣見恵子「Drag Queen 2011」

2012年01月15日号

会期:2011/11/02~2011/12/24

gallery bauhaus[東京都]

廣見恵子は2009年7月にgallery bauhausで個展「DRAG QUEEN ジャックス・キャバレーの夜」を開催している。ボストンで写真を学び、当地のドラッグ・クイーン(女装のゲイ)たちが夜ごと派手な衣裳とメーキャップでショーを繰り広げるクラブを長期取材した力作だった。だが、その細部まできちんと捉えられたスナップショットには、あまり破綻がなく、やや優等生的な作品にも思えた。ところが、今回のgallery bauhausの2度目の個展では、彼女の写真家としての姿勢が大きく変わってきているように感じた。廣見は以前ドラッグ・クイーンたちを楽屋などで撮影するときには、「壁のハエ」(Fly on the Wall)のようになるべく自分の気配を殺すようにしていた。彼女たちの邪魔にならないように、息を殺し、緊張しながらシャッターを切っていたのだ。だが、今回の展示のための撮影では「クイーン達との関係を楽しみつつ、自分自身が現場に『存在』することを否定せずに共有する」ように心がけたのだという。相互コミュニケーションが密になるにつれて、彼女たちとの距離が縮まり、互いに顔を見合わせるような親密な雰囲気の写真が増えてきている。さらにモノクロームに加えて、デジタルカメラによるカラー写真が登場してきたのが驚きだった。装身具やハイヒールのきらびやかな原色は、この「DRAG QUEEN」のシリーズの表現領域が大きくふくらみつつあることの表われといえる。廣見はいま、このシリーズ以外にもアフリカ系の住人たちが住む「ボストンのご近所」を長期にわたって撮影しているシリーズと、原理キリスト教の信者たちの集団生活のシリーズとを、同時並行して進めているのだそうだ。意欲的な作家活動が、実りの多い展示や出版につながっていきそうだ。

2011/12/09(金)(飯沢耕太郎)

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