artscapeレビュー

2011年07月15日号のレビュー/プレビュー

サイレント・ナレーター──それぞれのものがたり

会期:2011/06/11~2011/10/02

東京都現代美術館常設展示室3F[東京都]

常設展示室3階では、新収蔵作品12点を含む計30点の展示。なにが新収蔵されたかというと、泉太郎、落合多武、加藤泉、小泉明郎、小金沢健人、森淳一という若手作家の映像系の作品をはじめ、絵画・彫刻など。なぜか名前に泉がつくのが3人もいる。もちろん偶然だろうけど、気になるなあ。で、この6作家12点を核にテーマ立てを考えたところ、「物語」が浮上したんでしょうね。勝手な憶測ですが。このなかでは泉太郎のビデオインスタレーションと森淳一の大理石彫刻が、知性においても群を抜いている。森と泉だ。 

2011/06/25(土)(村田真)

名和晃平─シンセシス

会期:2011/06/11~2011/08/28

東京都現代美術館[東京都]

2003年、筆者が審査員をつとめたキリンアートアワードで彼が受賞したとき(当時はまだ食えなくて、バイトをやっていた)、受賞展を担当していたので、ついに都現美で個展を開催したことは感慨深い。これまで見てきた懐かしい作品のほか、「PRISM」のシリーズは当初に比べて、さらに精度に磨きをかける一方、新しく二重化のモチーフが出現し、情報化時代の造形のあり方の先端を切り開く。また各部屋の空間のつくり方にも細かい気配りがなされていたことにも感心させられた。
ちょうど常設の特集展示では、若いときから渦の生成にこだわり、ドローイング・アニメーションを展開する石田尚志がとりあげられていたが、名和展との同時開催は比較できて興味深い。石田がアナログ寄りで、名和がデジタルな感性に近いことがよくわかる。理科系アートでありながら、センシュアルな名和作品は、建築系にもおすすめだ。

2011/06/26(日)(五十嵐太郎)

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パウル・クレー展/「路上──On the Road」展

東京国立近代美術館[東京都]

会期:2011/05/31~2011/07/31(パウル・クレー展)/2011/05/17~2011/07/31(「路上──On the Road」展)
油彩転写、回転、切断、再構成、両面など、カテゴリーごとに、作品制作の方法論を示す展示のスタイルは、レンゾ・ピアノの設計による、ベルンのパウル・クレー・センターで見た常設を踏襲したものか(実際、多くの作品がここから貸し出されている)。クレーにとっての部分と全体の関係は、通常の画家とかなり異なることがうかがえて興味深い。西澤徹夫建築事務所による会場デザインもおもしろかったが、来場者が多過ぎて、ゆっくり空間を体験できなかったのは残念だった。
常設の特集展示「路上──On the Road」は、ともにNYの交差点を撮影した宮本隆司《the crossing》や奈良原一高《ブロードウェイ》など、都市観察や表象の手法がいろいろと並んでいた。ルシェーの『サンセット・ストリップ沿いのすべての建物』や木村荘八の『アルバム・銀座八丁』の超横長の連続写真を意識した冊子が前衛的だった。

2011/06/26(日)(五十嵐太郎)

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福村真美 展

会期:2011/06/21~2011/07/03

ギャラリーモーニング[京都府]

福村真美の新作展。断片的な記憶が呼び覚まされるような、既視感のある日常の風景や水辺の光景を描いた以前の作品が印象的だったが、今展には一部、夢の世界のような幻想的な光景を描いた作品や、明らかに日本ではない森や砂浜の風景を描いたものがあった。聞くと海外の雑誌の掲載写真を元に描いたのだという。色や構図のせいもあるのか、過去の作品と比べるとそれらは福村の個性や世界観を示すようなインパクトには欠ける気がしたが、いつも制作への新しい挑戦がうかがえる彼女の個展自体がおもしろい。次回の展開が楽しみだ。

2011/06/26(日)(酒井千穂)

鈴木理恵 展

会期:2011/06/21~2011/06/26

アートスペース虹[京都府]

ギャラリーのガラス戸を開けると左右の壁面に2枚ずつ、白一色だけの画面の作品がかかっていた。タイトル表を見ると《シーチングの上にボローニャ石膏》《シーチングの上に二水石膏》《麻布の上に二水石膏》《麻布の上にボローニャ石膏》とある。絵画に携わる人や知識のある人ならすぐにわかるのだろうが、これらは伝統的な技法を用いたいわゆる“下地”だった。石膏を幾重にも塗り研磨しているため、画面の表面はどれもつやつやしているのだが、それぞれの質感や特徴の違いはよくわかる。また、ギャラリーに射し込む光の状態や見る角度によって、白い色が微妙に変化して見えるのが美しい。この展示を作品と言っていいのかわからないが、初めて見た私にはそれらが神秘的にも思われて、新鮮な感動があった。

2011/06/26(日)(酒井千穂)

2011年07月15日号の
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