artscapeレビュー

2011年07月15日号のレビュー/プレビュー

布野修司『建築少年たちの夢』

『建築少年たちの夢』は、筆者も寄稿する『建築ジャーナル』が初出なので(連載時のタイトルは異なる)、ときどき読んでいたが、350ページ超の分厚い本として刊行された。布野さんの同世代からその上の建築家の評伝であると同時に、著者の個人史を重ねあわせながら、ポストメタボリズムの70年代を鮮やかに、そしてリアルに描く。活字化されていない証言やエピソードが断然おもしろい。僕の名前はA-cup絡みで登場していた。

2011/06/27(月)(五十嵐太郎)

UIA2011 TOKYO 111 Days before 展

会期:2011/06/01~2011/06/29

行幸地下ギャラリー[東京都]

地下道沿いの両側の壁がギャラリーになった空間なので、ここでアートの展示をやっても大したことはできない。建築展もただパネルを並べるくらいなので、形式ではなく、内容について紹介しよう。9月末に開催されるUIAの東京大会を事前に盛りあげるべく、リトアニアと日本の建築家をとりあげたセクションのほか、「建築関連団体の震災支援活動」がタイムリーな企画だった。メディアの注目が集まる、アーキエイドや帰心の会とは違い、いわゆる有名な建築家によらない、地道な活動を取り上げている。

2011/06/28(火)(五十嵐太郎)

松本央:Beast Attack !

会期:2011/06/01~2011/07/08

BAMI gallery[京都府]

一貫して自画像を描いてきた松本央。前回の個展を見逃してしまったのを今更悔やんだが、この間、彼にどんな変化があったのだろうか。今展での松本の自画像には、「人間の野獣化」という資本主義や市場原理主義の経済システムにおける社会と個人の生活をテーマにしたこれまでにない強いメッセージが表わされていた。ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》のパロディ《最初の晩餐》をはじめ、誰もが知るファストフードが並ぶテーブルを前にした《The Ultimate Meal》、フライドポテトやジュースの容器をそこらじゅうに散らかして路上にしゃがみ込む《Encounter》など、わかりやす過ぎるほどベタなイメージの皮肉だが、それらの自画像の表情はどれも強烈で不気味だ。描き続けていればテクニックが上達するのは当然なのかもしれないが今回はそこに貫禄も感じた。これからも楽しみな作家だ。

会場風景

2011/06/29(水)(酒井千穂)

下瀬信雄「結界VII」

会期:2011/06/22~2011/07/05

銀座ニコンサロン[東京都]

「構想から20年、個展では7回目」という下瀬信雄の「結界」シリーズ。彼の撮影のテリトリーである山口県萩市周辺の野山の植物に、4×5インチの大判カメラを向け、しっかりと丹念に写しとっている。一見地味だが、じっくりと見ていると実に味わい深い作品であることがわかる。
「結界」とは聖と俗の領域を分ける場所という仏教の用語だが、下瀬の解釈によれば「私たち人類が発明した『空間領域の境界』を表す言葉」ということになる。たしかに足元の大地に目を向けると、そこに見えない境界線が走っているように感じることがある。自然、とりわけ植物たちが「超えてはならない」と呼びかけているようでもある。下瀬のカメラは、その微かな気配を鋭敏に感じとり、緻密で端正なモノクロームのイメージに置き換えていく。オオバコの葉の上に架かった蜘蛛の巣にびっしりとついた水滴、草むらを優美にうねりながら進む蛇、それら生きものたちの小宇宙が、人間ではなく自然の摂理をリスペクトする眼差しによって、鮮やかに浮かび上がってくるのだ。「結界」とは別な見方をすれば、生と死の世界を分かつ境界線なのではないかとも感じた。
このシリーズはニコンサロンで既に7回にわたって発表され、2005年には伊奈信男賞も受賞している。だが、日本人の自然観の根源を問い直すようなその重要性は、まだきちんと評価されていないのではないだろうか。そろそろ写真集のような形にまとめていく時期にきているのではないかとも思う。なお、本展は7月21日~27日に大阪ニコンサロンに巡回される。

2011/06/30(木)(飯沢耕太郎)

ワーグマンが見た海──洋の東西を結んだ画家

会期:2011/06/11~2011/07/31

神奈川県立歴史博物館[神奈川県]

横浜開港まもない時期に来日し、激動の幕末・維新期を報道画家として見つめ、日本の画家にも多大な影響を与えたチャールズ・ワーグマン。その来日150周年を記念した特別展。ワーグマンは『イラストレイテッド・ロンドンニュース』の特派員として日本のニュースをイギリスに送り、横浜では風刺絵の雑誌『ジャパン・パンチ』を発行して日本漫画(ポンチ絵)の原点のひとつにもなったが、美術史で最大の功績はやはり油絵の技法を高橋由一や五姓田義松に伝えたことだ。とはいえ、ワーグマン自身の画力は「素人画家」の域を出ないとされ、しかも世代的に印象派以前の前近代的な絵であり、それが日本の近代洋画の出発点になったことは冷静に見つめる必要がある。しかしそうはいっても、彼の遠近法や明暗表現が当時の日本の絵画に比べてあきらかに抜きん出ていることは事実。同展には由一によるワーグマンの模写や構図の似た作品、義松かワーグマンか判断しがたい作例も出ていてじつに興味深い。ちなみに、やせ衰えた母を冷徹に描いた義松の《老母図》は、ルシアン・フロイドのごとく対象に文字どおり肉薄して感動的だ。おっと、こんなところで小沢剛に遭遇。なにかのリサーチだろうか。

2011/06/30(木)(村田真)

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