2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2012年04月01日号のレビュー/プレビュー

恵比寿映像祭 映像のフィジカル

会期:2012/02/10~2012/02/26

東京都写真美術館[東京都]

4回目の恵比寿映像祭。ウィリアム・ケントリッジやサラ・モリス、大木裕之など国内外14組のアーティストによる映像作品が展示された。映像技術のハイ・テクノロジーを追究する作品もあれば、あえてロー・テクノロジーを見せる作品もあり、その雑然とした展示は、映像の時代における百花繚乱を象徴しているとも言えるが、たんにアーティスティックなイメージの垂れ流しとも言える。長時間の鑑賞に堪えない作品が大半を占めていたなか、ひときわ異彩を放っていたのが、東京シネマによる科学映画。テレビを生産する工場のラインをつぶさに追跡したり、配電盤をクローズアップでとらえたり、その映像の質がいちいち魅力的でたまらない。それは、あるいはアナログ映像で育った世代に特有のノスタルジーにすぎないのかもしれないが、その一方で、現在の映像表現が直面している限界を示唆しているようにも思われた。日常生活の隅々まで侵食するほど映像が氾濫しているがゆえに、例えばかつての「ビデオアート」のように、映像というメディアが「アート」という価値を半ば自動的に担保することが難しくなった現在、私たちはいかにもアーティスティックな映像に辟易しているのではないか。むしろ「記録」という映像の最も基本的な機能に、「アート」は反転してしまったように思えてならない。

2012/02/23(木)(福住廉)

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GRAPHIC WEST 4「奥村昭夫と仕事展」

会期:2012/01/18~2012/03/08

dddギャラリー[大阪府]

江崎グリコやロート製薬をはじめとするロゴマークや、牛乳石鹸のパッケージ等のデザインでよく知られ、京都大学客員教授をも務めるデザイナー、奥村昭夫の全仕事を紹介する展覧会。なんといっても本展で驚くべきは、デザイナー本人が会場で仕事をしている姿を見られること。PCを用いてそこでなされる仕事内容が壁面に投影され、展示の一部となっている。また、来場者がそこでデザイナーに仕事を依頼することもできる。それはオリジナルの名刺とポスターをデザインする、「仕事しますプロジェクト」。奥村氏は遊び心あるデザイン──それも依頼者の個性を反映させた、その人自身を象徴するような──の名刺をあっという間につくりだす。執筆者が訪問した時点では50件近くの注文があったが、それぞれがまったく異なるデザイン、まさに世界で一枚きりの名刺であった。もうひとつ心躍る試みは、デザイン作品が名刺型カードのかたちで棚に一堂に並べられ、それをカタログの代わりに持ち帰れること(それを入れる箱まである)。ひょいと裏返すと、「奥村昭夫問答集」がみえる[図1]。氏が重要視するのは「正しい」「面白い」「新しい」デザイン。正確な情報を伝え、楽しく、新しいかどうか、という彼の判断基準については、本展の全仕事を見るだけでもなるほどと思わせる。またデザイナーにおいては、問題解決できる「思考」力が大事とも語る。氏は、「デザインって楽しいでしょう!」と言い、目を輝かせる。彼の諸作品が放つパワーに加え、デザイナー奥村昭夫氏に魅了された展覧会であった。本当に、「デザインって楽しい!」。[竹内有子]

1──名刺型のカード

2012/02/24(金)(SYNK)

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いまは冬

会期:2012/02/11~2012/03/02

渋谷オーディトリウム[東京都]

RKB毎日放送のディレクター、木村栄文によるドキュメンタリー番組。1972年に制作された35分の短編で、「地の塩の箱」運動の主催者であり詩人の江口榛一に密着した。鍵のない募金箱を全国に設置して、豊かな者は金銭を投入し、貧しい者はそこから借り受けるという運動に身を費やす江口をとらえた映像を見ると、その理想と現実のはざまを、あくまでもたくましく生きようとする姿に圧倒される。それが、例えば人力飛行機というロマンを追究する男を記録した《飛べやオガチ》にも通じていることを思えば、木村栄文の眼を離さなかったのは、おそらくそのようにして両極のあいだで揺れ動きながらも、明るく、壮健に前に進むことを自らに課した人間の生き様だったのではないかと思えてならない。そのように振舞いながらも、どこかで哀愁や憂いを感じさせる人間を、木村は撮りたかったのだろう。

2012/02/27(月)(福住廉)

富田菜摘 展「さんざん待たせてごめんなさい」

会期:2012/02/28~2012/03/10

福住画廊[大阪府]

新聞や雑誌をコラージュして等身大の人間をつくり、さまざまな年代の人々が行列している情景を表現。また、電車の座席に座る人々をテーマにした小品も出品された。彼女の作品の魅力は、実際に街中にいそうな人々の姿をリアルに再現していることだ。作品を見ていると、今にも彼らの喋り声や都市の喧騒が聞こえてきそうだった。以前の金属廃材を組み合わせた動物オブジェもユニークだったが、私自身は今回のシリーズの方が圧倒的に面白いと思う。

2012/02/28(火)(小吹隆文)

絵描きと戦争

会期:2012/02/11~2012/03/02

渋谷オーディトリウム[東京都]

木村栄文監督による伝説的な映像作品。「フジタよ、眠れ」を含む同名の著作がある菊畑茂久馬が監修に加わり(『菊畑茂久馬著作集1』)、出演もした。絵描きにとって戦争とはなんだったのか。藤田嗣治と坂本繁二郎の対照的な足跡をたどりながら、この問いについて考えるドキュメンタリーだ。おもなインタビュアーはテレビドラマ《白い巨塔》(1978年)で知られる俳優の山本學で、木村栄文が聞き手を務めた部分もある。菊畑による軽妙な語り口をはじめ、山本學のオフショットをあえて挿入するなど、さりげなくユーモアを重視した編集によって、重厚長大になりがちな主題をじつにバランスよく見せている。いわゆる「戦争画」をめぐって交わされる美術関係者による証言の数々も、非常に率直に述べられており、建前の向こうに隠されがちな本音の言葉に、思わず吹き出してしまうことがあるほどだ。私たちが最も必要としているのは、「戦争画」についての学術的で専門的な研究とは別の次元で、「戦争画」について知り、話し合い、そして考えることができる、このように親しみやすく、わかりやすい映像なのだ。原子力という内なる敵との戦争が始まってしまったいま、新たな「戦争画」は描かれるのだろうか。藤田が正面から挑み、坂本が回避した戦争とは比べ物にならないほど抽象度が高まり、眼に見えることすらなくなってしまった戦争を、絵描きはどのように表現するのだろうか。そして、世界のすべてが可視化されうるほど視覚が強大であるにもかかわらず、肝心なことは闇に包まれているという大いなる逆説の時代において、木村栄文に匹敵する映像作品は現われるのだろうか。

2012/03/01(木)(福住廉)

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