artscapeレビュー
2013年06月15日号のレビュー/プレビュー
写真のエステ 五つのエレメント
会期:2013/05/11~2013/07/07
東京都写真美術館 3F展示室[東京都]
タイトルの通り「おしゃれな」展覧会だった。東京都写真美術館の収蔵作品による「コレクション展」は、ここ10年ほど毎年2~3回のペースで続いている。そろそろマンネリ化の兆しが出ているのではないかと、この欄でも何度か指摘してきた。だが、今回の「写真のエステ 五つのエレメント」展(キュレーションは石田哲朗)を見ると、2万9千点を超えるという東京都写真美術館の収蔵作品を活用するやり方は、まだまだあるのではないかと思えてくる。
「五つのエレメント」とは「光」「反映」「表層」「喪失感」「参照」。相互の関係性はあまりないが、それぞれの角度から作品を見直すと、写真表現のエステ=エステティカ=美学が浮かび上がるように仕組まれている。むろん、既視感のある見慣れた作品も多いが、「光」のパートに展示された1920~30年代にアメリカ・シアトルに在住して、各地の写真サロンに出品していた福光太郎(1898~1965)など、あまり紹介されていない写真家の作品を見ることができた。またやはり「光」のパートの川内倫子「イルミナンス」(34点)や、「喪失感」のパートのクリスチャン・ボルタンスキー「シャス高等学校」(23点)など、展示作品の数を増やして、個展を思わせる雰囲気の空間を構築していたのもとてもよかった。
こういう展示を見ていると、写真美術館の収蔵作品をさらに自由に再構築した展覧会も見たくなってくる。写真以外のジャンルの作品との共存、外部キュレーターの招聘なども、もっと積極的に考えていくべきではないだろうか。
2013/05/17(金)(飯沢耕太郎)
古川松平 展
会期:2013/05/13~2013/05/18
Oギャラリーeyes[大阪府]
私自身はパチンコにはまったく詳しくないが、画面に描かれているのが古めかしく懐かしい昔のパチンコのイメージだということには気がづいた。古川自身はパチンコなどギャンブルはしないそうなのだが、日本全国に根付き、歴史もあるこのパチンコという娯楽にいまも多くの人々が夢中になるという点や、その魅力について関心をもったという。儚い夢にかけて時間とお金を費やし投入されるパチンコ玉。そのイメージと現実の日常生活を重ねて描かれた絵画は毒っ気も潜んでいるのだが、物憂げな雰囲気もあり私もすっと感情移入してしまう。以前見た個展のときの画風とはまた異なるが、飄々とした表現とその味わいに古川ならではの魅力がある。次の発表も楽しみだ。
2013/05/18(土)(酒井千穂)
山添潤「彫刻展」
会期:2013/05/07~2013/05/19
Gallery PARC[京都府]
山添潤の石彫の個展。山添は具体的なモチーフや完成のイメージなどを目指さず鑿(のみ)や鏨(たがね)で石を打つという作家で、制作や発表はおもに関東をベースにしているが、これまで関西でもたびたび作品を発表してきた。今展では、会場の展示空間をイメージしながら制作したという6本の石柱と、7つの石彫、鉛筆によるドローイングなどが展示された。入口から飛び石のようにスペースを空けて配置された6本の石柱は、形もさることながらそれぞれに鑿の痕の表情も異なり、どれも躍動感があるのだが神秘的な雰囲気にも包まれている。近づいて夥しい鑿の痕を見ていると、作家の手の動き、石を打つ強さ、そのピッチ、石と向き合う姿などさまざまな制作の時間を連想し、ただ素直に感動してしまうのだが、離れてみるとまた別の趣きがあり、ある風景のなかの雄大な時間や自然現象を思わせて不思議だ。ガラス張りの空間に射し込む光がいっそうその佇まいを力強く優美に見せていて印象に残る展覧会だった。
2013/05/18(土)(酒井千穂)
メメント・モリ──愛と死を見つめて
会期:2013/04/13~2013/05/18
児玉画廊+アラタニウラノ+山本現代+ロンドンギャラリー+新素材研究所など[東京都]
白金アートコンプレックス5周年合同展覧会。5階に研究所を構える杉本博司御大が窮霊汰(キュレーター)を買って出て、森美術館開館10周年記念展「LOVE」に呼応するかたちで「メメント・モリ──愛と死を見つめて」なるお題を出し、各フロアのギャラリーが作品でそれに応えるという趣向だ。1階の児玉画廊は高田冬彦ら5人による混沌としたエロス&タナトス展、2階のアラタニウラノは加茂昂の立体交差的絵画と高嶺格の水槽透過裸体映像、3階の山本現代はヤノベケンジ+ビートたけしのドローイングや小谷元彦の写真など、4階のロンドンギャラリーは橋本雅也の鹿の骨や角による彫刻に西洋の解剖図と日本古美術の取り合わせ、そして5階の新素材研究所では映画『愛と死を見つめて』が見られるほか、杉本博司が女装したお宝写真も飾ってある。これは土曜のみの公開なので運がよかったというか、なんというか。このほか、各フロアに杉本氏の作品やコレクションが紛れ込んでいて、聞くところによるとオープニングも杉本氏の独壇場だったという。レオナルドか利休か、みたいな器用な人だ。
2013/05/18(土)(村田真)
齋藤陽道「せかいさがし」
会期:2013/05/18~2013/06/02
青山ゼロセンター[東京都]
2010年に写真新世紀優秀賞受賞(佐内正史選)、2011年にはデビュー写真集『感動』(赤々舎)を刊行と、齋藤陽道の写真は聾唖者というハンディキャップを超えて、少しずつ、だが確実に共感の輪を広げつつある。今回の青山ゼロセンターでの個展「せかいさがし」を見ると、その作品世界がさらに深まり、強い説得力を持ち始めていることがわかる。
2階の展示会場に新作の「せかいさがし」が16点、1階に岩崎航の詩とコラボレーションした「点滴ポール」が9点、さらに奥の部屋では「せかいさがし」と前作の『感動』からピックアップした作品78点によるスライドショーが上映されていた。そのなかでは、特にスライドショーがよかったと思う。といっても、特別に趣向を凝らしているわけではなく、写真がぼんやりと現われては、次の写真と重なり合うようにして消えていくだけだ。音楽や音は一切ついていない。その写真と写真の継ぎ目(間)の部分が目に残る。映像がひと時も留まることなく現われては消えていく様を見続けていると、齋藤が「せかい」に向けたイノセントな眼差しに次第に同化していくように感じる。
「じっくりと時間をかけてみる。
見る。ぼくは見てきた。
なにを。せかいだよ」
彼の純粋な感動が目の前の対象に注ぎ込まれ、それをしっかりとつかみ取りたいという衝動に結びついていく。光、子ども、植物、街の一隅、写っているのはごく些細なものだが、それ自体に凛とした存在感がある。そのイメージ定着のプロセスが、スライドショーによって追体験できるような気がしてくるのだ。写真作品の見せ方としては、スライドショーはあまり人気がないようだが、まだまだいろいろな可能性を持つメディアではないだろうか。普通の2階建ての家を改装した展示スペースの雰囲気もとてもよかった。ただ残念なことに、会場の青山ゼロセンターは、この齋藤の展覧会でクローズしてしまうという。ホワイトキューブのギャラリーにはない、温かみのあるいいスペースなのだが。
2013/05/18(土)(飯沢耕太郎)