artscapeレビュー

2016年10月15日号のレビュー/プレビュー

スカラ座博物館

[イタリア、ミラノ]

イタリアの最終日は、ミラノにてスカラ座の博物館へ。マリオ・ボッタが増築したエリアを少し見られるかと思ったが、中庭を介して、ちょっとだけかたちがわかる程度だった。それでも作家性がはっきりと認識できるかたちのデザインは、さすがと言うべきか。常設展示は、伝説のマリア・マリブランを含む所縁の歌手や作曲家、当時のグッズなどいろいろ、そしてリッカルド・ムーティの特集展示など。またバルコニー席からは、オペラの舞台設営の様子も見学できる。

写真:マリオ・ボッタの増築部分

2016/09/17(土)(五十嵐太郎)

杉本博司 ロスト・ヒューマン

会期:2016/09/03~2016/11/13

東京都写真美術館[東京都]

写真美術館のリニューアルオープンは2フロアを使った杉本博司の個展だが、これはおったまげた。展覧会は3階の「今日 世界は死んだ もしかすると明日かもしれない」と、2階の「廃墟劇場」および「仏の海」の3部構成だが、3階は写真がほとんどない。いやたくさんあるのだが、それ以上に杉本が集めたおびただしい量の化石、古書、土器、看板、ポスター、隕石、能面、能装束、バービー人形、解剖図、卒塔婆、ラブドールなどのコレクションであふれ、そういえば杉本の写真もあったなあってなもんだ。展示は「理想主義者」「古生物研究者」「ラブドール・アンジェ」「安楽死協会会長」「宇宙飛行士」「コメディアン」など33のカテゴリーに分かれ、それぞれさびたトタン板で仕切られたブースごとにガラクタと写真が並び、「今日、世界は死んだ」で始まる肉筆の文章がそえられている。これを代筆したのは浅田彰、福岡伸一、朽木ゆり子、ロバート・キャンベル、極楽とんぼの加藤浩次ら。どういう人選だ? ともあれ一つひとつ物語仕立てになっているのだ。例えば「ラブドール・アンジェ」は寝椅子にラブドールが横たわり、脇にランプ、背後に杉本の「ジオラマ」シリーズの《オリンピック雨林》が置かれている。手前に《マン・レイによるマルセル・デュシャンのポートレイト》があることから、これがデュシャンの遺作を再解釈したものであることがわかる。ここでは「ジオラマ」は本来の文脈をはぎ取られ、単なる背景画もしくはイラストとしてラブドールに奉仕させられているのだ。ちなみに文章を代筆したのは束芋。いやー楽しかった。2階の「廃墟劇場」もぶっとんでる。映画館のスクリーンに映し出された1本の映画の光で撮影した「劇場」シリーズのいわば未来編で、廃墟となった劇場内部が写し出されているのだ。1枚で「劇場写真」と「廃墟写真」のふたつが味わえるってわけ。もうサービス満点の展覧会。

2016/09/17(土)(村田真)

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ルーヴル美術館特別展 ルーヴルNo.9 漫画、9番目の芸術

会期:2016/07/22~2016/09/25

森アーツセンターギャラリー[東京都]

フランスの漫画はバンド・デシネ(BD)と呼ばれ、「第9の芸術」ともてはやされている。そもそもバンド・デシネは日本の漫画のように量産されたり、週単位で雑誌に掲載されたりするものではなく、初めから単行本として描き下ろされる場合が多い。紙質もよく、フルカラー印刷なので値段も高いため、子どもが読み捨てるものではない。と解説に書いてあった。なるほど、だから「芸術」なのね。そこでルーヴル美術館もバンド・デシネに目をつけ、ルーヴルをテーマに自由に描いてもらうという「ルーヴル美術館BDプロジェクト」を企画したってわけ。展示されているのは、日本人を含めた16人の漫画家。でも漫画の原画って小さいうえに枚数が多いから、美術館での展示には向いていないんだよね。だからここでは一部しか見せておらず、ストーリーを追っていくと不満が残る。逆にストーリーを追う必要がなく、1枚でも見るに耐える作品もある。ダヴィッド・プリュドムの「ルーヴル横断」がいい例だ。いちおうストーリーはあるらしいが、ルーヴルの所蔵作品と観客をおもしろおかしく対比させたり、額縁とコマ割りを巧妙にダブらせたり、1枚ごとに堪能できる。エンキ・ビラルの「ルーヴルの亡霊」は1枚1コマで、作品の写真や館内の展示風景に亡霊の絵を重ねたもの。こういう実験的な試みは日本人には少ない。日本人は谷口ジロー、荒木飛呂彦、松本大洋、五十嵐大介、寺田克也、ヤマザキマリ、坂本眞一が出しているが、ほとんどストーリー中心で、絵だけで見られるのは寺田くらい。漫画文化の違いですね。

2016/09/18(日)(村田真)

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塩田千春「鍵のかかった部屋」

会期:2016/09/14~2016/10/10

KAAT神奈川芸術劇場[神奈川県]

昨年のヴェネツィア・ビエンナーレ日本館に出品した塩田千春の帰国記念展。なんですぐ近くの神奈川県民ギャラリーを使わず、わざわざKAAT(神奈川芸術劇場)のスタジオでやるのかよくわからないが、一説によればキュレーターの中野仁詞氏がKAATの担当になったからだという。そもそも中野氏が県民ギャラリー時代に塩田千春の個展を開き、高く評価されたことがヴェネツィアにつながったとすれば、同じギャラリーでやることもないかと勝手に納得。さて、スタジオに入ると、黒い部屋のなかに赤い毛糸が張り巡らされ、5つの古びたドアが円状に設置されている。その奥には赤い毛糸から無数の古い鍵がぶら下がっている。ヴェネツィアに展示された船はない。毛糸は一巻き75メートルのものを3千個、総延長200キロ以上使ったという。これはKAATからいわき市までの距離に匹敵するらしい。また、鍵は世界中から提供されたうちの1万5千個をぶら下げたという。すごい量だが、糸は細いし鍵は小さいから圧倒感はない。もともと塩田の作品はドラマチックな上、今回は会場が演劇用のスタジオで照明も劇場用のせいか、いつにも増して演劇的に感じるなあ。

2016/09/18(日)(村田真)

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ヤドカリトーキョー展示企画vol.17 『霞の灰皿』 Do buildings dream of wanting?

会期:2016/09/16~2016/09/18

早野ビル[東京都]

都内の空き物件に間借りして作品を展示するヤドカリ集団、今回は霞町交差点に面する早野ビルの空き室を借りた作品展だ。使えるのは4階、7階、屋上の3フロア計5室。山田沙奈恵は各室のシンクに、川で水切りをする写真を置いた。水面に石を投げて何度跳ねたか競う水切りは、展示場所を次々変える「ヤドカリトーキョー」を象徴している。それをシンクという額縁または凹状の台座の上に置き、上から見下ろすかたち。山田哲平は部屋の中央上にスピーカーを下向けに設置し、そこから赤い糸を垂らして黒いスリップを吊るしてる。そのうちドクン、ドクンと心臓の鼓動のような振動が聞こえ、スリップを揺らす。渡辺望は白い粒が無数に広がる天体のような写真を展示。よく見ると天体ではなく、道に捨てられたガムとアスファルトの細かい反射光だ。作品は個々におもしろいものだが、窓から霞町交差点や首都高が見える絶好のロケーション(その1室はかつてジュリーこと沢田研二が借りてたそうだ)に勝る作品はないでしょう。

2016/09/18(日)(村田真)

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