artscapeレビュー

2016年10月15日号のレビュー/プレビュー

亜真里男 The situation is under control

会期:2016/09/03~2016/10/01

青山|目黒[東京都]

国会前でデモする人たちを描いた大作絵画を中心に、周囲に同様の写真を数十枚並べている。主題はタイトルを見るまでもなく「反原発」だ。奥の部屋にはタブロー形式の書が並び、正面の大作はおどろおどろしい色彩と筆触で「炉心溶融」と書かれている。これはストレート。亜真里男は本名マリオ・アンブロジウス=Mario A。それを日本風にひっくり返してA・マリオ、それを漢字に直して亜真里男になったそうだ。スイス生まれのドイツ育ちで、ヨーロッパでは国によってエネルギー政策が異なるため、原発には敏感にならざるをえない。日本に来て30年以上たつというが、いまだ新鮮な目で日本をながめている。

2016/09/20(火)(村田真)

横浪修「Assembly & Assembly Snow」

会期:2016/09/02~2016/10/08

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

2010年頃から開始された横浪修の「Assembly」は、5~9人くらいの少女たちの集団を、やや距離を置いて撮影したシリーズである。彼女たちは、全員同じ服装をしており、輪をつくったり、整列したり、行進したりしている。遠いので顔はほぼ見えず、共通の儀式めいたポーズをとっていることもあって、どこか謎めいた印象を与える、個ではなく、集団としてのありように観客の注意を向けようとする、かなり珍しい種類のポートレート作品といえるだろう。
今回のEMON PHOTO GALLERYでの個展では、それに加えて新作の「Assembly Snow」のシリーズが展示されていた。前作が「個々の集まりを俯瞰することで、集合としての強さ」を引き出すことを目指していたのに対して、新作では「個々が重なり、溶け合う事でひとつになる」ことに集中している。少女たちをモデルにしている点では同じだが、雪や氷の上でポーズをとる少女たちが、スローシャッターでブレて写っていることで、より抽象的な色の塊のように見えてくる。伸び縮みする有機的なフォルムと化した少女たちの姿は、「Assembly」シリーズが新たな段階に入ったことを示していた。
とはいえ、このシリーズは、いまのところはセンスのいい「カワイイ」イメージの集合体に留まっている。「Assembly」の表現には、それ以外の、より不気味でビザールな要素を取り入れることもできそうな気がするが、どうだろうか。例えば制服姿の女子高生7人が、川の中で輪になって手をつないでいる作品(「No. M_1」2015)などに、その片鱗が見えるのではないかと思う。

2016/09/21(水)(飯沢耕太郎)

大山エンリコイサム Present Tense

会期:2016/08/20~2016/09/24

タクロウソメヤコンテンポラリーアート[東京都]

グラフィティにインスパイアされたペインティングとドローイングの展示。特にジグザグに蛇行する「クイック・ターン・ストラクチャー」と呼ばれるパターンが多いが、新作では腕をぐるっと回して描いた円をベースにしたペインティングが際立つ。まるでレオナルドの《ウィトルウィウス的人体図》みたいだが、これは腕のストロークを生かしたグラフィティの基本ともいえる。つーことはレオナルドもグラフィティの曾祖父くらいになるのかも。でも大山のそれはポロックとの親近性も強く、とりわけ小さめの黒一色で描かれた(撒かれた?)ドリッピング絵画を思い出す。ただドリッピングは寝かせた画面に直接筆をつけずに絵具を撒くので、純粋な腕のストロークとは違う。その意味ではむしろ、アクション・ペインティング以前の絵筆を使った横長の大作《ミューラル》に近いかもしれない。

2016/09/21(水)(村田真)

彦坂尚嘉 FLOOR EVENT 1970

会期:2016/09/09~2016/10/29

MISA SHIN GALLERY[東京都]

彦坂尚嘉が床にラテックスを撒いた「フロア・イベント」の記録写真展。このイベントは1970年、第1回美共闘レヴォリューション委員会がプロデュースした個展シリーズの準備として実行された。全裸の彦坂とアシスタント(?)の小柳幹夫が8畳間と縁側に缶入りの白いラテックスを撒いて広げたが、それを庭側から定点観測的に撮った写真が10点。これは刀根康尚が撮影したという。ほかに、ラテックスが乾く過程を彦坂自身が室内から撮った写真も8点ある。このラテックスを撒く写真はしばしば見かけるが、アパートでよくこんなことが許されたもんだと不思議に思ってたら、彦坂自身の自宅だったのね。美大出たての前衛美術家はアパート住まいと勝手に思い込んでいたのだ。それはともかく、美共闘の記録写真が商品として流通する時代になったのが驚き。

2016/09/21(水)(村田真)

後藤靖香展 モディリアーニの古釘

会期:2016/09/16~2016/10/02

六本木ヒルズA/Dギャラリー[東京都]

現代の「戦争画」を描く後藤が、藤田嗣治を中心とする画家たちの人間関係を墨一色でマンガチックに描いている。タイトルの「モディリアーニの古釘」は、藤田がパリの下積み時代にモディリアーニからお守りの古釘をもらったら、数年後モディリアーニは亡くなり、藤田は成功を収めたという逸話に由来する。第2次大戦中シンガポールにいた藤田が帰国するとき、ふと死の不安を感じたが、古釘を持っていなかったため、宮本三郎とともに飛行場でカニのようなポーズで古釘を探す場面を描いている。ほかにも小磯良平、鶴田吾郎、梅原龍三郎、松本竣介らが登場。それにしてもいま、30代の女子が戦争および戦争画に関心を抱くのはなぜだろう?

2016/09/21(水)(村田真)

2016年10月15日号の
artscapeレビュー