artscapeレビュー
2009年10月15日号のレビュー/プレビュー
トらやんの大冒険(水都大阪2009)
会期:2009/08/22~2009/10/12
京阪なにわ橋駅アートエリアB1[大阪府]
大阪駅の構内にあるアートスペース、アートエリアB1で《サヴァイヴァル・システム・トレイン》や《タンキング・マシーン》をはじめ、火と水を噴く(という)船《ラッキードラゴン》の模型や新作絵本原画など、ヤノベケンジの作品が展示されている。《ラッキードラゴン》は、水都大阪2009のために制作された最新作で、中之島公園のローズポートや、そのあたりの水辺を回遊している「アート船」。大阪府立中之島図書館や市役所内にもヤノベ作品が展示公開されているのだが、この日はここだけ訪れた。水都大阪2009には数多くのアーティストが参加していて、展示もアートイベントも盛りだくさんなのだが、その数が多すぎるのか情報が少なすぎるのか、その一つひとつの詳細が把握しにくく、それがもったいない。
2009/09/11(金)(酒井千穂)
Archi-TV2009事前ワークショップ
会期:2009/09/11~2009/09/12
建築会館、銀座[東京都]
構造家の佐藤淳氏の指導のもと、素材と身体をテーマに行なわれた二日間のワークショップ。二つの学生グループが、それぞれ木の枝とアルミという二つの素材をもとに、人間の入れる程度の自立したオブジェクトを実際につくった。Archi-TVは、日本建築学会主催の建築文化週間のイベントのひとつである。毎年24時間ワークショップなど、さまざまな企画を関東圏の複数の学生が実行委員会となって企画する。今年のテーマは「1/1のリアル」であり、9月の事前ワークショップはその前哨戦ともいえる。「枝」の方は腰掛けられる部分を含んだドーム形状で、金物や紐などで一切縛ったりせずに、枝のみの絡み合いで外に広がろうとする力に抵抗させた。「アルミ」の方は、薄いアルミ箔をホッチキスでとめながら継ぎ接いでいくことで、通常の建築物ではありえないほど薄い壁による三連ドーム形状を自立させた。素材の構造的可能性を展開する興味深いワークショップだった。
そのあと、銀座に野点空間をつくるというコンペが開かれ、10月4日に1次審査が行なわれた。10月10日、11日には、本番の24時間ワークショップにおいて制作をし、最終審査が行なわれ、10月25日には銀座の銀茶会において、実際に野点空間が実現するという流れである。昨年のArchi-TV 2008が全国のさまざまな学生グループに参加を求めた、地理的な広がりを見せる学生イベントだとすれば、今年は本番の前後に時間的な広がりを見せる学生イベントであるといえる。
イベントURL:http://architv2009.net/
写真提供:ArchiTV2009実行委員会
2009/09/12(土)(松田達)
丸山純子「ZZのはじまり展」
会期:2009/09/01~2009/09/12
実験スペース「ムーンハウス」[神奈川県]
横浜の野毛山に建てられたアーティスト・イン・レジデンス「ムーンハウス」。ガレージのような中庭部分が共用のアトリエになっていて、その上階に4つのコンパクトな住居がある。つまり4組のアーティストが同時に滞在・制作できるスペースなのだ。これは快適、ぼくも住んでみたい。施主は横浜市の匿名希望幹部、設計はオンデザインの西田司氏。そのオープニングのために滞在・制作した丸山さんは、この建築および中庭の形態を読み解いて、石鹸を使った作品を配置した。
2009/09/12(土)(村田真)
パラモデル個展──P級建築士事務所
会期:2009/09/12~2009/10/04
MORI YU GALLERY KYOTO[京都府]
パラモデルの新作展。不動産情報にあるさまざまな間取り図を組み合わせて構成した文字や形の平面作品が中心だった。間取り図を使ったシリーズはすでにパラモデルの作品ではお馴染みの作品(?)というイメージがあり特に新鮮な印象はなかったが、銀色の《大宇宙》には思わず笑ってしまった。水都大阪2009ではどんな作品を見ることができるのか楽しみにしながら帰った。
2009/09/12(土)(酒井千穂)
新建築臨時増刊『日本の建築空間』
発行所:新建築社
発行日:2005年11月9日
新建築社の創刊80周年記念号。『建築20世紀 PART 1』『建築20世紀 PART 2』『現代建築の軌跡』と同じ新建築臨時増刊シリーズ。監修は、青木淳+後藤治+田中禎彦+西和夫+西沢大良。筆者が桑沢デザイン研究所にて今村創平氏とともに受け持つ授業にて、この大著を編集された橋本純氏に、毎年特別講義に来て頂いている関係で、よく読ませていただいている。アーカイブ的な本であるが、繰り返し取り上げる意義は大きいだろう。「日本の建築空間」というタイトルに、この本の核心が込められている。そもそも、寺社仏閣など古典的な日本建築と、西洋化以降の現代建築には大きな断絶があるように扱われており、ブルーノ・タウトが桂離宮にモダニズム的なものを発見するなど一部を除けば、両者を貫く視点はほとんどなかった。しかし本書は、その歴史上の断絶を接続しようとする。これが第一の核心である。第二の核心は、その断絶をつなぐ視点が「空間」であることである。西洋で建築学に「空間」という言葉が初めて学術的に取り入れたのは、19世紀末のA.シュマルゾーといわれる。つまり、建築における「空間」という概念は、比較的新しく、当然日本語ではもっと新しい。西和夫が巻頭で語るよう、日本建築はこれまで外観で語られることが多かった。しかし内部の「空間」に目を付けたときに、はじめて「日本の建築空間」が一貫した流れの中に存在していることが見えてくるだろう。なお、「日本『の』建築空間」というタイトルは、明らかに井上充夫の『日本建築の空間』(1969)を意識したものでもあろう。重点が「日本建築」よりも、「建築空間」そのものに移っているといえるのではないか。
2009/09/13(日)(松田達)