artscapeレビュー

2009年10月15日号のレビュー/プレビュー

Last Sento Painter

会期:2009/08/31~2009/10/03

芹川画廊[東京都]

銭湯の背景画家、丸山清人の作品展。パネルに描いた富士山の絵などが10点あまりと、ライブペインティングで描いたペンキ絵の大作1点の展示。会期は12日までだったが、もしやと思って訪れたらやっていた。ラッキ~。新聞に紹介されて好評を博したため、2週間延長したそうだ(その後さらに延長)。この画廊が入居する銀座の奥野ビルは、戦前にアパートとして建てられ、現在は画廊が多数入ったギャラリービルとして知られるが、芹川画廊が借りてる地下の空間はもともと共同風呂だったところ。なんか話ができすぎだなあ。背景画そのものはキッチュだが、よく見ると空間の把握や色彩感覚は司馬江漢ら江戸の洋風画に近い。意外と日本のヴァナキュラーな美意識を受け継いでいるようだ。

2009/09/14(月)(村田真)

現代女子∞~もの+いろ+かたち~

会期:2009/09/12~2009/09/17

ギャラリーツープラス[東京都]

横浜美術短大の在校生・卒業生8人によるグループ展。現代女子∞(無限大)なんだからもう少しがんばってね。

2009/09/14(月)(村田真)

アキ・ルミ新作展「庭は燃えている」

会期:2009/09/01~2009/09/29

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

アキ・ルミはオノデラユキのパートナー。1990年代からオノデラと一緒にパリに活動の拠点を移し、制作を続けてきた。オノデラの仕事が先に国際的に評価されたので、どうしてもその陰に隠れがちだが、彼の繊細で緻密な作品世界の質は着実に深まりつつあるように見える。
今回のツァイト・フォト・サロンでの展示は、写真やドローイングをスキャニングして細かくつなぎあわせ、大画面に構成した作品が中心。基調になっているのは「庭」のイメージで、唐草模様や奇妙な魔術的な彫刻のようなオリエンタルな図像と、水、植物、稲妻などが絡み合い、図と地とが複雑に入り組んだ、混沌とした空間を形成している。その全体が赤い色で統一されているので、さらに魔術性が強まっているようだ。彼が生み出そうとしている世界像がどんなものなのか、まだ明確に見えてきているわけではない。だが同時に展示されていたドローイング作品も含めて、勝手に増殖していくイマジネーションの広がりを、断面図のように定着しようとする意図が伺える。オノデラユキの作品が、どちらかといえば明快な論理的構築力を感じさせるのに対して、アキ・ルミの方は触覚的で、感情の震えが生々しく露呈している。つまりこの二人は、女性─男性原理、男性─女性原理という転倒した関係性を保って仕事をしているわけで、そのあたりが妙に面白い。

2009/09/15(火)(飯沢耕太郎)

十文字美信「FACES」

会期:2009/09/05~2009/10/10

ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート[東京都]

ベテラン写真家の意欲的な新作展。タイトルが示すように「顔」をテーマにした連作の展示で、どんな「顔写真」を志向しているかというと、「まず『決定的瞬間』から自由であり、ドラマティックな表情よりもっと大切なものがあると思わせる写真、そして何よりも心惹かれるのは、撮ってみなければ結果がわからない、論理的に計算できるものをはるかに凌駕する顔の写真だ」という。その意図を実現するために、おそらくミラーのような仕掛けを使って、若い男女の顔を切断したり、ずらしたりして再結合している。セルフポートレートもあり、こちらは透明プラスチックのマスクをかぶり、顔の一部をブラしている。別に悪くはないが、「論理的に計算できるものをはるかに凌駕する顔の写真」という強度まで達しているかといえば、やや疑問が残った。これからさらに探究を進めていく、その中間報告というところではないだろうか。それよりは、同時に展示されていた十文字のデビュー作、1971年の「首なし」のポートレートの方に凄みを感じる。首から上がフレームの外に切断されているのが、このシリーズの基本コンセプトだが、今回手も切れている(袖やポケットの中に)写真が多いことに気づいた。5枚の展示作品中、4枚が「手なし」だ。

2009/09/15(火)(飯沢耕太郎)

西奥起一 展「見るための手ざわり」

会期:2009/09/15~2009/09/27

neutron[京都府]

高知県在住の作家。住居としている築120年の古民家を改装した際に、そこに積もっていた埃や裏庭に堆積していた落ち葉などを作品化したものが展示されていた。この展覧会を見たら、履いて捨てるもの、という感覚が一気に吹き飛ばされてしまうだろうなあ。立体作品も平面作品もしばらく釘付けになってしまうくらい美しい仕事だった。タイトルにも長い時の経過のなかで起こる物語を想起させるセンスがうかがえて、それらが存在していた場所への想像をめぐらせてしまう。初めて知った作家だったが、またぜひ見たいと感じるステキな展覧会だった。

2009/09/15(火)(酒井千穂)

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