artscapeレビュー
2011年04月15日号のレビュー/プレビュー
プリズム・ラグ──手塚愛子の糸、モネとシニャックの色
会期:2011/03/17~2011/06/12
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
そっか、織物って色糸を何本も織り交ぜてひとつの図を描いていく点で、絵具を混ぜ合わせないで線状に塗っていく印象派の描法と近いんだなあ。ていうか、織物のほうがずっと古いわけだから、印象派が織物に近いというべきかもしれないけど。その両者の近似性を刺繍という手法を使って解き明かしたのが手塚愛子だ。手塚は織物から色糸を丹念にほどき、赤糸や青糸だけをダラリと垂らす。これは、複雑な図柄の織物も単色の糸を縦横に織り込んだものにすぎない、という事実を明かすと同時に、絵画とりわけ点描法を含む印象派の画面がなぜ明るく輝いて見えるのかというナゾにも迫っている。モネをはじめとする印象派の画家たちは絵具を混色すれば彩度が落ちることを知っていたので、たとえば紫がほしいときには青と赤を混ぜないで相互に並べることで、遠くから紫色に見えるようにした。これをさらに徹底して原色を点状に配したのがスーラやシニャックらの点描派であり、もっといっちゃえば、点描派は色彩を画素にまで還元したデジタル画像の先駆者だったともいえなくはない。つまるところ手塚のやってることは単に糸を解きほぐすことではなく、いかに画像というものが成り立っているかを解きほぐすことではないかしら。モネとシニャックのある美術館ならではの好企画。
2011/03/28(月)(村田真)
東日本大震災
[東北]
交通事情がある程度、回復したタイミングで、数日をかけて、各地の被災地をまわった。青葉区をはじめとして、仙台近郊の名取、亘理、仙台港、多賀城、そして岩手から南下し、大船渡、陸前高田、松島、石巻、女川などである。東京でテレビを見ていると、大量の情報があふれているにもかかわらず、「被災地」と「被災者」は画一的に切り取られがちだが、現場を訪れると、想像以上に異なる状況が展開していた。20m越えの津波によって、ビルがゴロゴロ転がっていたり、三階建てのビルの屋上にアクロバティックにクルマがのった風景など、文字通りに想像を絶する町の破壊を目の当たりにして、311以降は、暴力的な表現の現代アートや生ぬるい作品を深い考えもなく発表することが、しばらく難しくなったと思う。
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2011/03/29(火)(五十嵐太郎)
プレビュー:三沢厚彦「Meet The Animals──ホームルーム」展
会期:2011/04/10~2011/05/22
京都芸術センター ギャラリー北・南[京都府]
京都出身の彫刻家、三沢厚彦の京都での初めての個展。三沢作品の動物は、表面の質感、リアルな大きさ、そのユーモラスな様相などの魅力のみならず、親しみや愛らしさといった感情を喚起して見る者を惹きつける。つねに空間と作品の関係性を重視したインスタレーションによって「見ること」を超えた「出会い」の瞬間を体感させるその表現が元小学校であった会場にどのように展開するのか。とても楽しみな展覧会。
2011/04/04(月)(酒井千穂)
プレビュー:中原浩大 展「Kodai Nakahara: paintings」
カタログ&ブックス│2011年4月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
これが写真だ! 2 クロニクル2010
「artscapeレビュー」連載中の写真批評家・飯沢耕太郎氏による、1年間のレビューをまとめた一冊。2010年に本サイトに掲載された約150本のレビューを一挙掲載。2009年からは約50頁のボリューム増。各展覧会ごとに見出し付加し、可読性もアップした。「写真を巡る時代状況のドキュメント 超保存版クロニクル第2弾!」
artscapeレビュー:飯沢耕太郎
http://artscape.jp/report/review/author/1197769_1838.html
西山美なコ/〜いろいき〜壁の向こう側
現代日本文化のキーワード「かわいい」や「ピンク」「装飾性」を全面に押し出した作品を発表し続けるアーテイスト、西山美なコ。「壁画作品」「レフ・ワーク」「〜いろいき〜」「シュガーワーク」「学生時代のピンクの作品」「大人のピンク」「ニットカフェ・イン・マイルーム」……。時間軸を遡行しながら、自身の「西山美なコワールド」を縦横に語った特別講義。好評の神戸芸術工科大学レクチャーシリーズIIの第4弾。[新宿書房サイトより]
KOTOBUKI クリエイティブアクション 2008-2010
2008年から開始された「KOTOBUKI クリエイティブアクション」の三年間の活動をまとめた記録集。KOTOBUKI クリエイティブアクションはアーティストやクリエイターをはじめとしてさまざまな形で文化芸術に携わる活動の担い手たちが日本三大ドヤ(簡易宿泊施設)街のひとつである横浜・寿町エリアを舞台に活動を試みたものです。これまでのリサーチ的な活動から実際の制作、発表まで年間を通して行なわれているプロジェクト記録の他、スタッフやアーティストによる座談会なども収録されています。[寿クリエイティブアクションサイトより]
Booklet 19 視×触──視ること、触れること、感じること
「見ること」はもっとも明晰かつ高いリアリティをもった感覚として、人間の理性と洞察力の比喩として諸感覚の位階の最上位を占め続けてきた。「触れる」ことは「感じる」ことそのものであり、感情にまで直接に達する「感じ」の領域本体を形成していた。あらゆる知覚がバーチャルな次元と結びつかざるを得ない現状にあって、われわれが自分たちにとっての「現実」をどこに置くか、情報化・バーチャル化する世界の中で感情を持つ存在としてどのように生きていけばいいのか、という本質的な問いに取り込むことが求められている。[慶應義塾大学アート・センターサイトより]
ARCHIBOX in JAPAN
南洋堂書店企画の建築トランプ第2弾。今回は、選者に建築史家の倉方俊輔氏、イラストをグラフィックデザイナーのTOKUMA氏が担当。日本の近代建築を中心に、4つの年代と13のビルディングタイプから選ばれています。前回とはまた違った建築セレクトとイラストで楽しみながら建築を学べます。[南洋堂書店サイトより]
足ふみ留めて──アナレクタ1
彗星のように出現して思想・文学界を驚倒せしめた孤高の俊傑、佐々木中。『夜戦と永遠』以前から『切りとれ、あの祈る手を』へ向かう力強く飄然と舞いふみ留められた躍動する思考の足跡。[河出書房新社サイトより]
もうすぐ絶滅するという紙の書物について
老練愛書家2人による書物をめぐる対話。「電子書籍元年」といわれる今こそ読んでおきたい1冊! インターネットが隆盛を極める今日、「紙の書物に未来はあるのか?」との問いに、「ある」と答えて始まる対談形式の文化論。東西の歴史を振り返りつつ、物体・物質としての書物、人類の遺産としての書物、収集対象としての書物などさまざまな角度から「書物とその未来について」、老練な愛書家2人が徹底的に語り合う。博覧強記はとどまるところを知らず、文学、芸術、宗教、歴史と、またヨーロッパから中東、インド、中国、南米へとさまざまな時空を駆けめぐる。[阪急コミュニケーションズサイトより]
2011/04/15(金)(artscape編集部)