2021年10月15日号
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artscapeレビュー

今岡昌子「トポフィリア 九州力の原像へ」

2012年03月15日号

会期:2012/02/01~2012/02/14

銀座ニコンサロン[東京都]

このところ、国際交流基金の企画で、イタリア・ローマと中国・北京を皮切りに2012年3月から世界中を巡回する「東北──風土・人・くらし」展の監修・構成の仕事をしていた。そのためもあるのだろう。2008年から熊本県芦北町に住みついた今岡昌子が撮影した、この「トポフィリア 九州力の原像へ」を見たとき、東北の写真との風合いや手触りの違いを強く感じた。小島一郎や内藤正敏が撮影した、荒ぶる「縄文の力」が全面にあふれ出ている東北の写真群と比較すると、今岡の写真に写っている九州の「風土・人・くらし」は、なんとも穏やかで優しげに見える。祭礼や民間儀礼の写真もたくさんあるのだが、そこに写っている人々の表情に笑みがたたえられているのが印象的だ。鬼神に取り憑かれたような、東北の祭りの情景とはまったく対照的なのだ。逆に言えば、それは今岡がまさに「九州力の原像」をしっかりと捉えているということでもある。日本文化のルーツであり、本流でもある九州の地には、東北とは自ずと違った空気感が流れているということであり、今岡はそれに鋭敏に反応しているのだ。
彼女の撮影の仕方も、そのたおやかな九州の土地柄に触発されているのではないだろうか。画面は傾き、被写体は微妙に揺れ動き、ブレやボケも自然体で入り込んでいる。展示された44点の作品には、モノクロームに加えて3分の1ほどカラー作品も含まれているのだが、そのトーンもパステルカラー調の柔らかいものだ。九州の風土に備わっている女性性が、地理学者のイーフー・トゥアンが唱える「トポフィリア」(場所への愛)という「情緒的なつながりを探求」する概念によって、うまくすくい取られていると言えるだろう。まだ中間報告の段階だと思うが、撮影の作業がさらに深められれば、面白いシリーズに育っていきそうな予感がする。

2012/02/03(金)(飯沢耕太郎)

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