2021年10月15日号
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artscapeレビュー

林田摂子「島について」

2012年03月15日号

会期:2012/02/20~2012/03/04

蒼穹舍[東京都]

以前本欄でも紹介したことがあるが、林田摂子の写真集『森をさがす』(ROCKET)はいい仕事だった。写真の一枚一枚に深みがあるだけではなく、それらが連なってほんのりと上品な(だが、どこか血の匂いのする)物語を編み上げていく。そんな彼女の才能が、今回の「島について」でもしっかりと発揮されていた。
撮影場所は島根県の沖合に浮かぶ隠岐島。林田は小学校の社会科の授業のときに地図を見て、隠岐や島前、島後といった地名になぜか強く惹かれるものがあったのだという。20歳のころにたまたま知り合った友人が、まさにその隠岐・西ノ島の出身だったことをきっかけに島を訪れることになった。その旅の場面を例によって淡々と撮影し、写真の連なりとして提示している。とりたてて、特別なものが写っているわけではないが、何度か姿を現わす黒猫、友人の実家の台所で料理される魚の赤い切り身、ブレた指先でさし示される遠い森など、心を騒がせ、どこかに連れていかれるような感触を持つ写真が、さりげなく挟み込まれている。このあたりの写真構成とストーリーテリングのうまさが、林田の真骨頂と言えそうだ。もう少し撮り込んでいけば、「森をさがす」のように、緻密に組み上げられた作品として完成していくのではないだろうか。なお、東京・中目黒のPOETIC SCAPEではその「森をさがす」の写真展(2月14日~3月17日)も開催されている。

2012/02/29(水)(飯沢耕太郎)

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