2021年10月15日号
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artscapeレビュー

杉本博司──はじまりの記憶(試写)

2012年03月15日号

会期:2012/03/31

渋谷シアター・イメージフォーラム[東京都]

手づくりの放電装置で印画紙の上に雷を発生させた放電写真、たしか鮭とブロッコリーがおかずの自作弁当、けっこうプリミティヴな手描きのアイディアスケッチ……。試写を見てから3週間後の現在、記憶に残っているのはこの3つぐらい。写真の可能性を限界まで追いつめ、近年は能や建築にまで触手を伸ばす希代のコスモポリタン杉本博司を撮ったドキュメンタリー映画にしては、やけに印象が薄い。それはおそらく、この映画に撮られていることはだいたい知っていたし、それをなんのてらいもなくストレートに撮っているので記憶に引っかからなかったからだろう。逆の見方をすると、記憶に残っているこの3つにはこれまで知らなかった杉本の素顔や、杉本らしくない意外な側面が映し出されているのかもしれない。たしかに仕事場に弁当持参というのは杉本らしくない意外な素顔だが、では放電装置とアイディアスケッチはどうだろう。たぶんこの3つに共通するのは「手づくり」ということではないかしら。杉本の作品や展覧会を見て驚くのは、一分のスキもなくきっちり完璧に仕上げられていて、まるで手の痕跡が感じられないこと。だからこの映画のように杉本の手づくり感を見せられると、わずかながらも心がざわめくのだ。おそらく杉本の完璧な仕上がりを支えているのは、こうした職人的な手づくりの積み重ねなのかもしれない。この映画自体も、よくも悪くも手づくり感にあふれている。

2012/0/13(月)(村田真)

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