artscapeレビュー
第4回恵比寿映像祭「映像のフィジカル」
2012年03月15日号
会期:2012/02/10~2012/02/26
東京都写真美術館ほか[東京都]
毎年2月ごろに開催されている恵比寿映像祭も4回目を迎えた。年々規模を拡大し、関連企画や恵比寿周辺のギャラリー、文化施設などでの連携展示の数も増えているので、とても全部は見切れない。特に僕のように写真(静止画像)を中心にフォローしている者にとって、映像作品の展示やインスタレーションを見ることは、正直しんどい。タイムリミットは3分くらいで、それ以上長い作品だと腰が落ちつかなくなってしまうのだ。
だが、東京都写真美術館を全館(3階、2階、地下)使った展示をざっと回ってみて、ここ数年の間に映像作品をめぐる環境がずいぶん違っていることに気づかされた。今年の出品作家はマライケ・ファン・ヴァルメルダム、ヨハン・ルーフ、スッティラット・スパパリンヤ、ウィリアム・ケントリッジ、サラ・モリス、前沢知子、伊藤隆介、東京シネマ(岡田桑三、小林米作、吉見泰ほか)、ヂョン・ヨンドゥ、大木裕之、ユリウス・フォン・ビスマルク、カロリン・ツニッス&ブラム・スナイダースSitd、ユェン・グァンミン、鈴木了二。多種多様としか言いようのない取り合わせだが、近年のデジタル・メディアと画像モニターの進化によって、視覚経験の拡張を簡単に、しかも驚くほど効果的におこなうことができるようになっていることがよくわかった。トリッキーな視点の移動、切り替えを映像の中にダイナミックに取り入れていくマライケ・ファン・ヴァルメルダムやユェン・グァンミンの作品はその典型と言える。
だが一方で、画像処理の高度化は逆に視覚的な印象の均質化につながることも多い。そこで今回の映像祭のテーマである「フィジカル」=物質性へのこだわりが注目されるようになるのだろう。伊藤隆介やウィリアム・ケントリッジの素朴で手触り感のある映像が、むしろ記憶に食い込んでいく力を発揮することになるのだ。とても興味深く見たのは東京シネマが製作した1960年代の科学映画。その近未来を志向する映像は当時としては最先端だったはずだが、今見るとかなりレトロっぽく、それが逆に新鮮な印象を与える。ちなみに東京シネマのプロデューサーの岡田桑三は戦前に名取洋之助、木村伊兵衛らと日本工房を設立したり、東方社から海外向け軍事宣伝雑誌『FRONT』を発行したりしていた人物である。彼の卓越したヴィジュアル化の能力が、戦後になって科学映画というジャンルで花開いていたのが面白く、意外でもあった。
2012/02/16(木)(飯沢耕太郎)