artscapeレビュー

原芳市「光あるうちに」

2012年03月15日号

会期:2012/02/15~2012/02/28

銀座ニコンサロン[東京都]

原芳市から送られてきた写真集『光あるうちに』(蒼穹舍)に添えられていた手紙に「写真は60過ぎた頃から面白くなるような気がします」とあった。これは実感としてよくわかる気がする。原のように生と写真とが不即不離のものとして一体化している写真家にとっては、人生経験の深まりが写真を熟成させていくのだろう。彼は1948年の生まれだから、今まさに写真家としての実りの時期を迎えているということだ。それが今回の展覧会にもよく表われていた。
「光あるうちに」というタイトルによる展示は、2010年のサードディストリクトギャラリーでの個展以来3回目になる。そのたびに、6×6判の写真に写し出された光景が、いきいきと精彩を放ち、輝きを増しているように感じる。展覧会場の最初のパートにヨハネ黙示録の「暗闇に追いつかれないように、光のあるうちに歩きなさい」という言葉が、最後に古今和歌集の「世の中は夢かうつヽか うつヽとも夢とも知らず ありてなければ」という歌が掲げられていた。この二つのメッセージは、原の写真の世界を言い尽くしている。つまり光と闇、生と死、夢と現の間を、できる限り大きく深く、幅をとって見つめ続けようという覚悟が、そこからくっきりと浮かび上がってくるのだ。
展示作品に、裸の女性の写真がかなり多く含まれていることに、大方の観客の方々は戸惑うのではないだろうか。原は若いころから、仕事としてストリッパー、ヌードモデル、SMモデルなどを撮影し続けてきた。『僕のジプシー・ローズ』、『ストリッパー図鑑』などの著書もある。彼にとって、体を張って仕事をしている女性たちを撮ることは特別な意味を持っているように思える。同情とも優越感とも違う、独特の角度から撮られた彼女たちの姿から、哀感と慈しみが混じりあった、なんとも言いようのないオーラが滲み出してきている。

2012/02/17(金)(飯沢耕太郎)

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