artscapeレビュー
栗原滋「螺旋 沖縄1973-1992 OKINAWA」
2012年03月15日号
会期:2012/02/06~2012/02/19
蒼穹舎[東京都]
横浜在住の栗原滋は都市の路上や街並みを鋭角的に切り出してくる作品を発表してきた。その彼は1973年、22歳のときから沖縄に住みつき、93年に個人的な事情で島を出るまで20年あまりを過ごした。その間に撮りためた写真をあらためてまとめ直したのが「螺旋 沖縄1973-1993」のシリーズであり、蒼穹舍から同名の写真集も刊行されている。
こうして見ると、本土復帰直後の1970年代の沖縄が、写真家にとっていかに魅力的で撮影の意欲をそそる場所であったことがよくわかる。島全体から立ちのぼってくる生命力の波動、それを全身で受けとめ、ふたたび発散している人々のいきいきとした表情は、同時期の日本の他の土地には見られないものだ。栗原のカメラワークは、とりわけ群れ集う人々に向けられるときに精彩を発揮しているように思える。一塊であるように見えて、一人ひとりの姿を眼で追うと、そこには多様な個がひしめき合い、それぞれのやり方で自分自身を“表現”していることがわかる。だが写真集の後半部、1980~90年代の写真になると、「既視感と混沌とが併存する光景」が少しずつ秩序づけられ、ありきたりの都市の眺めに収束していく様子がうかがえるようになる。栗原はその過程も冷静に記録しているのだが、被写体との距離感がやや遠のきつつあるようにも感じるのだ。栗原が私淑していたという平敷兼七のような「内なる沖縄」からの視点ではなく、かといって本土から訪れて、撮影しては帰っていくような一過性の仕事でもない、独特の角度からの沖縄へのアプローチと言えるのではないだろうか。
2012/02/06(月)(飯沢耕太郎)